12.15年前の過去バナに遭遇
オジさんはダークウルフの住む27階まで付き合ってくれた。
この辺りまで来るとシャドウやオジさんを見ても魔物も冒険者も逃げたりしない。
戦闘も激しくて、オジさんがいないと危なかった。
オジさんとはシャドウがレベル60になった時に別れた。
「ありがとうね、オジさん」
「いいってことよ。気を付けて行けよ、シャドウ、ミヨちゃん」
とオジさんはいい 人 だった。
ミヨ達とオジさんが分かれたのは、27階の『森の奥』というエリアだ。
「さあ、レベル上げちゃうよ~」
とミヨはいきり立つが、シャドウは薄気味悪そうに周囲を見回す。
「森の奥に入るのか?」
シャドウは子供の頃から、森の奥には化け物が住んでいるので入ってはいけないと聞いていた。
「そうだよ、ここは終盤のレベルアップ場として有名なんだよ」
「化け物が出るらしいぞ」
とシャドウは心配そうだ。耳が後方に倒れている。
「あ、化け物は、森の影っていう魔物だよ。実体は幽霊みたいな奴で、相手の能力をコピーするの。強敵なんだけど、HPは高くないからシャドウ君なら倒せるよ。それに……むふふ」
「何だよ」
「ここにはラッキーラビットっていう経験値が沢山貰えるオイシイ魔物がいるんだー。味も美味しいらしいよ」
「やる」
森の影は敵の能力をコピーする。
シャドウの強力な牙攻撃や爪攻撃もミヨのしょぼい魔法攻撃もコピーされたので、少々傷を負った。
だが、ここで取れる魔界蜂の蜂蜜は舐めると完全回復の美味しいアイテムで、すぐ回復出来る。
それに。
「いた!」
「やった、ラッキーラビットだ!」
5回に1回くらいラッキーラビットに遭遇する。
「ああ、旨かった」
シャドウはレベル70(MAX)になった!
ミヨはレベル60(MAX)になった!
レベルMAXになり満腹のミヨ達は、28階に向かう。
「前の方に誰かいるな」
とシャドウが言った。
「人間かな、あの人達」
魔物と戦った二人組のパーティーらしい。
何とか勝ったらしいが、二人ともボロボロのヨレヨレだ。
HPは一割を切っているだろう。
マイルドに表現しているが、HP一割は四肢のどこかは折れていて内臓損傷あり、出血多量と、正視に耐えない状態だ。
トリアージなら区分ⅠのREDだ。
「大丈夫か?」
「ああ」
回復しないところを見るともう回復薬や魔法は尽きてしまったのだろう。
普通の冒険者なら撤退するところだが、二人はフラフラのまま立ち上がった。
フラフラ二人組の一人、茶色の髪で緑の瞳の魔道士風のローブを着た若い男は言った。
「行こう、アンダーソン」
もう一人は黒髪で青い目の男だ。同じようなローブ姿だ。血まみれで服装も汚れきっているが、冒険者にしてはとごか上品な佇まい若者がその声に頷く。
「ああ、ザード」
それを聞いてミヨは目を見張る。
「アンダーソン?ザード?」
「どうした?ミヨ」
とシャドウは不思議そうだ。
ザードと呼ばれた男が呟いた。
「あと一歩なんだ……この28階でツヤツヤ草さえ手に入れたらアンジェリーナの病気は治るんだ」
「やっぱりアンダーソン教授とザード先生だ。15年前の過去バナ、ザード先生の妹が死ぬエピソードだ。特効薬の材料ツヤツヤ草を手に入れようとするんたけど、途中の戦闘で全滅して結局ツヤツヤ草を手に入れることなくアンジェリーナさんは……ってイベント思い出している間に全滅しそう!」
前方では戦闘が始まっていた。
「シャドウ君、あの人達知り合いなの。助けてあげて」
「知り合い?人間の方か」
「うん」
「よし――」
***
ああ、ここまでか。
ザード・カラックは恐怖からではなく、絶望のあまり目を閉じた。
妹の難病を治す、特効薬のツヤツヤ草は28階にある。
それを突き止められたのはつい先日のことだ。
レベル50を越える熟練の冒険者達しか取りに行けない場所だが、ザードのクエストを引き受けてくれる冒険者はあいにく出払っていた。
いよいよアンジェリーナの容態が悪くなり、焦ったザードは友人のアンダーソンと共にツヤツヤ草を取りに行くことにした。
友人のアンダーソンも自分も冒険者ではない。荒事にも慣れていない二人は、ザードの作った発明品、認識阻害のローブを着て、アンダーソンが索敵や探知のスキルを使い可能な限り戦闘を避けこの28階まで辿り着いた。
だが不意打ちされて戦闘になり、何とか倒させた時には手持ちの薬も魔法も尽きていた。
そしてすぐに現れた敵、キラースコーピオンに囲まれた。
そこに、一匹のダークウルフが現れた。




