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26.語られなかった物語の終わり

 許せなかった。

 幸か不幸か魔核は完全な形で残っている。魔核は魔物の魂だ。

 それさえあれば、再生は可能かも知れなかった。

 いや、必ず再生させる。

 そのためにペンダントを手に入れようとしたが、少女が聖女だった。

 実際には聖女の力は、ペンダントに篭もったスライムの力だったが、神ではないシャドウには分からなかった。

 聖なる力は、魔物の最大の弱点だ。

 慎重にせねばならない。シャドウは少女に取り入った。

 学園に入り、友人となり、嘆きの壁が力を持ち嘆きの魔女となった時も協力した。


 内心でせせら笑いながら、協力した。

 馬鹿馬鹿しい茶番だった。

 嘆きの壁はスライムを失ったシャドウの悲しみを吸った。

 元を正せば、少女がスライムを殺さなければ生まれない悲しみだった。悲しみはいくつかの人間の嘆きも合わさった。

 嘆きの魔女となった人間の娘も、そうだ。婚約者だった王子を聖女に奪われた娘が怒りと悲しみのあまり嘆きの魔女になった。

 だが嘆きの魔女が強ければ強いほど、少女はシャドウを頼りにした。

『愛』を育み、信用させ、シャドウはようやく少女を光の力が届きにくい魔界へと連れ出した。

 そこで、少女からペンダントを奪い、少女を殺した。

 そして魔界の秘術を使い、シャドウはスライムを蘇らせようとした。

 だが、スライムは生き返らなかった。

 シャドウは理由が分からず混乱し、絶望した。



「スライムはその時、既に別の生を得て転生していたのだ。人間の少女ミヨに」

 神であるゼルには見通すことが出来る遙か時空の彼方の出来事も、シャドウには分からない。

 そんなシャドウの怒りは、人界に向いた。

「聖女を殺された人界と魔王のつがいを殺された魔界との間で戦争が起こり、世界が滅びかけた。結局は我々神が介入したが、犠牲は大きかった。そこで我々は、もう一度、時を戻すことにしたのだ」



「元に戻すと言っても一度起こったこと全てをなかったことには出来ない。一番厄介だったのは、ミヨだ。彼女は別の世界で既に別の人生を歩んでいた。別の世界では当然この時空とは違う時間軸が流れている。それをむりやり魂だけこちら側に巻き取った時に、ミヨとしての記憶が残った」


「ミヨは、元のスライムなのですか?」

 シャドウは思わず、尋ねた。

 何一つ、思い出せない。巻き戻った今となってはもうなかったことだ。

 だが胸が疼いて止まない。


「消去した歴史は現実ではなくなり、記憶の残骸となって時空を漂った。いずれ消えてなくなるものだが、たまたま異世界の人間の夢に入り込み、それを題材に架空の物語が作られることもある。ミヨの遊んだゲームもそうしたケースだろうな。だがミヨがそのゲームにのめり込んだのは、偶然ではない。スライムがマモーを覚えていたんだろう」


「ミヨは、俺を覚えていた?」

「おそらくな。ここまで教えた理由は分かるだろう、マクシミリアン。また人界と戦争を起こされては困るのだ。ミヨを守るのは構わないが、まだ罪を犯してないあの娘と少年に手出しはするな」

 ゼルはシャドウに釘を刺す。

「ミヨに何かしたら、殺します」

 シャドウは断言した。

「それは構わぬ。つがいを守るのは魔物の本性だ。だが、魔王となったお前は自ずと制約があるはずだ。それを忘れるな。では試練は果たされた。人界に行くも行かぬも後は好きにするがいい」

 シャドウは驚いてゼルを見上げた。

「えっ?解除ですか?俺は人界に行っていいのですか?」

「お前が魔王になるまでの足枷だ。力を付けたお前は、すぐにでもあの娘と少年を殺しに行っただろう」

 ゼルの指摘通りだ。

 人間の街に行ったなら、ミヨには内緒であの娘と少年を探すつもりだった。

「マクシミリアン、魔王の責務を忘れるな。魔王は魔界に住まうあまた生き物のためにいる。その力で何を成すかは、お前自身が選ぶがいい」


 そう言うと、神は姿を消した。




 次回は最終回、『ミヨちゃん、憧れのマモーに会う』です!


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