17.クラスチェンジ、ケルベロス
早速ザードはドルイド爺さんの錬金釜を使い、『進化の実』を作り上げた。
「よーし、これで」「クラスチェンジだぜ」
シャドウは三頭頭の犬ケルベロスにクラスチェンジした。
二つの頭が一つ増えて三つになり、さらに全体的に強そうになった。
レベル1なのに、体の大きさは大型犬サイズだ。
「よーし」「早速」「肩慣らししてくるぜ」
シャドウは既にダークウルフのレベル30程度の能力を有しているのだ。
「ヒャッハー」とシャドウは外に飛び出していった。
「シャドウ君なら15階は余裕だろうけど、気を付けてねー」
とミヨは見送る。
アンダーソンは少々深刻な声色でミヨに尋ねた。
「ところで、ミヨ君、30階にドラゴンがいたと言ったね。しかもシャドウ君が倒したと」
ミヨはぷるんと頭を縦に振る。
「そうそう、シャドウ君が倒したよ。でも倒したら消えちゃったの。それが何?アンダーソン教授」
「ふむ……」
答えを聞くと、アンダーソンはさらに考え込んだ。
「いや、ミヨ君、あらゆる意味で定説と異なるんだよ。まずドラゴン種はとても強く、上級種しか存在しない」
ドルイド爺さんも同意する。
「わしが持っている書物の中でも、ドラゴンは50階以下の下層に住むと言われている。確かに30階なんぞにいるのはおかしいのぅ」
「種族の中で最も弱いが、『ドラゴン』の名を冠した魔物なら、いかにレベルMAXになったとはいえ、中級の魔物オルトロスが勝てるはずがない」
「でも、シャドウ君が勝ったよ」
ミヨが言うと、アンダーソンも首肯する。
「『竜の鱗』は本物だ。これはドラゴンのものに間違いはない。だが、消えた魔物。シャドウ君が倒したドラゴンは、実体ではなかった可能性がある」
「実体じゃない?」
「ミヨ君は召喚という魔法を知っているかい?」
ミヨはプルプル首を横に振る。
「知らない」
「はは、ミヨ君でも知らないことはあるんだね。召喚は高位の魔法使いや、あるいは魔族や上位の魔物が使う魔法で、『あるものを呼び出すこと』だ。実体を呼び出すことも出来るが、媒体物を核としてその能力をコピーした疑似生命を呼び出すことも出来る。そうして呼び出された疑似生命は本物よりずっと能力は劣る。シャドウ君と戦ったドラゴンとは、本物のドラゴンではなく、『竜の鱗』で作り出された召喚獣だったかも知れない」
「うーん、難しい。大体、誰がどうしてそんなこと?」
ミヨがそう不思議がると、言い出したアンダーソンも頷いた。
「そうだね、情報が少なすぎるからこれ以上は考えても仕方がないだろう。しかしミヨ君、ドラゴンが君達が考えているより強い可能性がある。戦闘は可能な限り避けた方がいい」
「うん、そうするね」
「私の推理が正しければ、下の階にはドラゴンを召喚した者がいるはすだ。その他下層階には見たこともない不思議な出来事がたくさんあるだろう。何か面白いことがあったら教えてくれないか、ミヨ君。『鑑定』なら任せてくれ」
「うん。珍しいものがあったら持ってくるから『鑑定』してね、アンダーソン教授」
「ああ、楽しみにしているよ」
「それからドルイド先生、またクラスチェンジの書を見せて」
「おお、見るがいい。だが取引じゃぞ」
「うん、好きなの持っていって」
とミヨは魔法ポシェットごとドルイド爺さんに渡した。
横にはザードもいて、興味津々に中を覗き込んでいる。
「ザード先生も欲しいものあったら持っていっていいよ」
「いいのかい?ミヨちゃん」
「うん、発明に生かしてね」
ミヨはスライムの指でケルベロスの項を辿る。
「ケルベロスは……あった。次は試練の門」
「試練の門は有名だな。地下49階にあるという門だ。文字通りに試練を受けるという伝説の場所だ」
アンダーソンが教えてくれた。
「へぇ。試練の門の攻略法は?」
「攻略法か……。試練の門の試練は複数あるそうだ。火の試練、水の試練、風の試練、土の試練、そして光の試練、闇の試練があると聞く」
「へぇ」
「門の入り口に紋章が浮かんでいるらしい。それで何の試練か推測が出来るかも知れない。例えば、火の試練は炎の魔人イフリートを倒すことだ」
「火の試練は炎の魔人イフリートかぁ。ドルイド先生、魔物辞典見せてー」
「ほい、これじゃ」
ドルイド爺さんは棚から分厚い辞典を取り出し、ミヨに渡す。
「炎の魔人イフリートの項はここじゃ」
「ありがとう。強そうだね」
挿絵に描かれた魔人見てミヨは感心する。
「ああ、どの魔人もとても強い属性魔法を使ってくるという。だから攻略法は魔人の魔法攻撃を弱める対魔法効果を得ることだね」
「ふむふむ」
「ケルベロスがクラスチェンジすると今度は何になるのかな?楽しみ!」
ミヨはレベルツリーを辿ったが。
「えっ、『不明』で、その後も『不明』?その後は『獣の王』、アンダーソン教授、『獣の王』って?」
「魔王の一人と呼ばれているな。全ての生き物の頂点に君臨する獣の王らしい」
「えっ、シャドウ君、魔王になれちゃうの?」
「ははは」
とドルイド爺さんは笑う。
「書いてあるじゃろう、ケルベロス以降は上級種なんじゃ。全てが不明。ケルベロスは十分強い。無理に試練の門をくぐらなくても良かろう。ケルベロスとなったシャドウは人間に変身も出来る」
「あ、そうだ。シャドウ君、人間に変身出来るんだ」
ミヨがそう言った時に丁度シャドウが戻ってきた。
「俺が」「何だ」「って?」
何処に行っていたのか、シャドウはレベル10になった。もう大きさも子馬くらいに成長している。
「あ、シャドウ君、丁度いいところに。ねえ、人間に変身してみて!」
シャドウは耳をピンと立てた。
「変身か」「おお」「やってみよう」
「人間に変身」
とシャドウが言うと、シャドウの姿はあっという間に魔法の煙に包まれ、それが消えてなくなると、シャドウがいた場所には12歳ほどの少年が立っている。
灰色の髪でちょっと三白眼寄りの琥珀色の瞳、中肉中背だが喧嘩が強そうな少年だ。
「お、これが人間か?」
とシャドウは自分の手を見つめる。
「スゴイ、スゴイ」
とミヨはぴょんぴょん跳ねる。
そんなミヨを見てシャドウが驚く。
「ミヨ、ちっちぇ」
「シャドウ君は背が高い!やんちゃ雰囲気がモテそう!」
「モテそうって何だ?」
「格好いいこと!」
「……マモーって奴とどっちが格好いい?」
「マモー様!」
ブレないミヨだった。




