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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第21話 『本体』



 真城は右手の“力”を、光を放出する。

 その瞬間、真城の身体はまるで何者かにグワンッと力任せに引っ張り上げられる様な負荷を受けながら、急速な上昇を開始した。


「――ぐ、ぎ、ぎッッ!!」


 それは発射されたロケットか何かに括られて、無理やり空の旅に付き合わされているかのような感覚だ。

 そのあまりの勢いに、まともな呼吸すらままならない。


 “力”を浴びた所為なのか、影人の叫び声が真城の耳に届いた様な気もしたが……正直この上昇で耳が軽くやられてしまった為、その是非は分からない。

 どうも影人達は真城の“力”を食らうと痛みが生じるようなので、仮に本当に聞こえていたとしても原因はそれだろう。

 どの道、影人が痛がっているとしても、真城がその手を離す理由はない。


 寧ろ影人を捕らえる右手には更に力を込めていく。

 捕まえたこの手は何が何でも離さない。

 真城が“影世界”から吐き出される力を利用して、影人を外の世界へ引きずり出す。



 数分は耐えていただろうか。

 まるで永遠にも似た急上昇をついに終え、ドッと“影世界”が真城と影人を吐き出した。


「――ごふっ、がはっ」


 吐き出され、宙に浮いた身体が地面へと着地すると同時。

 求めていた大量の空気を吸って一呼吸。


 隣を見れば、影人も苦しそうに藻掻いている。

 真城の右手は、尚も影人の片足を捕えていた。


 策は成功したの様だ。


 前にも何度か“影世界”で“力”を使って外へと吐き出された事はあったが、その時よりも身体にかかる負荷が強かった……気がするのは、上昇している時間が長い故の錯覚か? 将又、潜った深さによっても変わるのか?

 それは真城には分からないが、とにかくこの急上昇の間に、影人を捕えて逃がさなかった事に安堵する。が、


「がァ、あ!? ……ぁぁあああぁぁ、がァァああああああ!!!!??」


「――ッ痛!?」


 突如、藻掻き苦しむような声を上げ、影人が暴れ出す。

 身体をビクビクと震わせて、地面の上をのた打ち回る。

 そうして暴れ方が酷くなり、真城もついには掴んでいた手を離してしまう。


 よく見れば、影人は身体の一部が霧散しては再生を繰り返し、人の形が崩れてはまた戻るといった動きをしている様だった。

 状況が呑み込めず、事態を見守る事しか出来ない真城。


 確かに今までも、“力”を受けて苦しんでいた影人はいた。

 しかしここまでの苦しみ方をした影人は、未だかつていなかった。

 これは、真城にとっても初めてのものだった。



(ここは……何処だ?)


 目の前の影人に注意を払いつつ、真城は辺りを見渡した。

 もしも周りに人がいたのなら、この叫び声を聞きつけて集まってくる可能性も無くは無い。

 こんなまるで人間とは思えない動作で悶えている影人を、一般人に見られる訳にはいかないのだ。


 しかしよく見れば、周りにあるのは草木のみ。

 どこかの森の中にでも放り込まれた様である。

 真城はとりあえず人気が無い事に安堵する。


 近くには切矢の気配もない様だ。

 真城が上昇した時に、はぐれてしまったのだろう。


 “影世界”で“力”を使うのは余りオススメされるものじゃない。

 先程の様に急激に上昇し、外に吐き出されるまで止まらない。というのもあるのだが、何より吐き出される場所を自分で選べないというのが問題だ。


 今回は運良く人の居ない森の中に出られたが、これがもしも人の大勢いるような場所に出てしまえばアウトだし、道路の真ん中にでも飛び出せばそれこそ事故になりかねない。

 ……本当に、それ以外に道が無いような事態でしか使用を控えるべきものだ。


「あ、あぁあ……裏山だとッ? がァ、……ぐぁ、あ!?」


「裏山? そうか、ここが」


 影人は辺りを見渡してそんな事を呟くが、その言葉を聞いて真城も場所にピンとくる。

 影人の言った“裏山”。

 真城がやってきた波嵐市で、裏山と言われれば一つしかないだろう。

 まさか“影世界”から場所も選べずに吐き出されたからとはいっても、流石に別の街までは移動していないはずである。

 となれば裏山とは、ズバリ波嵐高校の裏手にある山の事となるだろう。

 真城と影人は、その裏山の山中……その何処かに吐き出された訳である。


「おいお前、……本当に大丈夫なのか?」


 未だにのた打ち回る影人へ、真城はそう問いかける。

 影人が苦しんでいる原因は、十中八九真城の“力”によるものであるのだろう。

 

