21.目指すは試練の門
ヘザーがポンと両手を打った。
「そうそう、忘れてたわ。魔界魔道士協会の大特典。協会メンバーは一度行ったことのある協会の支部に転移が出来るようになるの。次の支部は45階よ」
「転移……うん、私、後で覚えるみたい!」とミヨ。
転移魔法はレベル55で覚える魔法だ。
「ここに来れる呪文符を渡しておくわ。ピンチになったらこれで帰ってきなさいね」
「ありがとう、ヘザーさん、私もドルイド先生のところに行く呪文符あげる」
「あら、ありがとう」
ヘザーはじっと呪文符を見つめた。
「ねえ、そのドルイドさん?ってどんな人?」
「いい人だよ、ね、シャドウ君」
「頭いいハゲの親父だ。それより防具って何売ってくれるんだ?」
とシャドウはヘザーに真面目な声で聞く。
「ハゲかぁ……薄いよりいっそいいかしら?あ、防具ね。うーん、色々よ。ドワーフにお願いして、一から特注で作ることももちろん可能。何が欲しいの?」
「スライム用の防具って何かあるのか?」
ヘザーは意味深に微笑んだ。
「ああ、そういうこと?あるわよ、ミヨちゃんには透明カッパがいいわね。身かわし効果(小)と身隠し効果(小)付きで防御力は+50。2万マネーよ」
「シャドウ君、シャドウ君」
あわててミヨはむにゅんと腕を出して、シャドウの腕を引っ張る。
「私、お金ないよ」
「俺が買うんだよ」
「でも……」
シャドウはキッパリ言った。
「買わないと、これから先は連れて行けない」
「そうよー、彼氏のプレゼントはありがとうって貰っておきなさい」
ヘザーはたしなめる。
魔道士スライムはスライムの中ではもう中級種だが、所詮はスライム。脆い防御力は一番の弱点だ。
「かっ、彼氏じゃないよ!」
ミヨは驚いて否定した。
シャドウはちょっと傷ついた。
「あら違うの?でも彼の言う通りだわ。ダンジョンは厳しい世界よ」
「でも、いいの?シャドウ君」
「いい。着ないと連れて行けない」
「うん、分かった。ありがとう」
ミヨは透明カッパを手に入れた!
***
「ヘザーさん、何か買い取ってくれるものある?」
ミヨはごそごそ魔法ポシェットの中身を取り出す。
「あら、このポーション、ミヨちゃんが作ったの?いい腕ね。魔力ポーションは全部貰うわ。材料のベリーもね。裏手の森にベリーが生えてるんだけど、ちょっと強い魔物がいて私一人では取りに行けないの。あなたたちなら楽勝だから補充はそこですればいいわ。アイテムもいいのがあるわね。まあ、新鮮な人食いタランチュラの死体にマージガエル。それに腐ったゾンビ肉まで」
ヘザーは色々買い取ってくれた。
占めて2000マネーだ。
「はい、シャドウ君」
とそれをミヨはシャドウに渡す。
「別にいいのに……」
とシャドウは言ったが、ミヨがグイグイ押し付けるので仕方なく受け取った。
「じゃあ、また来なさい。気を付けてね」
ヘザーに見送られ、二人は魔界魔道士協会を後にする。
目指すは試練の門がある49階。
さすがにそれは遠すぎるが、行けるところまで行ってみよう。
二人はそう決めて下層階を降りていく。
敵はどんどん強くなる。
シャドウもミヨも知らない不思議なダンジョンを彷徨いながら、二人は冒険の旅を続けた。
最終目的地は49階だが、途中の目的地、46階魔法使いの塔にたどり着いた時、ミヨはレベルMAXのレベル99、シャドウはレベル60になっていた。
途中の39階でサンキューの洞窟を見つけた二人は、ラッキーゴールデンコウモリの群れに遭遇してお得に経験値を獲得出来たのだ。
「うーん、なんで駄目だったんだろう?」
ミヨ達は、45階にある魔界魔道士協会支部を訪ねていた。
その時、次のミヨのクラスチェンジは大魔導士スライムだと教えて貰った。
魔法使いの塔のてっぺんにある『知恵の書』を読むとたちまちあなたも大魔導士スライムにクラスチェンジ!
そう聞いてワクワクしながら書を読むミヨだったが。
ミヨは賢さが5アップした!
……だけだった。
「どれ」「俺も」「読む」
とシャドウも賢さが5アップした!
「うーんどうしてなんだろう」
首をひねるミヨにシャドウは提案した。
「一回」「ドルイド爺さんのところに」「戻ってみるか?」
ミヨは首を横に振る。
「ううん、せっかくここまで来たから、試練の門まで行ってみようよ。それにクラスチェンジの書に書かれているアイテムはあくまで最低条件で、上級種になればなるほど本に書かれていない条件が増えるってヘザーさんも言ってたし」
細かい条件は、『鑑定』のスキルを持つ鑑定士なら読み解くことが出来る。
つまりアンダーソンならミヨのレベルアップ条件が分かるかも知れない。
だが、ミヨの目的は人間に変身することなので、ミヨのお願いはもう叶っている。大魔導士スライムになるのに焦ってはいない。
魔道士スライムレベル99は人間で言えばレベル50の魔法使いに相当する。
人間はレベル99までレベルアップ出来るが、レベルが上がれば上がるほど必要経験値は高くなる。MAXまでレベルアップ出来る人間は数少ない。
レベル50だと冒険者でもベテラン格だった。
「じゃあ」「先に」「進もう!」
「うん!」
ミヨ達は更に下層階に向かう。
そしてついに49階試練の門まで辿り着いたのだ!




