10.ミヨちゃんで鯛を釣る
「ちょっと残念だけど、『フェアプリ』の舞台の街は見れるよね。もしかして王子様の先祖とか子孫とかに会えるかも知れないし。だからドルイド先生、私、人間に変身出来るルートがいいです」
「人間に変身出来るのは、中級クラスのマージスライムじゃ。この図をご覧。まずは見習い魔道士スライムになり、その後、マージスライムになるこのコースじゃ」
ドルイド爺さんはクラスチェンジツリーを指さす。
「うん、分かった。見習い魔道士スライムになるには……」
ミヨは真剣に本を読んでいる。
シャドウはそれを見ていると妙な気分になる。
「……おい、爺さん」
「なんじゃ、シャドウ」
「俺は人間に変身出来るのか?」
シャドウの問いかけに、ドルイド爺さんはページをめくる。
「ダークウルフから双頭の犬オルトロスに進化し、更に三頭頭の犬ケルベロスに進化すれば人間に変化出来るぞ」
「2クラスもクラスチェンジしないといけないのかよ」
シャドウはゲンナリ言った。
「ほぉっほぉ、ダークウルフは少々の魔法は使えるが魔道士系ではない。上級魔物にならんと魔導の力が育たんのだ」
「うーん、まずはレベルMAXになって、えーとオルトロスになるために必要なのは、『ジューシー肉の実』って何だよ、これ」
「あ、『肉の実』なら知ってるよ。29階にある肉の木に生えてるよ。美味しいらしいよ」
ミヨが言うと、シャドウは驚いて目を丸くする。
ダークウルフ達の住処は26階と27階だ。
シャドウは27階で生まれて育った。
そんなシャドウでさえ、強力な魔物が住んでいるため28階に行ったことがない。それより更に下の29階だ。
「お前、そんなに弱いのに29階に行ったのかよ」
「うん、ゲームの中でね。30階までは行ったよ」
「すげぇな。お前」
「えへへ、やりこんだんだー。マップは覚えているから案内出来るよ」
シャドウは少し考えてから言った。
「……いや、止めとく。行き方だけ教えろ」
「えっ、どうして?」
「スライムのお前には危険すぎる」
「うーん、ミヨも行きたくないけど、それじゃあ取引にならないよ」
「取引?」
「うん、ミヨのクラスチェンジには『賢くなり鯛』っていう魚が必要なんだ。シャドウ君に付き合う代わりに、この魚釣りに付き合って欲しいんだ」
「そんなのは一緒に行ってやる。だけど、場所は分かるのか?」
「4の付く階の池が魚釣りが出来るの。4階でも『賢くなり鯛』は釣れるけど、14階の方が発生確率が高いんだ。だから出来たら14階の方に付き合って?」
「それはいいけど……」
「じゃあ決まりね。ドルイド先生、錬金釜で釣り竿作って」
「ほぉっほぉ、ミヨくんはこれが錬金釜なのを知っておるのか?」
「うん。釣り竿は棒と糸で作れるよね」
ゲームでも作ったことがあるアイテムだ。
ドルイド爺さんは首肯した。
「作れるぞ。だが、ただという訳にはいかんな、わしとも取引じゃ、ミヨくんの薬をくれたら作っていいぞ」
「うん、いいよ。今の瓶の中身は強化薬2に中級回復薬1だけど、どれが欲しいの?」
「全部じゃ。クラスチェンジの情報料もコミじゃしな。その代わり、丈夫なロープと空き瓶を四つをくれてやるぞい」
「うん、取引成立ね」
ミヨはうにょーんと腕を伸ばし、ドルイド爺さんと握手した。
***
ミヨとシャドウは早速14階へと行く。
「あったあった」
100階ダンジョンは4の付く階ごとに釣り場が用意されて釣りが出来る。
餌になる海老も途中の戦闘でGETした。
「早速釣り糸を垂れて……待つ……」
「うーん、来ないな……」
「おい、餌が悪いぞ」
「そうかなぁ、ゲーム通りにしてるよ」
「俺が魚ならそんな海老なんか食わない。もっと旨そうな餌で引き寄せろよ」
「旨そうな餌って?」
ミヨは丈夫なロープでぐるっと体を縛られる。
反対側のロープの先はシャドウがくわえている。
「いけよ、食われたら引っ張ってやるから」
「こんなので上手く行くのかなー」
池に入り、チャプチャプ泳いでいると、
「きゃー!誰かがお尻囓ってる!」
「よし、来たな」
シャドウがミヨを引っ張り上げると、『賢くなり鯛』が釣れた!
「よし、頂きます」
ミヨは『賢くなり鯛』を食べてクラスチェンジした!
ミヨは見習い魔道士スライムLV.1になった!