 確かに真城は、影人が苦しみ、痛がる事は承知の上で“力”を使っている。

その結果、影人が死ぬ事も知っている。

 真城が“力”で影人を消し去ろうが、物理的に攻撃して影人を斃そうが、結果として影人を殺している事に違いはない。


 しかしだからといって、影人に苦しんで死んでほしいとは思っていないし、どの道同じ“殺す”事なら、出来得る限り苦しませずに殺したい。

 そう考えているのである。

 

 例え敵であっても。

 例え殺さなければならない存在であっても。

 その考えは違わない。



 今、目の前にいる影人。

 その苦しみ方は尋常ではなかった。

 仮に人間が、このような言動で苦しんでいたのなら、真城はすぐにでも救急車を呼ぶだろう。……それくらいの苦しみようだったのだ。


「く、くそッ!! がぁ、身体が……崩れるッッ!! ダメだッ!! 耐えられない!! ぐ、がぁあ……あ、俺の身体に、何をしたぁぁぁぁああああああ!!!!」


 立ち上がろうとして力を加えた足が、形を崩して霧散する。

 バランスを崩して倒れそうになる身体を支えようとして前に出した腕が、地面についた衝撃で崩れて霧散する。

 ついには受け身も取れずに頭から地面に突っ込んで、頭も身体も崩壊する。

 そしてその後、不定形になった黒い影の塊が再び人の形へ変化して、やはり形を保てずに崩壊する。


 時間が経つ毎に、霧散して消える箇所が増え、どんどんと形を保てなくなっている印象だ。


「この、身体が、ひ、引っ張られ……ッッ、ぐ、く、そッ!! 本体に……ッ、戻さ、れ……戻らないと、無理なの、か!?」


 影人は、ついには形を保つ事を諦めて、不定形の黒い影の塊のままその動きを一度停止させると、その次の瞬間、黒い影の塊が勢いよく、地を這って移動をし始める。


「……!? 待て!!」


 苦しみ藻掻いていたはずの影人の突然の行動に、慌てて真城もついていく。


(しまった!!)


 これで逃げられてしまうなど、断じて許されるものじゃない。

 真城は目を凝らし、草木の合間をシュルシュルと蛇の様に素早く移動する影の塊を追いかける。


(本体……? どういう意味だ?)


 真城は走りながらも考える。

 影人が移動を始める前、呻く声とは別に何やら意味のある言葉を発していた。

 『引っ張られる』。『本体』。『戻らないと』。……全く意味が分からない。


 影の塊が曲がり角を曲がった為、真城の視界から消える。


「くそ……ッ!!」


 真城は走る速度を上げると、影の塊が消えた曲がり角を同様に真城も曲がって前を見る。

 真城の目の前に飛び込んできた景色。それは――、


「……い、行き止まり?」


 そこは、山の一部が崩れて出来たのか、元々窪んでいる場所なのか。

 とにかく急な斜面や崖にU字の様に囲まれた所だった。

 人気の無い、いわゆる崖下の部分である。

 しかし、それとは別に真城の目に飛び込んできたものは、他にもあった。


「不法投棄か、これ?」

 

