第9話 おじいちゃん
突然、車のフロントガラスに映し出されている女性が、「目的地に到着しました」というセリフを発した。
「山本さんの自宅に着いたようです」
「でも、売り家という看板が出ていますよ。それと、この家なんですが、確か私の祖父の家だと思うのですが・・・」
海斗の発言に戸惑いを感じながらも、見覚えの古ぼけた我が家に「売り家」という看板が立てかけてあった。
そして、和夫の脳裏に、あの奇妙な箱に吸い込まれた後に、この看板を目にした記憶が蘇ってきたのであった。
「ああ、何ということだ! 」
「本当に、未来へタイムスリップしてしまったのか」
和夫は、未来にタイムスリップした事実をついに受け入れたのだった。
「女房の花子は、どうしたのじゃ?」
「わしは、どうすれば良いのじゃ?」
途方に暮れている和夫を、海斗は冷静なまなざしで眺めていた。
そして、ある事実に気がついた。
「山本さんは、私のおじいさんですね」
「和夫じいちゃんですね!」
その様に海斗に呼びかけられた和夫は、海斗の顔を穴が開くほどに凝視して見つめた。
「私の孫の海斗なのか?」
和夫と海斗は、お互いが肉親であることを確かめ合うようにお互いの顔を見つめ、そして、自分の記憶の断片と照らし合わせた。
「海斗、海斗じゃないか!」
「立派になったなー」
「和夫じいちゃんも相変わらずで」
つい先程まで、交通事故の加害者と被害者という立場から、一転して肉親になってしまったことに、お互い狐につままれた感じで、顔を見合わせ大笑いした。
和夫と海斗は、車から降りて和夫の古ぼけた家の前にたたずみ、「売り家」となってしまった家を眺めていた。
「和夫じいちゃん」
「何じゃ」
「和夫じいちゃんが言っていた奇妙な箱を探さないか」
「そうじゃのう。探してみようか」
海斗は和夫の返事を聞く間もなく、古ぼけた家の門を開け、庭に入って行った。
「海斗。あの箱は、家の裏手にある倉庫にあるはずじゃ」
「裏手の倉庫?」
「ああ、こっちじゃ」
和夫は、少し痛む足をかばいながら、海斗を先導して倉庫の方へと歩いた。
倉庫の外装である板は腐食がひどく、所々腐っていた。
倉庫の扉は施錠してある様子はなく、少しだけ開いていた。
「海斗。この倉庫の中に、あの箱があるはずじゃ」
倉庫の扉を開け、和夫と海斗は中に入った。
倉庫の中は薄暗く、倉庫の窓から差し込む夕日の光が中を照らしていた。
そして、その夕日の光に照らされた奇妙な箱は、存在を誇示するかのように倉庫の中央に横たわっていた。