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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第24話 『“波嵐卍進”』



 立花は一から、“死神”と言われていたモノの正体について告げていく。

 一つずつ、順を追って丁寧に。


 阿久津が見たという“黒いモヤ”。“黒い塊”。“黒い影”。

 それらが“影人”と呼ばれる存在である事。

 

 影人とは、人間が溜め込んだストレスによって、影に自我が芽生えた存在である事。

 そして自我の芽生えた影は、やがて成長していくと最終的に人間の身体と精神を乗っ取ってしまう事。

 そうした“影が人格を持つ”という現象が、現在の日本の限られた範囲内で人知れず発生しているという事。


 自我が芽生えた影。

 人間の身体から離れ、自由に活動する影。

 人間の精神と肉体を乗っ取って、成り代わった影。

 そうした影の存在を、全てまとめて“影人”と呼ぶ事。


 そして、そうした影人を斃し、人々の生活を守る為に“影狩り”という秘密結社がある事。

 自身(立花)はその“影狩り”に所属し活動している事。

 今回、立花は波嵐市に巣くう影人を斃す為に派遣されて来たという事。


 そして最後に……阿久津にそうした影人が見えたのは、立花や“影狩り”に所属する者達が持つ“影耐性”と同じ“力”を持っていた為である事。

 “影耐性”に目覚めた人間は、本来見ることの出来ない影の動きを認識し捉えることの出来るのだ、という事。


 ……などを説明した。



 説明している途中、立花は証拠とばかりに様に“影操作”を使用した。

 自由自在に立花の意志で動く影。それを見せ、“影狩り”では実体を持たず触れる事の出来ない影人に対抗する為に、こうした“自身の影を操る訓練”を行うのだ、とも説明した。


 その時。

 初めは立花の操る影を“黒いモヤ”だと視認して恐怖していた阿久津であったが、立花の話を聞くにつれ、その視認能力が安定し、最後には“モヤ”ではなくしっかりとした“形”を捉えられるまでとなっていた。



 考えるに、阿久津の持っていた“影耐性”は未完成の状態であったのだ。

 動く影を視認しておきながら、それが“影”であるのだと理解出来ていなかった。

 その“黒いモヤ”を“死神”だと信じて疑わなかったが為に、“影耐性”が安定して発現出来ていなかったらしかった。

 だから視認能力にムラがあったのだ。


 影をただの影としか認識していない者には見えないし、気が付かない。

 それが、簡単に言えば“影耐性”を持つ者とそうでな者の違いなのだと、立花は神崎から聞いていた。

 “影耐性”に目覚める切っ掛けは“影というものに触れる”ことである事も。

 故に、“影というものを理解”して“影耐性”に目覚める者がいる様に、その逆で阿久津の様に“影耐性”に目覚めたはいいものの“影というものを理解”していないが故に不完全。

 といった事態も起こり得るのではないか? と、そう思えるものだった。



「…………ッ」


 “影耐性”が完全に覚醒し、“死神”だと思っていた存在が影人だと理解して、そして……今まで自身(阿久津)が“死神”を見た事でいなくなってしまったと思っていた、親戚や老人、生徒や両親が、自身(阿久津)の所為で死んだのではないのだと判明し、阿久津は泣き崩れた。


「良かった、……良かったッッ!!」


 と、胸のつかえでも取れた様に……大粒の涙をボロボロこぼす。

 それで、いなくなった人間が戻ってくるわけではない。

 死んだ両親が帰ってくるわけじゃない。……しかし、それでも、『自分の所為ではなかったのだ』、『俺が悪いわけじゃなかった』という安堵の念が、今まで阿久津を蝕んでいた自責の念を払拭する。


「うっ……、ひぐっ…………、すんっ……」


「……、」


 静かに、それでも尚泣き続ける阿久津を見て、立花は問いかける。


「あ、あの……もしも良かったら、あなたも“影狩り”に来ませんか? ……さっき説明した通り、か、“影狩り”には、あなたと同じ“力”を持った人が沢山、います。だから、“影狩り”なら、あなたの“力”を恐怖する人も、仲間外れにする人もいません。……みんな、その……話せばいい人だらけです!! ……なので」


