14.シャドウ、クラスチェンジ!
更にザードはいらない空き瓶6個もくれた。
これで薬瓶は10本になった。
「やったね、シャドウ君、これで10回くらいは瀕死になっても大丈夫だよ!なんだけど……」
29階に行く前に二人は作戦会議をした。
29階はゴーレム達が蠢いている。
ゴーレムとダークウルフの相性は良くない。
防御力が高く、ダークウルフが得意とする物理攻撃が通じにくいのだ。
「一対一で戦うと多分シャドウ君が負ける」
ミヨの言葉にシャドウはムッと言い返す。
「やってみないと分かんないだろう?」
「うん、そうだけど、二体同時に相手したら絶対負けるし、ここは安全パイで行こう。シャドウ君の素早さならゴーレムを余裕で振り切れる。さっと行って、肉の実だけ取って帰る。帰りの転移魔法陣はザード先生がくれたよ」
「くそう、仕方ないか」
素早さ強化したシャドウは29階を駆け抜け、肉の実をGETした!
「よし、転移魔法」
紙に書かれた呪文符を地面に置き、浮かび上がる魔法陣に飛び込む。
ミヨとシャドウは一階の入り口にワープした。
安全な一階に戻り、早速シャドウはジューシー肉の実を食べた。
シャドウは双頭の犬オルトロスLV.1になった!
双頭の犬オルトロスはその名の通り、二つの頭を持つ犬型の魔物だ。
シャドウはレベル1だが、柴犬くらいと既にレベルMAXとなったミヨと同じくらいのサイズだ。
「レベルアップ」「したぜ」
と二つの顔が喋る。
「オルトロスって『フェアプリ』で見たことなかったなぁ」
ドルイド爺さんの本によると、二つの頭があり、同時に二回攻撃が可能という強力な魔物だ。
一階の通せんぼ冒険者が通してくれるのかミヨは心配したが、二人を見るなりさっと逃げてしまった。
「スゴい」
「どうだレベル1なのにこの風格」「さすが俺」
とシャドウは胸を張った。
3階まではシャドウの姿に恐れを成したか、魔物はすぐに逃げていくが、4階に入ると戦いを挑まれる。
まだ弱いシャドウなので、ミヨも参戦する。
ミヨの攻撃はボディアタックか、見習い魔道士が覚えるしょぼい魔法だ。
火魔法はメラメラで、雷魔法はビカビカ、水魔法はピチョンピチョンと名前もしょぼい。
いわゆる生活魔法と呼ばれる魔法だ。
その名が示すように威力も弱いが、一瞬怯ます効果はあってその隙にシャドウが弱いながらも二回攻撃でHPを削っていく。
二人が15階のドルイド爺さんの家までたどり着いた時は、シャドウはレベル12にまで成長していた。
「……というわけでドルイド先生のお家、アンダーソン教授達に教えちゃった」
「構わんよ。そんな人達ならわしも会ってみたいもんじゃ」
とドルイド爺さんは鷹揚だ。
「それはそうと、二人とも、クラスチェンジするとはねぇ」
「やって」「やったぜ」
「というわけで、ドルイド先生、またクラスチェンジの書を見せて」
「ほほう、ミヨくん、何を取引する?」
「えーとね。色々あるよ」
とミヨはマジックバックを開けて、色々と取り出す。
「効果大の回復薬、強化薬、薬の材料になる薬草に、それからじゃーん、ラッキーラビット」
「ラッキーラビット?」
「うん、食べると美味しいよ」
あまりの美味しさに後で食べようと取っておいたのだ。
ゲームでもラッキーラビットの肉は道具屋さんでいい値段で引き取って貰った。
「ほう、これは珍しい。そうじゃな、このウサギと、効果大の回復薬は全部貰おうかの。代わりに呪文符をいくつか上げよう。ほら、これはわしの家に戻れる呪符じゃ。便利じゃろう?」
「いいよ。商談成立ね」
「ではラッキーラビットを皆で食べようか。ランクアップのお祝いじゃ」
ドルイド爺さんはラッキーラビットを錬金釜に入れる。
チーンと音がして、ラッキーラビットは皮と肉に分かれる。
ドルイド爺さんは料理の棚から香草とジャガイモや人参、ブロッコリーを取り出し、肉と共に錬金釜に入れる。
チーンと音が聞こえると、こんがり焼けたラッキーラビットのロースト温野菜添えの出来上がりだ。
「やっぱり錬金釜は便利~」
「頂きます」
ミヨ達はラッキーラビットのローストに舌鼓を打つ。
「美味しい~」
「ほほう、これは旨いの」
「そうか?」「そのままがいいのに」
シャドウだけは生の方が美味しいようだ。
「じゃあミヨさん、読みなさい」
「はーい」
クラスチェンジの書を読ませて貰ったが、ミヨの顔色は冴えない。
「……うーん、私の次のクラスチェンジアイテムは『月の光』ってやつみたい。シャドウ君のは、『進化の実』。シャドウ君は簡単だけど、『月の光』はまず何処にあるのか探さないと」
とミヨはため息をつく。
簡単と言われたシャドウが抗議する。
「おい、ミヨ」「『進化の実』なんて聞いたことないぞ」
「そうじゃ、ミヨさん、『進化の実』はこのダンジョンの中層階にあると噂されているが、取りに行くにはかなり難しいぞ」
「でもザード先生が『進化の実』のレシピを作ったよ」
「え、あのボサ頭の先生か?」「あいつ、そんなスゴイもの作れるのか」
「うん。先生ああ見えて天才なんだ。レシピは……うーんさすがに全部は覚えてないなぁ。今度ザード先生に会った時詳しく聞こう。シャドウ君、『月の光』は30階までだと聞いたことないアイテムなんだ。下の階に行かないといけないけど、一緒に行って貰える?」
「もちろん」「いいぜ」
ドルイド爺さんは『月の光』に心当たりがあるようだ。
ブツブツ呟いている。
「『月の光』、『月の光』、確か、泉にあると本に書いてあったな。ああ、これだ。大きな池に時折現れるという」
ドルイド爺さんは本棚からダンジョンアイテム辞典(中の巻)を手に取り、机の上に広げ、ミヨ達に見せた。
「本当だ。大きな池……ってことは4の階、34階かも!」
「行こう、ミヨ」「34階だ!」
「うん!行こう」




