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23.闇の試練

 最後の試練は闇の試練だ。

 シャドウは試練の門をくぐると、そこは真っ暗闇だった。闇の中に、一枚の鏡が置かれている。

 鏡の中から声が聞こえる。

 威厳はあるが、まだ若い男の声だった。

「来たか、シャドウ」

 シャドウは油断なく鏡を見据える。

「…………」

「やはり今度のお前も来たか。では試練を申し渡す」

 ――今度のお前?

 シャドウは鏡の言葉を不審に思うが、鏡はそんなシャドウを気にすることなく、言葉を続ける。

「闇の試練はお前は人界に手出しをしてはならない。以上。もう帰るがよい」



 シャドウは面食らった。

 思いもしなかった試練に、我に返るのに数秒かかったが、鏡に向かって吠える。

「待て。ミヨと約束したんだ。俺はあいつと人間の街に行く」

 学園や王城を見に行くと約束している。

 人間の街は遠目でもゴミゴミしている。到底楽しいところとは思えないが、ミヨは楽しみにしている。

 ミヨと一緒なら、きっと楽しい。

 絶対行くんだとシャドウは決めていた。


 だが鏡は冷ややかに言った。

「何を言おうと、これが試練だ。もう成立した。さあ、己の姿を見るがいい」

 シャドウの姿が鏡に映る。

 そこには銀色に輝く狼の姿があった。

「月を食らう魔狼ハティだ。おめでとう、シャドウ」

 鏡はまったく感情のこもらない声でお祝いの言葉を吐く。


「嫌だ!元に戻せ」

「それは出来ない話だ。お前はあの娘とあの少年を殺す気だろう」

「うっ……」

 図星を突かれたシャドウは思わず呻いた。

 あの娘とあの少年。

 名前も知らないが、ミヨがヒロインと魔道士君と呼ぶ奴らだ。

「……ミヨがそいつらを怖がっている」


「だが、何もしていない」

 鏡が言うのは事実だ。全てはまだ起こっていない未来の話だ。

 だがシャドウは唸って言い返す。

「何かされてからでは遅い!」

 鏡は少しも動じずに言った。

「そうだが、それでも何もしてない間は殺してはいけない。これがやり直しの条件なのだ」

「やり直し?」

「そうだ。完全には元に戻せなかった。よりにもよってあのスライムが記憶を持ったまま元に戻った」

「スライムってミヨのことか?」

 鏡は何を知っているんだろうか?

 シャドウはじっと鏡を見つめるが、自分の姿が映るだけだ。


 鏡のシャドウの首元がキラリと光る。

 ミヨが『乙女の祈り』に大胆にもブスッと穴を開けて丈夫な魔紐を通しネックレスを作ったのだ。

 そのネックレスがキラリと輝く。


 鏡もそのネックレスを『見た』気がした。

「……()()ももうあんなことはごめんだ。あのスライムを再び殺させたいわけではない」

「再び、殺すってやっぱりミヨは危ないのか?」

「そうではない。だが、心配ならお前が守れば良い。考えろ。そして知りたければ魔王となり神の間に来い。我が名は闇の神ゼル」




「シャドウ君……シャドウ君……」

 気付くとシャドウは試練の門の前に倒れていた。

 ミヨがシャドウの体を揺すっている。

「シャドウ君?大丈夫?シャドウ君だよね」

「ミヨ」

「ああ、良かった。大丈夫?」

「ああ」

 ミヨはぴょんと跳ねた。

「クラスチェンジ、したんだね」

「おう」

「スゴい。銀色。カッコイイ!」

 とミヨは喜んでピョンピョン跳ねる。我が事のように祝福している。


 そんなミヨに言わなければならないのは、辛い。

「あのな、ミヨ、俺、人間の街に一緒に行けなくなった」

「え、そうなの?」

「ああ、それからもっと強くならないといけない」

「うん、下の階に行くんでしょう?じゃあ、私も」

 シャドウはゆっくりと、だがキッパリ首を横に振った。

「ミヨは、もう連れて行けない。もう危険すぎる」


 ミヨは、黙り込んだ。

 やがて小さい声で頷いた。

「……うん、分かってる……」


「ここでお別れだ」

「……どうしても?」

「どうしても。でも、何かあったらドルイド爺さんのところに行く」

「薬、なくて平気?」

「平気じゃないから、薬がなくなったらミヨのところに帰る」

「じゃあまた会える?」

「会える。会えるから、待ってろよ」

 シャドウの言葉に、ミヨは大きく頷いた。

 涙は見せずにニッコリ笑って言った。

「うん、私、待ってるからね」





 ***


 それから、ミヨの生活は一変した。

 ミヨはあの日、役に立ちそうな薬を沢山作って、シャドウに渡した。

 シャドウも魔法ポシェットを持っている。ザードがシャドウ用に小さく戦闘の邪魔にはならないサイズに作った特注品だ。

 それから、二人は別れた。

 ミヨは転移魔法でドルイド爺さんのところに、シャドウはさらに下の階へと向かった。


 ドルイド爺さんは戻ったミヨを見て、とても喜んだ。

 下の階に降りてもう半年も経っていた。死んでしまったのではないかとハラハラ気を揉みながら帰りを待っていたのだ。

 ミヨは、いつかシャドウが戻る時用にせっせとポーションを作る。呪文符の作り方も覚えた。

 シャドウに借りたお金を返さないといけないのでいっぱい作る。

 材料は時々来るヘザーや45階の魔道士協会に転移魔法で行って買う。

「ミヨ!」

 二ヶ月くらいすると、シャドウが戻ってきた。

「シャドウ君!」

 月を食べるという魔狼ハティは巨大だ。まだレベル35らしいが、もう大型の馬より大きくそのままの姿ではドルイド爺さんの家の中に入れないくらいだ。

「ううっ、無事で良かったよ」

 ミヨは喜びのあまり、シャドウの顔に張り付いた。

「当たり前だろう」


 シャドウはミヨにいっぱいお土産をくれて、ミヨはシャドウに役に立ちそうな薬や呪文符をいっぱい渡して、また別れる。

 そうして一年が過ぎた頃。

「シャドウ君!」

 その日、帰ってきたシャドウはヨレヨレの血まみれだった。

「ドラゴンに会った。勝った!」

 とシャドウは誇らしげだった。


「えっ、殺しちゃったの?」

「しないぞ。あいつ、降参したからな」

「ああ、良かった」

 ミヨは胸を撫で下ろす。

「それで、ずっと一緒に居られるようになった」

「えっ、本当?」

「本当だ。ミヨと一緒だ。また冒険しに行こう」

 魅力的なお誘いだ。

 ミヨはゴクッと息を呑んだが、心配なことがある。

「でも、シャドウ君はもっと強くなりたいんでしょう?」

「ああ、時々は一人で下の階に行くぞ。その時はドルイド爺さんのところに居ろよ。でもそれ以外は一緒だ」

「うん!」

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