 立花は言葉に悩みつつ、それでも一生懸命に阿久津へと訴える。


「えぇと、えと、それに……もしももう“死神”を見たくないと言う、のなら、その“力”を無くす方法も“影狩り”にはあります!! 薬を飲んでする方法もあれば……例えば、コレ!!」


 立花がリュックを漁って、何かを出してくる。

 そしてそれを阿久津へと握らせる。


 見るとそれは、何の変哲もない様な黒縁のメガネだった。


「こ、このメガネをかけてれば……レンズの機能で“影耐性”無しの視界が見られます。このレンズを通して見れば……影の変化が分からなくなるんです!! 確か、暗示だか……ナノマシンの機能? だとかで……」


「……??」


「と、とにかくかけて見て下さい。……あ、いえ別に今かけなくても良いのですが、貸しますので、好きな時にかけて見て下されば……あ、後、今は持ってないですが、メガネが嫌だという人用にコンタクトレンズもあるとかで……えぇと……」


「……分かりました。メガネは少し借りますね。後、その……“影狩り”? の組織の件はまだちょっと考える事が沢山で……」


「あ、はい。ごめんなさい。その、色々と考えたい事があるだろうに……私が喋りっぱなしで」


 言って気が付いたとばかりに、立花は自分の行いにハッとすると、おずおずと引き下がる。


「少し、一人にしてください……。さっきのお話の件も含めて、一人で考えてみたいので」


「……、はい。わかりました」



 しばらくは、そっとしておいた方が良いだろう。

 一人の時間も重要だ。

 気持ちの整理も大切だ。

 立花がいると、邪魔な事もあるだろう。

 そう思い、再び声を殺して泣き始めた阿久津から、立花は一旦距離を取る。



 何か、元気付けられるモノでもあるといいのだが。

 そう考え、少し頭を捻った後、立花は一つの案を思い浮かべた。


(……そう言えば)


 立花は自身の考えを纏めると、音を立てずに外に出る。

 日はまだ出ていて明るいが、それでも時刻は18時となっている。

 もう後一時間もすれば外も暗くなるはずだ。

 少し急ぐか。


 立花は地図を確認する為に端末の画面を操作する。

 そんな時だった。端末が音を鳴らした。

 画面に表示されたのは切矢の名前。それを確認し、立花は通話を開始する。

 

 切矢の話の内容は大まかに『“幽霊騒動”の影人を斃した事』と『任務は継続という事で一度会って情報の交換・整理を行いたい』といったものだった。


 しかし、そうなると阿久津の件をどうするか?

 一度行って、その説明をして戻ってくる。……しかしそれでは、いつ戻って来れるか分からない。


 影人の事。

 “影狩り”の事。

 それら全てを、立花の一存で阿久津へと説明した。

 その結果が、阿久津のこれからの行動にどう作用するのかが分からない以上、あまり長い間、目を離すのもまずいだろう。

 しかしかと言って、今から一緒に来てほしいと阿久津を合流地点に連れていくのも気が引ける。

今は気持ちの整理をさせる為、一人にもしてやりたい。


 電話越しで、今から全てを伝えてしまうという手もあるが……。

 如何せん説明が難しい。

 一から話していくには少し時間を食ってしまう。


 立花の思い浮かべた案もある。

 それを実行するのなら、なるべく早く行って帰ってくる必要があるのである。

 ……立花は少し考えて、


こっち()は自分に任せてほしい」


 そう言って、通話を終了するのだった。



~   ~   ~   ~   ~



 コンビニ前でたむろする人影があった。

 それは異様に目立つジャラジャラとした銀色のアクセサリーなどを腕や腰に巻いた厳つい集団だった。

 スキンヘッド。或いはオールバックや、金色に染めた髪をかきあげた様な髪型をし、タバコをふかし、大声で喋る。中にはバットを担ぐ者まで。

 そんな悪い意味で目立つ六人組の集団に対し、通行人は嫌な視線を送りつつも声を出して文句を発する事はしない。

 ただ見て見ぬふりをして、無言で距離をとって歩き去っていく。


 それは彼ら通行人が臆病である事や、単純に絡んで得が無いからではあるのだが、それとは別に、彼ら異様な集団が波嵐市でも悪名高い“波嵐卍進(はらんばんじょう)”という不良グループである事を知っている為だった。


