02.ピンクのスライムは愛のプレゼント
『フェアリープリンセス』の序盤、チュートリアルでヒロインはダンジョンに行く。
『フェアプリ』の世界にダンジョンは数個しかなく、初めて入るそのダンジョンは最終盤まで何度も登場する地下100階まである巨大なダンジョンだ。
チュートリアルでは最上階の地下一階までしか入ることは出来ない。
パーティーも本来なら四人まで組めるが、チュートリアルではメンバーは男の子一人だけだ。
のちにヒロインの恋のお相手の一人となる魔道士の見習い、通称魔道士君である。
その最初の冒険で倒す魔物の一匹が、珍しいピンクのスライムだった。
魔道士君は倒したピンクスライムの欠片で『思い出のネックレス』を作り、ヒロインにプレゼントする。
「プレゼントは私?そんなの嫌だぁ」
「でもどうしよう。はっ、いいこと思いついたよ!」
ミヨがプレゼントと化すのは、ゲームが始まってすぐの序盤だ。
当然ヒロインも魔道士君も戦闘レベル1から始まる。チュートリアル終了時でもレベルはせいぜい5だ。決しては高くない。
「ミヨもレベルアップすればきっと負けないよ!そうと決まればレベルアップだよ!でも、レベルアップって何すればいいのかな?」
早速難問にぶつかるミヨだった。
しばらく悩んでいたミヨだが、グーッと腹が鳴った。
「お腹空いた……」
生まれてからまだ一度も食事していない。
「まず食べ物を探そう」
そう思ったミヨはおそるおそる道に這い出る。
「何かないかな」
ミヨが居たのはダンジョンの一階だ。先程通り過ぎて行った冒険者が魔物を倒したばかりで、ミヨの周囲には誰も居なかった。
時折、ピチョンピチョンとどこかで水滴が落ちる音が聞こえるだけで、ダンジョン内は静まりかえっている。
ミヨはおっかなびっくり這っていく。
「えっと確かこっちに……」
『フェアプリ』のダンジョンをミヨはやりこんでいる。
どこに何があるのかは何となく把握していた。
元より一階の構造はチュートリアル用に単純に出来ている。
一本道を曲がってすぐのところに『モーモ』という実がなっている。
回復(小)で、体力と魔力の両方が回復出来る。初期パラメータの時は一個かじれば全回復出来た。
「あれならご飯になるはず」
ミヨは無事にモーモの木まで辿り着いたが、ガッカリした!
「……登れない」
スライムボディで木に登るのは不可能だった。
「お腹空いた……」
突っ伏したミヨの口に偶然草が入る。
雑草だ。
しかしミヨはそれを口に入れ、モグモグと食べた。
「あ、意外と美味しい」
モシャモシャと食べると、少しお腹が膨らんだ。
人心地つくと気付いた。
「あれ、これってポーションの材料になる薬草だ」
地上に生えれば単なる雑草なのだが、ダンジョンの魔素を吸って魔法の草に変質したものだ。
ダンジョンは魔界と人界の丁度中間点で、こうした魔界素材が人には重宝されている。
「『調薬』出来ないかな、私」
『フェアプリ』でヒロインは薬を作ることが出来た。
錬金釜を手に入れた後、レシピを集めて必要な材料を入れると「はい出来上がり」だ。
錬金釜はない。
しかし、ミヨのお腹に薬草はある。
「低級ポーション(効果小)に必要なのは、魔法水」
魔法水もダンジョン内にある泉の水だ。
モーモの木の側に丁度よく泉もある。
ミヨは泉に近づき、水を飲み込む。
お腹の中で何となく混ぜ合わせると。
「出来た気がする……」
「でもこれどうしょう」