 それは乱雑に打ち捨てられたゴミの数々だった。

 冷蔵庫に洗濯機、扇風機やソファー、或いは……車のタイヤや、空き缶類が詰まったゴミ袋なんて物まであった。


「誰が、こんな……」


 流石に真城が今しがた通ってきた様な道なき道を使って運び入れた訳じゃないだろう。

 多分だが、この崖の上にちゃんと舗装された道でも通っているのだろう。

 そこから悪意のある人間が、投げ捨てているに違いない。


 真城はゴミをかき分けながら行き止まりに向かって進んで行く。

 影の塊は確かに、この行き止まりを目指して進んでいた。

 ここに来る途中の曲がり角で、一度は影の塊を見失いはしたものの、あの影の塊が角を曲がった後、この周りの崖や急斜面を上っていったとは思えない。

 もしも上っていっていたのなら、流石に真城も気が付いたはずである。

 真城がここに到着するまでの僅かな時間でこの崖や斜面を上り切って進むのは不可能だ。

 ……そうなると、このゴミの山の何処かに隠れた事になる。


「一体どこに、……ん?」


 ゴミの山の奥の奥。

 その崖の麓に、大きなゴミに隠れるようにして、人が一人は入れる程の小さな亀裂で出来た穴。洞窟のようなものを発見する。

 

「まさか、な」


 真城は穴を塞ぐゴミを退かして穴の中を覗き込む。

 するとその中には、――影人、稲守賢史(いなもりけんし)が座っていた。


「――――ッ、!?」


 予想していなかった訳じゃない。

 寧ろ予想は当たっていた。

 しかし、真城は驚いた。……驚いて、言葉を無くした。


 その理由は、座っていた稲守賢史。

 その影人の両足が、あらぬ方向に折れ曲がっていたからだ。


「チッ、ここまで来ちまいやがったか」


 真城の姿を確認し、影人は舌打ちする。


 人の形を保てているという事は、先程影人が起こしていた不具合は解消された様である。

しかし何故、足はそんな事になっている?

 或いは、のた打ち回る程の痛みが消えただけで、まだ完全に調子が戻った訳ではないのかもしれない?


「ここまで来られちまうとはな……」


 観念したでも様に、影人は溜息を吐いた。


「お前の能力は、俺にとって弱点そのものみたいだしな。また能力を使って戦う事は可能だろうが、……お前の“力”に触れれば俺は影の形を保てなくなる上に、ここまで引っ張られて戻される」


「……?」


「こっちの身体じゃ……まともに逃げることも難しい。ハァ……、もう早く殺せよ。その為に来たんだろ?」


 軽く脚を動かそうとして、それが無理である事を真城に見せると、影人は両腕を横に投げうって、もう抵抗しないといった構えをとる。

 今の影人にとって真城は、まな板の鯉。或いは、蛇に睨まれた蛙といった所だろう。


 最後の最後まで油断はしない。

 抵抗しないというのなら、真城にとってもありがたい。

 しかし、


「……その足は、どうした?」


 真城が浮かべた疑問はそれだった。

 視界に収めた直後では分からなかったが、よく見れば影人のあの足は真城の“力”を受けて崩れている訳じゃない。

 先程、影人が必死に形を整えようとしていた時のような不定形の塊が流動している様にも見えないし、何より影を操作している時に現れるような黒いモヤが一切視認出来ない。

 もしかすると、今の影人は“影操作”さえ使ってない。



 この影人は、本当に――“フェイズ4”なのか?


 “フェイズ4”には決まった形は存在しない。

 正確に言うのなら、人としての姿。その、影人化を起こす前の被害者が人間だった頃のものであり、影人に肉体を乗っ取られる前の……人間としての容姿はある。

 しかしそれは“フェイズ4”となった影人にとっては、出来得る姿の一つでしかない。

 全く別の他人の容姿へと変質させるには、流石にそういった能力でもない限りは無理だろうが、少なくとも人の形を保つ意味はそれ程無い。……はずだ。


 “フェイズ4”は、人間の肉体と精神を乗っ取った“フェイズ3”が時間をかけて肉体を影と同化させた事により、流動的な肉体を手に入れた存在だ。


 ……であるならば。

 この影人は、問題無く脚を動かせるはずなのだ。

 “フェイズ4”であるのなら……脚をあえて“あらぬ方向へ曲げたまま”にしておく意味は無い。

 流動的な肉体は決まった形を持たないのだから、“曲がった形”に意味も無い。

 

