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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

F級冒険者の俺は、ザコザコ言ってくるS級メスガキ冒険者(王女)をわからせる

ド健全な話ですので安心して読んでください




「アンタ、階級は? F級? ザコ中のザコじゃない! その依頼はね、A級以上じゃないと受けられないのよ! そんなことも知らないのぉ? これだからザコは! ザーコ、ザーコ、ザーコ!」




 冒険者のカイゼルはムカついていた。


 生活費が尽きたので、半月ぶりに冒険者ギルドにやってきたら、妙な少女に絡まれてザコザコ言われているのだ。

 これでムカつかないほうがおかしかった。


 カイゼルが受けようとした依頼は、南の山に出現したというドラゴンの討伐だ。

 これの推奨ランクはA級以上となっている。



「F級みたいなザコ冒険者しかいない、こんな片田舎じゃドラゴンなんて討伐できないだろうから、このアタシがわざわざ足を運んできたってわけ! 感謝しなさいよね、このザーコ!」



 確かにカイゼルはF級――すなわち、冒険者失格の烙印を押された冒険者だった。

 だが、それでも……


「俺が依頼を受ける権利はあるんだが?」


「はぁ???????????」


 そう、推奨ランクとはあくまでも推奨に過ぎない。

 たとえ推奨ランクS級の依頼だとしても、F級が受けることはできるのだ。

 その場合、死んでも自己責任ではあるが。


 それを思い出したのか、少女は笑いだす。


「……プッ。アハハハハハ! そうね、その通りだわ! 確かにアンタみたいなF級のザコでも受けることはできるわね! 本気でこの依頼受けるつもりなの? チョーウケる!」


 今にもその場で転がりまわりそうなほど、お腹を抱えて笑う少女。

 そんな彼女に、ムカついていたカイゼルは煽るように答える。


「まぁな。お前みたいなガキよりはマシだろ」


「ガキ? ガキですって?」


 それが琴線に触れたのか、ギルド中に響くほどの大声で笑っていた少女が一転して怒りを帯びた声をあげる。


「このアタシをガキ呼ばわり? 信じられない!」


「ガキはガキだろ。っつぅかお前誰だよ。いきなり出てきてイキりやがって」


 前に来たときは、こんなガキはいなかったとカイゼルは記憶している。

 先ほどの「足を運んだ」という発言から、おそらくはよそのギルドを拠点としていたのを、ドラゴン討伐のためにこの町までやってきたのだろう。

 ……と、カイゼルは推測できてはいたが、ムカついていたのでもう一度煽る。


「どうせ弱すぎてこんな片田舎まで来ないと仕事がないんだろ? ウケるな」


「……アタシが弱いですって?」


「弱いだろ」


 その一言で、少女のこめかみに青筋が浮かんだ。



「あー、そういうこと。そういうことね。完全に理解したわ。こんな片田舎じゃアタシの名声も届かないわよね。教えてあげるわ! アタシはね! この国でも五人といないS級の冒険者なの! いい? S級よ、S級! 聖剣のパトリシア様と言ったらアタシのことよ! 覚えておきなさい!」



 少女は、これ見よがしにS級の証であるエンブレムのついた胸を張っていた。

 張ったところで真っ平ではあったが。



「ふーん、S級ね。はいはい。正式名称はスモール級だったっけ? 確かにお前みたいな小さいやつで冒険者やってるのはこの国でも五人もいないだろうな。ハハハハハハハ!」



 ブチッッッッッッッッ!!!!!


 カイゼルの言葉に、とうとう少女――パトリシアの堪忍袋の緒が切れた。


「いいわ! 勝負よ! 勝負しなさい! このアタシがS級の強さをその体に教えてあげるんだから!」


「いいだろう。俺が勝ったらこの依頼は俺が受けるからな」


「万が一、いいえ、億が一にもこのアタシがF級なんかに負けるはずがないけど、もしアンタが勝ったなら好きにしなさい。まぁF級が挑んだところで死ぬだけでしょうけどね! ……でも、そうね。それだけじゃつまらないわ。こうしましょう。アタシが勝ったら、F級のザコがS級に歯向かってすいませんでしたって土下座しなさい。そうでもしなきゃアタシの溜飲が下がらないわ!」


