01.ミヨちゃん、転生する
気が付いたら転生してました。……スライムに。
スライムは繁殖でも生まれるが、切り離されたある程度の大きさの体に偶然魔核が宿り、生まれる場合もある。
ミヨが生まれたのは、まさにその母体となった本体が死ぬ瞬間だった。
死因は低級の冒険者による剣での攻撃だ。
スライムにはよくある死因で、ダンジョンでは日々何百回と繰り返される営みのひとつでしかなかった。
だがその時生まれたのは、突然変異体のレア種ピンクスライムだった。
母体のスライムはノーマルと呼ばれる青スライムである。
スライムは非常に弱い生物ではあるが、繁殖力、生命力に優れている。
青スライムの体の一部から10000体に1体しか誕生しない突然変異体のレア種が誕生することもこの広いダンジョン内で珍しいが、驚くべき現象ではなかった。
ダンジョン内では様々な魔物達が生息し、スライム種に至っては数十万体が蠢いている。
だが、稀少な出来事にはさらに稀少な物事が重なった。
何故かその魔核――魂には前世の記憶があった。
「え、ここ、どこ?」
ミヨは、周囲を見回す。
暗がりだった。地面は石でゴツゴツとしている。
どこかのあなぐらのようだ。
「確か私、交差点で信号が変わるのを待っていて……それで……」
考え始めたが、ミヨはハッとしてそれをやめる。
生まれたばかりのミヨにも生存本能はある。
ぷるんぷるんのゼリーのようなスライムの体は生き物の動きに敏感に反応する。
振動はミヨに大きな生き物が近づいてくるのを教えた。
「何か来る」
ミヨはあわてて側にあった小さな横穴にうずくまった。
通り過ぎて行ったのは人間でミヨは耳をそばだてて彼らの話に聞き入った。
「疲れた」だの「まだやるのかよ」、「来たばかりだぞ」、「ろくなドロップがないな」
そんな文句に混じって聞こえたのが、「エウポリア」、「100階ダンジョン」の言葉。
ミヨは息を呑んだ。
何度も遊んだお気に入りのゲーム。
舞台となった国の名も各種アイテムを手に入れるために何度も行ったダンジョンの名も良く覚えている。
「そんな……ここってもしかして、フェアリープリンセスの世界なの?」
***
ミヨは前世に遊んだゲーム、『フェアリープリンセスラブラブ☆ジェネレーション』略して『フェアプリ』の世界に転生してしまったようだ。
しかもプルンプルンボディのスライムLV.1に。
ヒロインでも悪役令嬢でもモブの学園の一般生徒でなく、スライム。
さらにミヨは気付いた。
「あ、私、ピンク」
気付いた瞬間にミヨは青ざめた。ピンクだけど。
「『思い出のネックレス』だ……」