 人間の様に“骨”があるわけじゃないのだ。

 可動域など存在せず、好きな部分を好きな様に曲げられるし、曲げた事で痛みが発する事もない。


 にも関わらず、この影人は脚を動かさない。

 暗に“動かせない”と言っている。

 この影人が実体も、決まった形も持たない“フェイズ4”であるのなら、そんな事はありえない。



「……ヘマしたんだよ、“こいつ”がな」


 影人は少しだけ目を見開いて、驚いたような表情を作ると、嘲るようにして親指で自身を指さした。

 ここで言う“こいつ”とは、多分……稲守賢史(いなもりけんし)本人の事だろう。


「これから殺す相手に、そんな事聞いてどうすんだよ?」


「……、」


 影人は、真城の目を見て問いかける。

 確かにそんな事を真城や“影狩り”に話した所で得は無い。

 

 何を言おうが言うまいが、結局影人が死ぬ事に変わりない。

 今更、影人の傷なりハンデなりの意味を話した所で、何かが変化する訳でもない。

 

 それで、優しくでもしてくれるのか?

 それで、“影狩り”も何かハンデを背負って戦ってくれるのか?


 これから害する相手に?

 これから手をかけ、殺す相手に?


「――もしかして」


 と、影人はニヤリと唇を歪ませた。


「――俺を助けてくれるのかァ!?」


「……ッ!?」


 突如、影人の身体から黒いモヤが噴出する。

 それは次第に形を整えて、人の姿へと成っていく。

 影人、稲守賢史が……二人になる。


「……な、に?」


 その直後、ドゴンッッ!! という衝撃音と共に、亀裂の穴を塞いでいたゴミの山ごと真城が宙を舞う。

 

「くっ!!」


 真城が吹き飛ばされた理由。

 それは至近距離で影人の一撃を受けたからだった。

 影によるガードは間に合った。

 しかし影人が放った一撃の威力を相殺しきれずに、後方へと押し飛ばされてしまった。


「……、そういうことか」


 稲守賢史が二人になった。

 その衝撃は大きかったものの、……しかし同時に、納得する事もあった。


 直前まで真城と会話をしていた稲守(影人)と、彼が噴出させた影によって作り出したもう一人の稲守(影人)

 その二体の稲守(影人)には、明確な違いがあったのだ。


 それは、先程まで会話をしていた稲守(影人)

 彼の方は、脚があらぬ方向へと曲がり、脚を動かす事が出来ずにいるにも関わらず、新たに作り出されたもう一人の稲守(影人)はしっかりと自身の脚で立って行動をしている点。

 真城を殴り飛ばしたのも、当然後者の稲守(影人)だ。


 この点から察するに、校舎裏で真城と切矢が共に戦っていた影人は、この後者の方であるのだろう。


 稲守(影人)が二人に増えて以降。

 会話をしていた脚の動かない方の稲守(影人)は、目を瞑ったまま動かなくなった。


 この事から稲守(影人)の能力は、自身の意識と影を本来の身体から切り離し、影を自分のもう一つの身体として遠隔操作出来るというものなのだろう。

 本体は脚が動かせず、移動が困難だから……碌に動けない身体を捨てて、自由に行動する為の“力”といった所か。


 動ける方の稲守(影人)が、影の塊に意識を宿したものだとした場合、戦闘時に見せた“フェイズ4”と同様の動きにも合点がいく。

 原理としては“フェイズ4”と同様に、人の形をした実体の無い影の塊なのだから、その動きが同じでも不思議じゃない。


 となると、稲守賢史の影人は“フェイズ4”ではなく“フェイズ3”。

 真城が疑問に思っていた『一月で“フェイズ4”になれるのか?』、『そんなに早く、肉体は影と同化出来るのか?』問題も同時に解消したわけだ。


 そして、これはまだ真城の中の仮説だが……、


「うおぉりゃあああぁぁぁあああ!!!!」


 真城は迫る稲守(影人)に、渾身の“力”を集束させた白い右拳を叩きこむ。


 真城の“力”。

 その能力の根本的正体が、“影を霧散させて消失させる”或いは“無効化する”ものなのではないかという事。

 もし仮に、それが事実であったなら……。

 今現在、分離して活動している稲守(影人)に“力”を当てた時……何が起こる?


