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第8話 自宅へ

「山本さん。私が車であなたの自宅まで送り届けますので、ご安心ください」


「そうか、すまんな」


と和夫は悪びれる様子もなく、海斗に返事をした。

和夫は当初、想定していた脱出方法と違ってはいたが、病院から脱出するという目的が達成できたことに満足していた。

それから、和夫は、海斗の車に乗り込むと自宅の住所を海斗に伝えた。

海斗は、和夫の住所を声に出して発声すると、車のフロントガラスに女性の映像が映し出された。


「こんにちは、海斗さん。目的地に向けて発進します」

「目的地までの所要時間は、30分です」


と、その女性が返事をした。

海斗は、和夫が言った住所を繰り返して発声した時、あることに気がついた。


「山本さんの自宅の住所ですが、私のおじいさんの家の近くだと思うのですが?」


「そうなのか」


「ええ、確か・・・。子供の頃に良く親父に連れて行ってもらいました」


「そのおじいさんは、今、どうしているのじゃね」


「もう、亡くなっていますよ」


「そうか。何歳で亡くなったのじゃね?」


「私の記憶では、75歳だったと思います」


「75歳か。わしの歳からすると、あと10年後じゃのう。割と早くになくなっておるのう」


「そうですね」


「どんなおじいさんじゃった?」


「とても優しかった思い出があります。よくおじいさんの家に行って、一緒に遊んでくれました」


「おお、そうか。わしも孫と一緒によく遊ぶぞ。どんな遊びをしたんじゃ?」


「そうですねー。おじいさんの家の近くにある川によく連れて行ってもらって、魚取りなどをして遊んでくれました」


「わしも孫を川へ連れて行ってあげておるぞ。一緒じゃのう」


和夫と海斗が思い出話に花を咲かせていた間、車は自動的に走行していた。


和夫は、ふと海斗がハンドルを握っていないことに気がついた。


「おい、君!、車のハンドルを握っておらんじゃないか。車が動いているのに、何を考えておるのじゃ」


「えっ、今は自動運転中ですよ。ご存じないのですか?」


「自動運転・・・」


「何じゃ、それは?」


「自動運転を知らないのですか。人間が運転操作しなくても、車が自動で操縦してくれるんですよ」


「そんな車が、発売されておるのか?」


「ええ、もう10年以上前に発売されて、今では大半の車は自動運転できますよ。もちろん、手動運転に切り替えることもできます」


和夫は驚きのあまり何も言えず、今、乗っている車の室内を見回した。

海斗との話に夢中になっていたせいもあり、和夫が以前に自分が乗っていた車の室内に比べ、ハンドルの形やインパネの造り等が違っていることに気がついた。


「この車はいつ頃、買ったんじゃね?」


「そうですねー。3年程経ちますので、2042年ですね」


「2042年じゃと!」


「ええ、そうですよ」


「何か、おかしいですか?」


「そうすると今は、2045年か?」


「そうですよ。山本さん、大丈夫ですか?」


和夫は、入院していた病院で看護師の女性が言っていた日付を思い出した。

確かに、あの看護師も2045年と言っていたことに・・・。


和夫は、改めて自分が今いる周りの状況を、よくよく観察してみると、見た事も聞いたこともない物が多くあることに気づき始めた。


「あのー、海斗くん。わしは、どうやら2019年からの記憶が無くなっておるようじゃ」


「えっ、26年間もですか?」


「それが、自分でもよく分からないのじゃ」


「わしは、今の年は2019年と思っておったが、病院の看護師も、そして海斗くんも今は、2045年と言っておる。わしを騙そうとして、2045年と言っているとは思えん!」


「ええ、騙すつもりで言っていませんよ。本当に今は、2045年ですから」


和夫は、今が2045年であることを確信した。

そして、海斗に和夫の身に起こった出来事を話し始めた。

花子という女房がいたことや、地震が起きたこと。

そして、奇妙な箱を見つけ、その箱に吸い込まれたことなどを話したのだった。

海斗は、和夫の話を真剣な表情で聞き入っていた。

そして、和夫にある仮設を話し始めた。


「おじいさんは、2019年からタイムスリップしてしまったのではないですか」


「タイムスリップじゃと!」


「ええ、今、話してもらった出来事から考えると、それが一番しっくりします。今の量子物理学では、物質を空間移動することが可能になってきています。まだ、実用化には至っていませんが・・・。ですから、時間を超えて物質や人間が、時空を移動することも可能であることが分かってきています。おそらく、地震などの影響で時空にひずみが生じ、その箱が時空の入り口となって、2019年から2045年にタイムスリップしてしまったんですよ」


「はぁー。そうなのか・・・」


和夫は、海斗の話が雲を掴むような内容で全く理解できず、SF映画であるまいし、自分の身にそのようなことが現実に起こっているとは到底納得がいかなかった。


しかし、今、目の前に見える様々な空想的な乗り物や物が、和夫にとっての未来である2045年を指し示していることは、確かであった。


そして、車窓から見える街の風景を改めて眺めてみると、和夫が今まで見たことのある景色とは違って見えるのだった。


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