 波嵐市の治安が悪いのは、この“波嵐卍進”なるグループが好き勝手遊び回っている事に起因する。

 タバコや空き缶のポイ捨てに始まり、壁の落書き、ゴミ箱の蹴り倒すなどの行為は日常茶飯事。所かまわず喧嘩をし、街灯や標識、看板などを傷つける。

 深夜には騒音と共にバイク等を乗り回し、車のクラックションを打ち鳴らす。

 迷惑行為が人の形を成しているとも言うべき、街の汚点そのものだ。


 最近は、警察も役立たない。

 初めの内は取り締まろうという姿勢を見せていたが、今では見て見ぬフリが当たり前。

 偶に行動を起こしたと思っても、軽く言って済ませる程度。

 お金で買収でもされたのだろう。と、もっぱらの噂である。



 しばらくしてコンビニから黒いロングコートを着た男が出てくると、外でたむろしていた六人が頭を下げて、口々に挨拶をする。

 それらの挨拶にロングコートの男はそれぞれに軽く「おう」とだけ返事を返すと、持っていた少年誌を放り捨て、もう片方の手に持っていたペットボトルを飲み干して、それも捨てる。


大谷(おおたに)さん。さっき鴨平(かもひら)さんから連絡があって……」


「あぁ? ……何で早く言わない?」


「いやその……、雑誌に夢中そうだったんで――ッ!?」


 スキンヘッドの男が話を終える前に、大谷と呼ばれたロングコートの男が拳を振るう。

 それを受け、スキンヘッドの男は後方へ吹き飛ぶが、すぐに痛みを堪えて立ち上がる。


「それで、鴨平は何て?」


「それが……大谷さんが取り込み中だと伝えたら、通話が切れてしまって……」


 そう言うとスキンヘッドの男は携帯を取り出して操作する。

 そうして、鴨平と呼ばれる人物に通話を繋げると、その携帯を大谷に手渡した。


「何の用だ?」


 大谷はスキンヘッドの男から携帯を受け取ると、開口一番にそう告げた。

 それを受けた鴨平と呼ばれる者の返答は、


『仕事だ』


 という簡素なものだった。


「仕事だぁ? 一体何だって……」


『“影狩り”が街に来た』


「はぁ? そんなもん、いつもみたいに適当な影人を斃させて俺らは潜伏すればいいだろう? 何でわざわざ“影狩り”共と……」


『それが“真城晴輝”であったとしてもか?』


「……それって、例の? なるほどねぇ、話を聞こうか」


 初めは乗り気じゃなかった大谷であったが“真城晴輝”という名が出た途端、顔色を大きく変化させる。

 さぁこれから仕事について詳しく聞こう。

 そんな雰囲気に、大谷がなった時だった。


「お客さん!! さっき万引きしたでしょ? お代、払ってくれないと!!」


 コンビニから年配の男性店員が走ってくる。

 その後ろで、「店長、ヤバイですって!! 警察呼びましょうよ」とアワアワしている店員が顔を覗かせていたりもするが、それ以上こちらへはやって来ない。


 こちらまでやって来て尚もうるさくくっちゃべる男性(店長)に、大谷は忌々し気に顔を歪めると、胸倉を掴んで持ち上げる。


「ぐっ……!! 雑誌と飲み物……高々それだけだと思うだろうが、こっちにだって生活があるんだ!! その分の売り上げを取り戻すのに一体どれだけの商品を買ってもらわないとならないのか!! どれだけの迷惑行為になってるか!! ……君にそれが分かるかね!?」


「っせぇなぁ。こっち来い」


 大谷は男性店員を片手で持ち上げたまま、人気の無いコンビニの脇道へと連れてくと、無言で男性店員を壁に出来た影の中、“影世界”へと無造作に放り込む。


「がッ……――ッッ!?!?」


 大谷はそれ以降、見向きさえしなかった。

 男性店員が“影世界”で藻掻き、苦しみ、一瞬で“影エネルギー”に毒されて、“フェイズ5”へと成り果てる、その――最期の瞬間でさえも。


 自分に意見する人間は、こうなって当然だ。

 そんな当たり前の事のように振舞って、「死ねよ、カスが」と吐き捨てる。


 一般人が、“影世界”に入ればどうなるか?

