07.ナオリ草2
ダークウルフ。
8階のような低層階ではまず現れない魔物だが、片目が潰れている。
本来の生息域では生きていけず、この低層階に逃れてきた弱った個体。
冒険者達はそう、解釈した。
群れを成して最大4体で行動するダークウルフを1体だけ相手にするのは、「おいしい」戦闘だった。
逃す訳にはいかない。
早速戦闘開始だ。
だが素早さが自慢で即座に攻撃を仕掛けてくるはずのダークウルフが何故か動かず、首の後ろからみよーんと半透明のピンク色した腕が伸びて、ダークウルフに何かを飲ませた。
瓶に入った液体だ。
ダークウルフはそれを飲み込むと「ぐるる」と苦悶の声を上げる。
「潰れた目といい、何かの生き物に寄生されているみたいだな」
冒険者達には僥倖だ。
レベルが10以上高いダークウルフは4人で戦っても十分油断出来ない強敵なのだ。
だが、これなら勝てそうだ。
「こちらから行くぞ!」
実際は。
「苦ぇ!」
「えっ、そうなんだ、いや、我慢しようよー、そのくらい」
「お前も飲んでみろよ!めちゃくちゃマズいぞ」
「シャドウ君、来るよ!」
「分かってる。作戦開始だ」
ダークウルフは剣士の攻撃をしなやかな動きで躱す。そして体を低くすると飛びかかるのではなく、そのまま4人の間を縫って駆け抜けた。
攻撃に備えて身構えていた4人は対処出来ずに逃す。
ダークウルフはそのまま角を曲がって去って行く。
「追うぞ」
4人もあわててダークウルフを追いかける。
ダークウルフが消えた方角は袋小路になっている。
確か、花畑があるだけだ。
ミヨは目的地の花畑に辿り着くとシャドウの背中から飛び降りた。
「沈黙草、沈黙草、あった」
早速食べてポーションを作る。
その間に冒険者達がシャドウを追いかけてくる。
「待て」
「とうとう追い詰めたぞ」
追い詰められて危機に陥ったはずのダークウルフはニヤリと笑った。
「お前スゴイな。この薬。いつもより1.5倍は早いし多分、強さもそのくらいだ」
「モグモグ混ぜ混ぜ……って何か言った?シャドウ君」
「勝てる気しかしないって言った!」
言うや否や、シャドウは冒険者達に向かって行く。
「あーあ、計画と違うのに、戦闘始めちゃったよ。まあいいか」
シャドウは、冒険者達を激しく攻撃していく。
前衛の剣士と斧戦士はもうフラフラだ。
だが、後衛には回復魔法師と魔道士が控えている。
魔道士の火魔法が一番の脅威だが、前衛の2人が後衛を守って攻撃が届かない。
前衛を倒すしかないが、回復魔法師が前衛2人の回復するため、押してはいるが倒しきれていない。
粘り強く、なかなかバランスのいいパーティーだ。
シャドウは苛立たしさのあまり、唸った。
「くそっ、埒が明かない」
「あー、また怪我しちゃった」
背中にぷるんと小さな生き物が飛び乗る。
何か振りかけられて、途端に傷が癒える。
「危ないだろう。来るなよ」
「大丈夫。私も強化薬飲んだから。それより作戦決行ね」
「仕方ないな」
ミヨとシャドウの計画は、花畑で状態異常沈黙のポーションを作ることだ。
それを、シャドウが前衛の2人を引きつけている間に、ミヨが後衛2人の魔法使いにかけて魔法を封じ無力化する。
「きゃっ!何するの、このスライム!」
まずは回復魔法師。
「この、スライムがなんてことしやがる!」
次は魔道士。
上手く薬はかけられたが、魔道士の杖がミヨに向かって振り下ろされる。
寸前で、シャドウがミヨの首根っこをくわえて回収した。
「大丈夫か?」
「あー、怖かった。ありがとう、シャドウ君」
「いや、どうってことない」
戦闘はその後も続いたが、もう4人はシャドウにかなりやられている。
後衛の2人は必死で沈黙解除しようとしたり、手持ちのポーションで前衛2人の傷を癒やして立て直そうとするが、シャドウの方が上手だ。
全員の体力が後二割というところで、剣士が叫んだ。
「降参だ」
すると、転移魔法が展開し、4人の体が輝き消えた。
「『フェアプリ』と一緒だ」
降参すると、所持金の30%のゴールドと引き換えに地上に戻れる。
全滅は体力が0になるギリギリまで戦闘が継続出来るが、50%のゴールドが引き換えになる。
なかなか厳しい世界だ。
「でも良かったよ。元人間として人間殺すとかヘビーなことしたくないし……」
ミヨは胸を撫で下ろした。
「お、レベル上がった」
「あ、私も」
シャドウはレベル55になった!
ミヨはレベル30(MAX)になった!
「え、私、MAX?」