「ほう。なら俺が勝ったら、全裸で生意気言ってすいませんでしたって土下座してもらおうか」


「ぜっ……!? いいじゃない! やってやるわ! その代わり、アンタが負けたら全裸で街中回ってもらうからね!」


「いいだろう」


「ふふん、身の程知らずなザコね! 負けた後に泣いて謝るなら許してやってもいいわよ。ま、意識があったらの話だけど!」


「俺がお前みたいなガキ……いや、ガキというよりはメスガキだな。メスガキに負けるわけないから安心しろ」


「メスガキ!? ホント失礼ね! もう泣いても許してやらないんだから! このザコ!」


 こうして、F級冒険者のカイゼルとS級冒険者の聖剣のパトリシアは決闘をすることになった。




 ちなみに、ギルド内には他の冒険者やギルド職員たちもいた。

 そして「これはやばいことになった」とは思っていたのだが、あまりの展開についぞ口を挟むことはできなかった。




 * * *




「始めるわよ」


「ああ。かかってこい」


 ギルドの裏にある訓練場。

 いつもは冒険者たちが模擬戦や訓練をして研鑽を重ねている場所だが、今は二人の冒険者が対峙していた。

 言うまでもなく、F級冒険者のカイゼルと、S級冒険者の聖剣のパトリシアだ。


 ギルドに所属する他の冒険者も、ギルド職員たちも、ギャラリーとなって固唾を飲んで二人を見守っている。

 いや、見守るというよりも、正確には案じていた。

 この決闘の敗者となるだろう者の身を。


「今なら許してやらないこともないわ。この聖剣を抜く前ならね。でもこの剣を抜いたらもう許してやらな――」


「御託はいい。さっさと来い」


「この――!」


 カイゼルの言い様に、またもや怒り心頭となったパトリシアが腰に下げていた剣を抜く。

 見事な刀身だ。打った鍛治の腕の良さが一目でわかる。


「これは聖剣。この剣で斬れないものはないと言われている王家に伝わる伝説の――」


「御託はいいって聞こえなかったか? あれか? ナーロッパ語は未習得か? ガキだもんな。ドラゴン倒すより幼稚園に行くほうが先じゃないのか?」


 盛大な舌打ちとともに、カイゼルはそんな言葉を吐き捨てる。すでにカイゼルは臨戦態勢に――入ってはなかった。


 腰に下げた剣を抜こうともしていない。

 ただ突っ立っているだけだった。


 それをパトリシアは舐めているのだと受け取った。


 先ほどの罵倒とこの態度。

 すでにマックスだったパトリシアの怒りのボルテージを限界突破させるには十分だった。


「ここまでアタシをコケにしてくれたザコはアンタが初めてだわ! アタシにしか使えない聖剣の力、とくと味わいなさい、このザコ!」


 そう言うと、パトリシアは聖剣に自らの魔力を流す。

 途端、聖剣の刀身が虹色に輝いていく。


 それこそがパトリシアが火、水、土、風、光、闇の六属性の魔法を使え、さらには六属性を扱える者のうちでもごく一部だけが使える真理の属性――真属性さえも習得済みである証拠だった。


 S級の冒険者が国でも五人といないのならば、七属性の魔法を扱える者は歴史上に五人といない。


 そして、持つ者を自らが選ぶと言われる聖剣にも選ばれた。


 それだけの才能を持つのがパトリシアという少女だった。



「死になさい、このザコが!」



 パトリシアは聖剣を構え、本気で殺すつもりでカイゼルに斬りかかった。









 ――数分後。



「えぐ、えぐ……生意気なこと、言って……ヒック、も、申し訳ありませんでした……哀れな私を、うっ、許して、くだしゃい……」



 パトリシアは土下座をしていた。

 全裸である。

 土下座をしているせいで体の前面は見えないが、小さな背中ややわらかそうなお尻は丸見えだった。


 そんな彼女の姿を見て、カイゼルは一言。



「舐めろ」



 パトリシアの前に足を伸ばして、そう言った。

 カイゼルは容赦のない男だった。


 パトリシアとカイゼルの戦いは一瞬で終わった。


 カイゼルに斬りかかったパトリシアだったが、あっけなく素手で剣を受け止められ、そのままタコ殴りにされたのだ。

 そして剣を奪われ、鎧を剥ぎ取られ、服さえもビリビリに破かれ、逃げようとしても捕まえられ、暴れようとしても動き出しを止められ、何もできないと悟らされ、今――土下座に至る。