 身体を形作る影が“霧散して消失し”、“無効化される”のであれば、能力で“切り離していた意識は身体の影を失って、本体の肉体へと帰るしかない”はずだ。

 それは、“アイ”がロボットのボディを破壊された際、その意識がスーパーコンピュータへと強制送還される原理のと同様に。


 ……そして、もしもそうであるのなら。

 稲守(影人)の言っていた『引っ張られる』、『本体』、『戻らないと』の意味も分かるのだ。



「ぐ、がぁぁぁぁぁぁああああああああ!!??」


 真城の“力”が触れた瞬間、影人の咆哮が木霊する。

 触れた場所を起点とし、影の霧散・消滅が開始する。


 影人の身体が、突如“引っ張られる”かの様に、本体の肉体へ向かって後退する。

 真城はそこで止まらない。

 後退していく影人に、“力”を集束させた白い右拳を押し当てたまま本体へ向かって駆け抜ける。


 本体の影人と、分離していた影人が重なり合う。

 二人の稲守賢史が一つになる。

 と同時に、真城の右拳が本体の稲守の肉体にも突き刺さる。



「うおおおぉぉぉりゃああああぁぁぁああああ!!!!」


「ぐわぁぁぁああああああ!!!!」



 ブチブチッ、パァン!!

 と何かが千切れ、弾ける音がした。

 それと同時に、稲守を纏っていた影のモヤが消滅する。



「……助けるさ、“稲守賢史”なら、必ず」


「は、はは……。やっぱ、相性最悪だわ……その能力」


 真城の言葉を受けて一瞬、影人は穏やかな眼差しで小さく笑うと、負け惜しみの言葉を吐き捨てて目を瞑る。

 それ以降……影人、稲守賢史は動かなくなった。



 真城は、影人を斃したのだ。



…… ……



「おい、真城!! お前……こんな所にいたのか、捜したぞ」



 それは、真城が影人を撃破した後。

 乱雑に打ち捨てられたゴミをかき分けながら、意識の無い稲守を運び出している最中の事だった。

そんな切矢の声が耳に届いた。


 切矢は真城を見つけて駆けてくる。

 “影世界”で真城が“力”を発動し、影人と共に強制的に吐き出されていった後、切矢はずっと真城を探してくれていたのだろう。


「影人は……って、そいつはまさか……、斃したのか!?」


「はい」


 駆け寄ってきた切矢は、真城が背負っている人物を見て状況を理解する。

 切矢は続いて、稲守の足元にも目をやるが……それについての言及はしなかった。


「それにしても真城。“フェイズ4”はまだ真城の“力”でも難しいって話じゃなかったのか? 事前に聞いてた情報じゃ消滅して消えるって……、成功したのか?」


「いや、それなんですが……」


 真城は戦った影人について説明する。

 その能力について。そして、その能力故に自分たちが“フェイズ4”だと勘違いしていただけで、実はこの影人が“フェイズ3”であった事、等々だ。


「なるほどねぇ。つぅことは、稲守の身体を乗っ取っていた影人は消え去って、稲守(こいつ)は元の人間に戻ったってわけだ」


「はい、そうなりますね。後遺症がどうなのかは調べてみないと分からないでしょうけど、……とりあえずこれで“幽霊騒動”の件は終了です」


 神崎から言い渡された任務。

 その“幽霊騒動”を起こしていた影人は討伐した。

 これでもう、騒動を起こす者はいないのだ。

 後は噂も、勝手に鎮静化するだろう。


「任務完了ってわけだ。……そうなると今回、俺はあんまり活躍出来なかったな」


 切矢はそう言って締めくくる。

 これでメインの任務は完了という事になるのだろう。


 この後は+α(プラスアルファ)

 『街の正常化』を残すのみ。


 後は街を徘徊し、影人を探して見るのがいいのだろう。



 それにしても。

 神崎の話では“フェイズ4”が複数体いるかもしれないといった予想だったが、……果たして本当にそんな影人はいるのだろうか?