 “影耐性”を持たない人間が、“影エネルギー”に触れればどうなるか?

 それを知っていて、尚もその行為を実行してみせたのだ。

 ただ、“うるさかった”というだけで。


 運も悪い奴だ。

 もしもこの男(店長)が“影耐性”を持っていたのなら、こうまで簡単に終わりはしなかっただろうに。

 或いは藻掻いて、“影世界”から這い出てる事だって出来ただろうに。

 まさか数秒も持たないとは……。

 この男は特に耐性が無かったらしい。

 本来、普通の人間であっても平均で一分近くは持ちこたえられるはずなのに……そういった“藻掻き苦しむ様”で大谷を楽しませる事さえ出来ないとは。

 全く呆れてものも言えない。



 男性店員を連れて行った大谷を追いかけてきたスキンヘッドの男やその他男達も、一瞬で男性店員が消えた事に驚いて目を丸くする。

 しかしすぐに、「まぁいいか」で片づける。


 大谷に逆らった人間は消えること。

 それを男達は何度も見て知っている。

 原理は分からずとも、“触れてはいけないもの”なのだと本能がブレーキをかけて見ないフリを実行する。

 余計な詮索はしない。

 “知らぬが仏”という言葉を、この男達は弁えているのである。


『……お前、やったな?』


 通話越しに、事態を察した鴨平の声が届いた。


「仕方ねぇよ、いつもの手癖だ。面倒な奴に絡まれるとついついやっちまうんだよなぁ、これが」


『急激な“影人化”で生まれる“フェイズ5”(末期)共からは自我が生まれん。それに加え戦力にもならんから止めろといつも言ってるだろうが。急な行方不明は“影狩り”にバレやすい上に、事件としても挙がりやすい。今は戦力を整える時期なんだと“黒点(こくてん)”も言っていただろ? ……ガラクタ(フェイズ5)と問題を同時に増やすな』


「分かってるよ、手癖だって言ってるだろ? いいじゃねぇか今更一体、二体増えた所で変わんねぇよ。……それよりも、だ。この話は姫川(ひめかわ)にも伝えるのか?」


『既に伝えた。今回の“獲物(影狩り)”は三人だからな。手分けして探すのも協力するのもアリだ。こちらも戦力は多い方がいいからな。……ただし、“真城晴輝”だけは確実に殺すぞ。それが“黒点”への手土産になる』


「はいはい。……それで、いつ始める?」


『相手は俺の手駒(影人)を殺して油断しているはずだ。仕掛けるなら……そう、今夜がいい』



~   ~   ~   ~   ~



 真城と切矢。

 二人は合流した後、簡単な情報交換をし終えると学校を後にする。


 情報交換の内容は、擬態した影人について……ではあったのだが、如何せん真城がそう言った擬態を見分けるのに必要な知識ないしは技術を持ち合わせていなかった為、そういった部分においては、ほぼ一方的に切矢から情報を貰う様な形となってしまった。


 今回の調査結果。

 真城から提供出来た情報は至ってシンプルだ。

 学校中を徘徊し、“影人化”を起こしていた生徒を六人発見した事。

 そして、その全ての“フェイズ1”の影人をその場で処理し終えたといった内容だった。


 対する切矢の内容は、新たに擬態した影人を二体発見したといったものである。

 それだけ聞けば、「何だ二体か」とも思うかもしれないが、しかしそれにより、既に発見済みの三体と合わせて、計五体もの影人が一般の生徒として学校に潜伏している事実が判明した事となる。

 もっと時間をかければ或いは……まだ見つかる可能性だって捨てきれない。

 