「な、なんでよぉ……このアタシが裸になって土下座までしたんだから許しなさいよぉ……」


「なんで? 強いて言うなら趣味だな」


「しゅ、趣味……? このザコ、なんて悪趣味な……!」


「は?」


 カイゼルの口から、今日一番の冷たい声が出る。それだけでパトリシアは震え上がった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 舐めます! 舐めます! あなた様の靴を舐めさせてもらいますぅ!」


 すぐさまパトリシアは小さな舌を伸ばしてカイゼルの靴裏を舐める。

 その姿はとてもこの国に五人といないS級冒険者とは思えないものだった。


「これに懲りたらもう俺に歯向かわないな?」


「れろぉ……ひゃ、ひゃい……」


「ドラゴン討伐も俺がやる。いいな?」


「はい、もちろんですぅ……」


「ザコは俺とお前、どっちだ?」


「アタシれすぅ……」


「よし。これで七割方気が晴れた」


 そう言うと、カイゼルは前に出していた足を引く。

 パトリシアはこれでこんな無様な姿を晒すのも終わりだと思い、ホッとする。



 しかし。



「次は左だ」



 カイゼルが逆の足を突き出してきたのを見て、絶望した。


「あ、あの! カイゼルさん!」


「……ん? ああ、受付嬢の姉ちゃんか。何だ?」


「そのー、もう許して差し上げたらどうかなー、と思いまして……」


 パトリシアは受付嬢が天使のように見えた。


「ほう……」


「ダメですかね? ダメですよね! すいません!」


 ちょっと何へたってんのよこのザコ! とパトリシアは思った。

 口に出したらカイゼルに何を言われるかわかったものではないから思っただけで黙っていたが。


 即へたった受付嬢の姿に、観念したパトリシアはカイゼルの左足に舌を伸ばそうとし、


「……他ならぬアンタの頼みだ。いいだろう。残りの三割はドラゴンで憂さ晴らしでもするか」


 予想外の展開に驚愕した。


 余談だが、この時、南の山のドラゴンは急に悪寒を感じていた。


「それじゃあ受付嬢。ドラゴンの依頼は俺がもらっていく」


「は、はい。行ってらっしゃい、カイゼルさん」


 カイゼルは満足げに頷いて訓練場を出ていった。

 パトリシアはしばらく頭を上げずに様子を窺っていた(もし行ったフリをしてまだ残っているとしたらまたひどいことをされると思った)が、本当に出ていったようだとわかり、ようやく頭を上げる。


「行った……の?」


「え、ええ。そのようです」


 おずおずとつぶやくパトリシアに、受付嬢も信じられないと言わんばかりの様子で答えた。


 そうして、初めてホッとしたのか、パトリシアの目が潤み始める。

 それから涙が溢れ出るまで一秒とかからなかった。



「なんでよ~~~~! なんでアイツ、F級のくせにあんな強いのよ~~~~~!」



「ぱ、パトリシア様! こちらをお召しください!」


 体を起こして泣き始めるパトリシア。

 その姿に受付嬢はギョッとする。

 さっきまでは土下座していたから見えていなかったパトリシアの体の前面が見えてしまっているのだ。


 慌てて受付嬢は自分のシャツを脱いでパトリシアの体にかぶせる。

 シャツを脱いだことで彼女の上半身は下着姿になってしまったが気にしてはいられない。


 小さな女の子が全裸になっているという状況は元より、パトリシアはただの冒険者ではない。

 聖剣に選ばれ、歴史上に五人といない七属性の魔法を使えて、S級の冒険者……なだけではない。



「し、しかもアイツ……このアタシを……ナーロッパ国第十二王女のパトリシア・パ・パトリックを裸にして土下座までさせて……ホント何なのよアイツ~~~~~~~!」



 そう、聖剣のパトリシアはこの国の王女なのだった。



「アタシは国で五人といないS級で! 聖剣に選ばれて! 歴史上に五人といない七属性魔法の使い手で! 王女なのよ! それをあんな片手間みたいに……そんなことF級のザコにできるわけ……できるわけ………………そうよ、そうだわ!」


「……? パトリシア様?」


 何かに気づいたようなパトリシアの様子に、受付嬢は嫌な予感を覚える。


「アイツ、何かズルしてたのよ! 卑怯な手! そうでもないと、このS級のアタシがF級のザコに負けるわけがないわ!」


「え、ちょ、パトリシア様!? それは――」


 違う。受付嬢はそう言おうとするが、パトリシアは止まらない。



「そうと決まればアイツのズルを見破ってリベンジよ! F級相手だからって油断してたかもしれないわね! 次は絶対にS級のすごさを思い知らせてやるんだから! 待ってなさいよ、ザコ!」



