05.ダークウルフのシャドウ
「怖いよー」
あわてて巣穴に入り、振り返ると、
「きゃー!」
大きな口がミヨを引っ張り出そうとしている。
「嫌ー!」
レベル12になったミヨの体はレベル1だった時に比べて倍以上大きい。
お気に入りの隠れ穴は既にギリギリサイズなのだ。
それでもミヨは牙から少しでも逃れられるよう、体を奥に押し込む。
「来ないでー!」
「おい、お前が話しているのか」
と声が聞こえた。
「えっ」
顔を上げると、ミヨのおしりを囓った大きな口のオオカミから声が聞こえる。
「お前、スライムだろう、なんで話せる?ピンクは話せるのか?」
「えっ、もしかして、オオカミさんが話しているの?」
オオカミは鼻にしわを寄せる。
「オオカミじゃない。俺はダークウルフだ」
「ダークウルフ……」
ダークウルフは強い。具体的には地下24階のボス敵で27階のザコ敵だ。
100階ダンジョンはゲーム中では30階までしかいけないので、後半かなり苦しめられた記憶がある。
「おい、その薬を寄越せ」
「えっ、薬?」
ミヨは薬の瓶を三つ、飲み込んでいる。
ぷるんぷるんのゼリーの体に当然ポケットはないので、こうして大事なものは肌身離さず持っているのだ。
「お前の腹の薬を寄越せば、食べないでやる。さっさと出てこい」
「本当にミヨのこと食べない?約束する?」
「するから出てこい」
と言うと、ダークウルフは下がる。
ミヨはいつでもダッシュで戻れように、おそるおそる穴から這い出る。
「あ、ひどい怪我」
先程までは分からなかったが、ダークウルフはひどい怪我をしていた。
片足は血まみれでぷらんとしているし、お腹も内蔵ぽい肉がはみ出ている。そして片目が潰れている。
「ひぇぇ。痛そうだから早く治って」
ミヨは目をつぶって中級ポーションをかけまくった。
ダークウルフのHPMPが回復した!
***
ダークウルフは中級ポーション三つを使ってようやく全回復したが、片目は何故か治らない。
「おい、お前」
「お前じゃなくてミヨです」
「お前、目が治らない。どうすればいい?」
「どうすれば……って多分だけど、それは呪い毒攻撃されたからだよ。放って置いたらゾンビになっちゃう」
「呪い毒攻撃?何だそれはどうすれば治る?」
「うーん、呪い毒イベントは確か……」
呪い毒攻撃は『フェアプリ』では中盤に出てくるイベントだ。
「ヒロインの回復魔法が効かなくてピンチ!ダンジョンの10階でナオリ草って草を探して……」
「何だか分からないが、10階に行けばいいのか?」
「う、うん」
「お前はその薬が作れるのか?」
「多分、だけど」
「よし、背中に乗れ。下の階に行くぞ」
「でも門番さんが居るよ。どうするの」
「あんなの一吠えしたら逃げていったぞ、俺は自由に出入り出来るぜ」
「うわぁ、スゴイ。ミヨも言ってみたいよ。『あんなの一吠えしたら逃げていったぞ』って」
「スライムは無理だろう」
「ですね」
門番はダークウルフ見ると吠える前にあわてて逃げ出した。
「すごい、ダークウルフさん」
「シャドウだ」
「シャドウ君はどうしてこんな怪我をしたの?」
「ああ、退屈だから外に遊びに行ったんだ」
「外かあ」
ヒロインとか悪役令嬢とか王子様とかいる世界か……。
遠い。
遠すぎる。
とミヨは思った。
『もう次元の壁より遠い気がするよ……』
「それで牛を襲って食ってたら騎士団とかいうのにいきなり襲われて目を矢で射られて体切り刻まれてスゲェ痛かった」
「被害者面しているけど、それはシャドウ君が悪いよね」
「いや、悪くないだろう。俺、牛襲っただけだぞ」
「それが駄目なんだよ……」