 とりあえず学校の調査はここまでだ。

 この後は街の調査と宿探し。そして、発見した影人の数などから今後の行動を決めたりと……考えることは山積みだ。


 などと、考えていた時だった。



「なぁ、気が付いてるか真城?」


 横で切矢が、声を潜めてそんな事を聞いて来る。

 真城は顔も目線も動かさず、小さく「はい」と頷いた。


 二人が感じた違和感。

 それは人の動きだった。


 複数人の塊が、二人の後をつけて来ている。そんな気配。

 しかも、それだけではない。


 建物の窓。

 或いは、道すがらすれ違う人々から感じる奇異の視線。


 初めの内は勘違い、考えすぎかとも思ったが……そうじゃない。

 明らかに、真城と切矢をつけ狙う影がある。


「……影人でしょうか?」


「さぁな、だがもしそうなら……探す手間が省けたぜ」


 視線に気づかぬフリをして、なるべく人通りの少ない場所へと移動する。

 仮に戦闘になるのなら、一般人の目が無い場所のが好都合である為だ。


「少しお腹が減りましたね」


「ここら辺、なんか美味しそうな物はあったかねぇ」


 などと、他愛のない会話を交わしつつ、端末で人目の少ない地点を検索する。

 追ってきている相手に気取られない様に怪しい動きは出来る限り控えつつ、画面を消した端末の黒い画面の反射を利用して、後方などの追ってくる人物を確かめる。


 人数は多い。

 しかし動きは素人だ。

 統率も取れていない。

 仮に追手がプロであったなら、こうまで簡単に真城達に気取られたりはしないだろう。

 そう思い、大通りから少しそれて横道に入ろうとした時だった。


「へぃ、そこの(あん)ちゃん。……ちょっと、いいかなぁ?」


 その通り道を塞ぐようにして、真城達に話しかけてくる集団があった。

 ジャラジャラとしたチェーンを腕や腰に巻き付ける。或いは指輪やピアスといった装飾品を付けている厳つい者達。

 中にはタバコをふかす者。

 金属バットを構える者まで様々だ。


「もちろん、ツラァ貸してくれるよな?」


 同意を強制する様に。

 こちらの意見など聞かないとばかりに睨みつけて威圧する。

 数人でジリジリと詰め寄って、真城達が逃げないように取り囲む。


「……、」


 それだけではない。

 真城達が来た方向。大通り側からも更に数人やって来る。

 時間と共に、取り囲む人数が増えていく。


 先程から感じていた視線。

 怪しい気配の正体は、こいつらであったようだ。

 