 そう結論付けると、パトリシアはそのまま訓練場を出ていってしまう。

 その勢いの良さに、受付嬢はもちろん、ギャラリーとなっていた他の冒険者たちもポカーンと見ているしかできなかった。


「パトリシア様、違うのに……カイゼルさんはF級ですけどこの国で最強の人なのに……」


 そう、カイゼルはこの国では最強の人間であった。

 しかし、そんな彼がなぜF級ーー冒険者失格の烙印を押されているのか。

 その答えは単純だ。



 素行不良なのである。



 冒険者にもルールはある。

 強い魔物を倒したり、難しい依頼を達成したりするだけで階級が上がるわけではない。


 例えば、一定期間中に依頼をいくつこなさなければいけないとか、敵性国家との戦闘に際して戦力を提供――つまり参戦しなければいけないなど、様々な制約がある。


 その制約を守りながら難しい依頼をこなしていけば冒険者として階級が上がり、普段の生活でも様々な権限が与えられることもある。

 S級はその最たる例だ。


 もともと王女であるパトリシアにはいくつかの王族特権が与えられてはいたので重複する部分もあるが、冒険者としてS級になってさらにできることの幅が広がったのは事実だ。

 だが、逆を言えばS級の冒険者になると王族の特権の一部を使えるようにもなるということだ。


 それだけの強大な権限を、ルールを守れない者に与えるわけにはいかない。

 故に――



 素行不良であるカイゼルは国で最強であると同時に、最低ランクの冒険者でもあった。



 ということを受付嬢はパトリシアに伝えようとしたのだが、もう走り去ってしまった。


 まぁ今度会った時に伝えればいいだろう。

 今は敗北直後で気が荒いだろうし、時間が経って落ち着いてくれれば話を聞いてくれるはず。


 そう結論づけて、受付嬢は訓練場の片付け(カイゼルに破壊されたパトリシアの鎧や衣服などがまだ残っていた)をしてから通常業務に戻っていく。




 彼女の判断が間違っていたことがわかるのはその数日後のことであった。




 ちなみに、その翌日から一週間ほど、南の山ではドラゴンの叫びが響き続けるのだが、それはまた別の話である。




 * * *




「この間はよくもやってくれたわね、このザコ! もう一度アタシと勝負しなさい! この前の決闘じゃちょーっと油断しちゃったけど、本気でやったらこのアタシが負けるわけないんだから! 怖いの? そうよね、アタシはS級! そしてアンタはF級のザコ! 怖かったら土下座すれば許してあげないこともないわ! このザーコ!」



 F級冒険者のカイゼルは困惑していた。

 ドラゴンをじっくり時間をかけて、いたb……討伐してきたから依頼達成の報告に来た矢先にこれである。


 目の前のメスガキは、カイゼルがついこの間ボコボコにしてやったはずだ。

 あれだけボコボコにしてやったのに力量差がわかっていないのかと驚愕もした。


 もう一度わからせてやろうかと思ったカイゼルだが、さすがに面倒に感じたので無視して受付嬢のもとに報告に行こうとして――



「あれれ〜? 逃げるの? ま、しょうがないか。卑怯な手で勝ったんだもの、油断してないS級ともう一度戦うなんて、性根ザコのF級には無理よね! さっさと帰って布団かぶって震えてなさいよ、ザーコ!」



「上等だ表出ろまた全裸にしてやる」



 パトリシアに煽られ、カイゼルの怒りはすぐに沸点(そもそも低いのだ)を迎えた。

 その様子を受付嬢も、ギルドの冒険者も「あちゃー」というふうに眺めているのだが、二人は気づかない。




 二人が表に出て数分後、全裸で木の枝から吊り下げられたパトリシアの泣き叫ぶ声が街中に響き渡ったのは、言うまでもないことだろう。


読んでいただきありがとうございました。

パトリシア書くのめっちゃ楽しかったです。

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[気になる点] ノクターン版は…無理言って御免
[一言] 動かしやすい感がめっちゃ分かる、むしろ勝手に動くね王女様。 たぶんチョロイン。
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