16.『進化の実』
「あ、アンダーソン教授とザード先生、こんにちは」
呪文符を使い、ドルイド爺さんの家に転移するとミヨの読み通りザード達がいた。
三人は意気投合したようだ。
「ミヨちゃん、こんにちは……えっ、これ、シャドウ君?」
「驚いたな……」
二人は双頭の犬オルトロスとなったシャドウは初めて見る。
「何だよ」「文句あるのかよ」
ドルイド爺さんの家の居間は独り暮らしには十分な大きさだ。
だが、二人の人間と一匹のスライムに加え、レベルMAXになったオルトロスが入ると途端に狭くなる。
今はシャドウのサイズは大型種の馬くらいだ。
シャドウは窮屈そうに伏せている。
「シャドウ君だよ。オルトロスになったんだよ。でね、ザード先生、『進化の実』作りたいからレシピ教えて?」
ミヨからそう言われて、ザードは当惑する。
「えっ、『進化の実』かい?そんなスゴイもの作ったことはないよ」
「え、ミヨ」「勘違いか?」
「うーん、未来のザード先生なのかな。『竜の鱗』と『魔導の欠片』と後なんか薬草諸々と、あと、何だったかなー、あ、『乙女の祈り』とえーと……」
「むむむ」
とザートは声を上げる。
「『竜の鱗』を核として触媒に『魔導の欠片』を使えば、ミヨちゃん、確かに『進化の実』は作れそうだ。……レシピを考えてみるよ」
とペンとノートを取り出し、一心不乱に何かを書き出す。
「やった!『進化の実』が作れそう!」
喜ぶミヨを、アンダーソンはじっと見つめている。
「ミヨ君、君は、一体何者なんだ?私達を知っているようだが……」
「うーん、信じてくれるか分からないけど、この世界はゲームの中なの」
「ゲーム?」
「えーとね、動く絵本みたいなものなの。ミヨは元人間で、別の世界から来たの。ここは多分、ゲームが始まる15年前の世界なんだと思う……」
話を聞いて、アンダーソンは納得して頷く。
「そうか、それで私達を『一方的に』知っている理由が分かったよ。つまり、私達は君の読んだ絵本の登場人物というところだな」
「えっ、ミヨの話、信じてくれるの?」
「正直を言って理解が追いつかないところは多々あるが、ミヨ君達は私達の恩人だ。君は嘘を言う子じゃない。私は信じるよ。ああ、お礼を言うのが遅くなってすまない。君達のおかげでアンジェリーナは助かったよ」
アンダーソンは心から礼を言った。
戻った時、アンジェリーナの容態はすこぶる悪かった。
あの時、「全滅」していれば、アンジェリーナは生きては居まい……。
そうなら自分は……。
ミヨは嬉しそうに椅子の上でぴょんと跳びはねた。
「良かったぁ。じゃあアンダーソンさん、アンジェリーナさんに告白したの?結婚するの?」
アンダーソンは瞠目した後、笑った。
「ミヨ君は本当に未来を知ってるんだね」
ミヨの言う通り、アンダーソンは病が癒えたアンジェリーナに告白して、二人は結婚の約束をしたのだ。
それまでブツブツ言いながらノートに何かを書き連ねていたザードがそれを聞いてガバッと顔を上げる。
「何?アンダーソンが僕の天使アンジェリーナに告白?アンダーソン、本気なのか?」
「アンダーソンさんは、アンジェリーナさんが死んじゃってそれからずっと独身なんだよ。純愛~」
とミヨはプルンプルンする。
「それが、ゲームの未来かい?」
とアンダーソンはミヨに尋ねた。
「うん。15年前の涙の過去バナだよ」
「そうか、アンダーソンはそんなに一途にアンジェリーナを……。じゃあ認めないわけにはいかないか」
とザードはため息を吐く。
ザードの家は、既に父親が亡くなっている。そのためザードは頼りないが妹アンジェリーナの父親代わりのつもりなのだ。
ザードはふと思いついてミヨに聞いた。
「ちなみにミヨちゃん、僕は結婚してるの?」
「ザード先生は研究一筋で独身だよ」
「そうか……そんな気は今からちょっとしているが、やはりそうか……」
と複雑なザードだ。
「それはともかく、ミヨちゃんの言う通り、『進化の実』は作れそうだよ」
一同どよめいた。
「おおっ」
「残りの材料はミヨちゃんとシャドウ君が採取してきた薬草で足りる。だが、ただ一つ、『乙女の祈り』は別だ」
「『乙女の祈り』とはそもそもなんじゃ」
とドルイド爺さんが聞く。
「僕らも詳しくないです。『乙女の祈り』は神殿で手に入る聖属性のものと聞きますが……」
ザードも自信なさげに頭を掻く。
ミヨはそんな二人のやりとりを聞いて驚いた。
「えっ、知らないの?『乙女の祈り』」
「ミヨは」「知ってるのかよ」
ミヨはぷるんと首を縦に振る。
「うん、当然だよ。フェアプリの名シーンだもん。『乙女の祈り』は、聖女候補のヒロインが、こうやってー」
とミヨはひざまずくボーズをする。
具体的には丸から楕円形にフォルムが変わった。
「『女神よ、慈悲の光りをお与え下さい』ってお祈りすると、空が光って、『乙女よ、祈りに応えましょう』って授けてくれるピンクのハート型の石ぽい何かだよ」
「ミヨ、お前、祈ってみろよ」「お前、ピンクだし」
とシャドウが言った。
「ミヨ、スライムだけど、女神様お願い聞いてくれるかなー?一応、やってみるね。『女神よ、慈悲の光りをお与え下さい』」
とミヨは祈る。
すると天上が輝き、どこかからか、美しい声が聞こえた。
「乙女よ、祈りに応えましょう」
天からピンクのハートの石がキラキラと輝きを放ちながらゆっくり落ちてくる。
「おっと」
皆、あぜんとしたが、テーブルに落ちる寸前にアンダーソンがキャッチする。
アンダーソンは『鑑定』のスキルを持っている。
彼は断言した。
「間違いない、『乙女の祈り』だ……」