「……どうします?」


 真城は切矢に確認する。

 見たところ、彼らは影人ではない様だ。


「ま、仕方ないわな」


「何をごちゃごちゃ話してやがる!!」


 切矢がそう言い終わると同時、厳つい男達の攻撃が開始する。

 単純に拳を振るう者。

 メリケンサックを付けた拳を振るう者。

 金属バットを振るう者。

 蹴りを放つ者。

 等々、攻撃方法は様々だ。



「本気でやるなよ!!」


「わかってる!!」


 それらに対し、切矢と真城も応戦する。



……



 武器を持っているとはいえ、相手はただの一般人。

 真城も切矢も、そういった相手に対して後れなど取りはしない。

 一人一人確実に対処して沈めてく。


 向かう拳を払いのけ、カウンターを叩きこむ。

 肘鉄からの裏拳。足払い。掌打。様々な技を駆使して包囲網を突破する。


「つ、強い!?」


「なんだ、――こいつら!?」


 “影操作”も使用する。

 もちろん、攻撃の為には利用しない。

 ……使うのは、身体強化と防御手段。


「……ッ、どいてろお前ら!!」


 腕に自信のある奴が前に出る。

 金属バットを振り回し、そのリーチの長さを活かした戦闘スタイルで真城や切矢を威圧する。

 が、しかしそれでも止まらない。


 男の振り下ろしたバットを真城は腕で受け止める。

 その瞬間、ゴンッと鈍く音が響くが意味はない。

 真城の受け止めたその腕は、影で硬化させているからだ。


 それは真城や切矢にとっては当たり前の事。

 しかし、男にとってはそうではない。


「な、え!?」


 一瞬の狼狽え。困惑。

 或いは、本当に攻撃を当ててしまった動揺が、男の身体を強張らせる。

 切矢はそこを見逃さない。

 男の握ったバットを蹴り上げて明後日の方向へと吹き飛ばすと、残ったもう一方の脚で男の顔面を蹴り払う。


 真城が守り、切矢が撃つ。

 切矢が防御を崩して、真城が穿つ。

 それを何度も繰り返し、ものの数分で包囲網が完全に瓦解する。


「一体誰の差し金だ?」


 倒れ伏す男の首根っこを捕まえて、切矢はそう問いかける。

 だが、男が返答する前に、


「いたぞぉぉぉおおおおおお!!」


「こっちだぁぁぁあああ!!」


 と、更に男達がやって来る。


「ちっ……、どうすよ?」


「あまり騒ぎを大きくしたくはないですね……」


 真城は周りに目を向ける。

 道の端にはいくつもの家や店が立ち並ぶ。

 その陰に隠れる様にして、関係の無い市民達が怯えている。


『不良グループの抗争か何かか?』


『何でこんな所でやるんだよ……』


『おい、警察はまだか』


『避難しよう、巻き込まれるぞ!!』


 そういった声が聞こえてくる。


「……一旦引きましょうか、やるにしてもここはまずい」


「だな。あんまり派手にやりすぎると、後で本部の連中に何言われるか分かったもんじゃないしなぁ」


 真城と切矢は走り出す。

 目的地はもっと人の居ない場所。


「逃げたぞぉぉおおおおおおおおお!!!!」


「追えぇぇぇぇえええええ!!」


 男達が怒鳴りながら追ってくる。

 その人数は、また心なしか増えている。

 一体何人いるのやら。


「……前からも来やがったか!!」


 視線の先。前方からバットを持った男達が駆けてくる。

 しかも、


「バイク……だと……!?」


 派手な装飾に彩られたバイクに乗った輩まで現れる。

 “波嵐卍進(はらんばんじょう)”などと書かれた、大きな旗をでかでかと掲げて。


「はぁ……、クッソ!!」


 これではまるで波嵐市を舞台とした、真城達とあいつらの追いかけっこか何かである。

 追いかけっこと言えば、真城は最近体験した“アイ”の暴走事件を思い出す。

 つい最近も、真城は同じ様な体験をさせられた。

 あの時の追手はロボットであったが、そこは些細な違いだろう。


「またこういうのかよ!!」


 真城は誰に対するツッコミなのかも分からない文句を言うと、全力で走る事に集中する。



 追う者と追われる者。

 真城と切矢。そして、“波嵐卍進”の……追いかけっこの始まりであった。



……


…… ……



 追手をまく様に、何度も横道へ逸れて更に路地裏へと移動する。

 右へ左へ、目に入った曲がり角を迂曲して、塀や壁をよじ登り、道なき道を進んでく。


 相手にはバイクがある。故に、直線の道はマズいだろう。

 段差や階段といった地利もふんだんに利用する。


 それでも時にエンカウントしてしまう不良達は、一撃、二撃で沈めてく。

 思いがけずに挟み撃ちをされてしまった時などは、靴底に影を纏わしてのジャンプなどを使用する。

 流石に露骨な大ジャンプは行えないので、人間が頑張って出来る範囲のジャンプ力程度にはとどめておくのが無難だろう。

 相手の身体を跳び箱代わりに。或いは膝から肩へと登っていって人を跳び越える、といった踏み台代わりに利用して、人の壁も突破していく。



 問題だったのは、真城が波嵐市の地理に詳しくなかった事。

 時折端末の地図を使って大まかな場所を把握してはいるものの、それでは二次元的にしか分からない。

 実際にその場所に行って見て、どういう場所なのかを把握する。……そういった事態がザラなのだ。

 しかしそれに対して不良達は、真城が何度も道なき道を経由しようとも、波嵐市出身であるが故に地理にも明るく、その位置や場所でさえ立体的に把握してる為、真城のいる地点を把握して、すぐにやって来てしまう。