 切矢が情報収集の際に発見したという擬態した影人。

 それが複数体いる事から、波嵐市が“影人工場”となっているのは事実だろう。

 だが仮に、この街の“影人工場”を管理する存在がいたのなら、折角誕生した影人をみすみす“影狩り”に斃されてしまうという事態は、望まないのではなかろうか?


 何が言いたいのかといえば、つまり……この街を管理する影人というものがいたのなら、真城や切矢が稲守の影人と戦っているのを知って助太刀に来ても良いはずだ。

 特に今回なんて戦闘は校舎裏と裏山で二回もあった。

 仮に最初の校舎裏での戦いに気が付かなかった。或いは、真城と切矢での二人がかりであった為に泣く泣く切り捨てたのだとしても、二度目の裏山での戦いは一対一であったのだ。


 生み出した影人を助けられ、且つ“影狩り”を仕留められるかもしれない好機。

絶好のチャンス。それを逃さない手も無いだろう。

 少なくとも、真城が影人側であったならそういった選択をするはずだ。

 それなのに……他の影人は来なかった。


 であるのなら、そういった波嵐市の“影人工場”を管理するような“フェイズ4”の影人は存在しない。

 或いは、“幽霊騒動”などと噂が立つくらいに活発な行動をとっていた稲守の影人こそが、その役割を担っていたのではないか。……と考える。


 元々、波嵐市の治安は悪かった。

 であるのなら、“フェイズ3”と言わずとも、“フェイズ1”程度の影人化を起こしている者達は初めから少なからず居たはずだ。

 そこへいじめによって影人化を起こして急成長。“フェイズ3”となった稲守の影人が現れて、他の影人達へと指示をし始めた。


 ……そういった線も、無いわけでは無いはずだ。



 もちろん、実際には波嵐市を仕切る“フェイズ4”がいて、何らかの理由で稲守の影人を切り捨てた。という線もある。

 それは、実際にこれから調べてみるまでは分からない。


 ただまぁ、考えの一つとして頭の片隅に留めて置くくらいは良いだろう。



「……よっこいしょ」


 それよりも今はまず、この稲守賢史の身体をどうするのかが問題だ。

 流石にこのまま人目のある場所まで抱えていく訳にもいかない。

 何せ、稲守賢史は行方不明という事になっている。

 加えて現状、足の折れ曲がり方からして目立つだろう。

 かと言って、じゃあこのまま山に放置します。……と言う訳にもいかない。

 もちろん真城だって、そんな事はしたくない。


 現在、稲守を背負っている真城に変わり、切矢が本部へと連絡を入れてくれており、稲守の身体をどうするのかの確認を取ってもらっている。

 しばらくして、端末であれこれと通話をしていた切矢が端末から耳を放した。


「『支援部隊』が近くまで来てくれる事になった。車が裏山付近に来るそうだから、そこで稲守を渡してくれってよ。後は『支援部隊』が病院へ連れてってくれるらしい」


「分かりました。じゃあ、まずはそこへ向かいますか」


 話を終えて、二人は移動を開始する。

 目的の合流地点、『支援部隊』が乗った車の位置は端末の地図に表示されているので、それを頼りに進めばいいのだろう。

 『支援部隊』が連れて行ってくれるという病院。

 それは当然、真城が最初の影人事件でお世話になった“東京医療国立病院”と同様に、“影狩り”の存在を知っていて協力をしてくれている所だろう。

 そうでなければ、事情の説明が面倒だ。



 まずは稲守を『支援部隊』へと引き渡す。

 その後、これからの事を考えよう。


 街の事もそうだが、いじめられていた生徒を追いかけていった立花の事も気がかりだ。

 まず何もないとは思うのだが、それでも今の状態を早く終わらせて次の行動に移した方が良いだろう。


 そう思い、真城と切矢の二人は、別に示し合わせた訳でもなく急ぎ裏山を下るのだった。



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