 地理の把握と人数。それは、真城が思っていた以上に大きなハンデとなっていた。



 追手をまけている。

 そう思って移動をしていても、その行動が実は不良達の掌の上。

 気が付くと不良達のテリトリーに誘い込まれてる……なんて事も、先程あったばかりである。

 戦闘能力と持久力(体力)が勝っていても、油断できないのが厄介だ。

 それだけでは、……この追いかけっこは勝ちえない。

 しかもそれに加えて、


「――ッ、くっ!!」


 時折、影の鞭などが何処からともなく襲い来る。

 真城を追っている不良達。その中には少数の影人達も紛れているのだ。


 一般の不良に紛れて、影人が影で攻撃を仕掛けてくる。

 人と人の合間を縫うようにして、真城を捉えようと影の触手が意識の隙間を突いてくる。

 厄介な事この上ない。

 こちらも影で応戦したいが、一般の目がそれを許さない。

 ……仕舞には、


「……切矢?」


 いつの間にやら、切矢とはぐれてしまう始末。

 不良達をまくのに必死で、気付いた時には遅かった。

 どこを見渡しても切矢の姿は、影も形も存在していなかった。


「どうしたもんか」


 影人の襲撃が確認された。

 それにより、今回の不良達との追いかけっこの背後には、影人の意思が混在している事がほぼ把握出来た事となる。

 神崎が懸念していたような、複数体の影人“フェイズ4”がいるという予想。

 そういった予想が……影人が裏で糸を引いているという事態が、現実味を帯びてくる。


 それにもう一つ分かった事。


「一体いつの間にこんなものまで……」


 真城は手に持った携帯端末の画面を確認する。


 その携帯端末は、不良の襲撃を受けた際に不良が落としたのを回収した代物だ。

 何故、真城がそんな携帯端末を拾ったか?

 それは、携帯端末に表示された“ある画像”を見たからだ。


 携帯端末の画面。

 そこには、真城晴輝(ましろはるき)

 並びに、切矢祐真(きりやゆうま)立花(たちばな)ひなた。

 それら三人の顔写真が表示されていた。


(既に俺達の事が向こうにはバレてるって事だよなぁ……)


 それも、顔と人数までもが筒抜けの状態で。

 一体いつの段階でそれが影人にバレたのか……それは分からないが兎に角、この事態は非常に厄介な状況と見るべきだ。

 不良達には、こういったメールで真城達の情報が伝達・共有されている。

 そしてその顔写真を頼りにし、何も知らない一般人……不良達が真城達“影狩り”を追って来る……。


 そうやって、この街の裏で暗躍する影人が“波嵐卍進”の情報網と人材を動員し、真城達を追い詰めようと画策しているというわけだ。


 影人の息がかかっているとはいえ、“波嵐卍進”は一般人の集団だ。

 一般人が襲ってくるのなら、“影狩り”は本気で戦えない。

 しかも一般人の目がある為に、仮に影人達が出張って来ても真城達は思うように“影操作”を扱えない。

 ……完全に不利な状況が出来上がってしまっていた。


 こうなると、真城の体力が尽きて不良達に捕まるのも時間の問題となってくる。

 もうあまり体力的な余裕も無い。

 決断を急がねば。


 真城は辺りを確認する。

 人の目、不良の存在は見当たらない。

 

 今なら、“影世界”へと侵入する事が可能だろう。

 一度“影世界”へ入ってしまえばそれ以上、一般人が追ってくる事は無い。

 追ってくるのは影人のみ。

 そうなれば、真城も影を使って戦える。


 真城は空を確認する。

 追いかけっこが始まって、もう30分は立っただろうか。

 次第に空も暗くなり、日が完全に沈みきるまでの時間も無い。

 日が沈めば、影が出来る場所も限られる。


 真城は荒い息を整える。

 一度大きく深呼吸、……そうして影のある場所へと移動する。


「これで……――ッ!?」


「いっったぁーーッ!!」


 突然、真城の眼前に男が一人降りてくる。

 それはジャラジャラとした銀色の装飾品を付けたスキンヘッドの男だった。

 男は真城を確認し、大声を上げる。


「見つけましたよ!! 大谷(おおたに)さぁん!!」


「な、に!?」


 もう追手がここまで来ていたか。

 真城は驚き足を止めると……その一瞬で大勢の不良達がやって来る。

 そうして気が付けば、真城を逃がさぬ包囲網が完成する。


「ははっ、やっとか」


 真城を取り囲む集団。

 その中から、一人の男が前に出る。


 黒いロングコートを着た男。

 それを見た瞬間、真城の全身が総毛立つ。


(――ッ、こいつ、影人か!?)


 男を包む黒いモヤ。

 それが、男の正体を告げていた。



「お前だな、“真城晴輝”ってのは。……ちょっと死んでくれねぇか? 良いよな、別に」



 真城と影人。

 二人の戦いが始まった。



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