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第6話 脱出作戦2

8時になると、配膳係の方が病院食をベッドに備えつけの机まで運んでくれた。

和夫は、何日ぶりかの食事をむさぼるようにがぶついた。

病院食だけに味気なさはあったものの、空腹を満たすのには十分な食事だった。

朝食を終えたあと、看護師が再び病室に入ってきた。


「おじいさん、後で回診がありますから、ベッドに横になって体温を測っておいてね」


と机に体温計を置いた。

和夫は、体温計を脇に挟みながら、看護師に話しかけた。


「看護師さん、一つ頼みを聞いてくれるかね」


「ええ、いいですよ」


「頼みごとは、何ですか?」


「昨日、わしに事故を負わせた山本海斗という人に連絡してくれないかね。連絡先は、この名刺に書いてある」


和夫は、名刺を看護師に手渡し、続けて頼み事をした。


「その人に連絡して、今日、わしの所に来るように言っていたと、伝えて欲しいのじゃが」


「分かりました。連絡しておきますね」


と看護師は、受け取った名刺を持って病室から出て行った。


それから、一時間程が過ぎたのち、医師の回診が始まった。

和夫の病室にも担当医が入ってきた。


「おはようございます。山本和夫さんですね」


「担当医の中村といいます」


担当医は、和夫の顔色を診ながら、体温計の体温を確認した。


「熱は出ていないですね」


「体で痛い所は、どこかありますか?」


「特に、痛い所はない!」


和夫は、少し担当医の問診に警戒しながら、強い口調で答えた。


「そうですか。山本さんは全身を強打して、この病院に緊急搬送されてきたのですが、その時の記憶はありますか?」


「車に引かれた時の記録は、全くないのう」


「そうですか。それでは、肘や膝の関節の動きを確認します」


と医師が言うと、和夫の肘を曲げ、次に足に手を当てて曲げ伸ばした。


「肘や膝を曲げた時に、痛みはありますか?」


「膝は、少しだけ痛みはあるが、それ程でもない」


「分かりました。あと、内臓関係の炎症状況を確認したいので、採血をします」


「血を取るのか?」


「ええ、そうですよ」


担当医は、付き添いの看護師に採血をするよう指示をした。


「血を取って結果が悪かったら、どうするのじゃ」


と不安げな表情で和夫は、担当医に質問をした。


「炎症反応の値が高ければ、炎症を抑える薬を点滴します」


「薬を変えるのか?」


「ええ、そうなります」


和夫は、担当医から返ってきた「薬を変える」という答えにすぐさま反応し、「もしかして、その薬を使って殺そうとしているのでは!」という思いが脳裏に浮かんだ。


看護師は、担当医からの指示に従い、和夫の腕を掴むと採血をし始めた。


「おじいさん、手がしびれたりしませんか?」


「ああ、なんともない。大丈夫じゃ」


採血が終わると、担当医と付き添いの看護師は、病室から出て行った。


和夫は、落ち着きを取り戻すと、この病院から脱出する作戦のことで頭がいっぱいになった。


「早く、あの海斗とかいう青年が来ないものか」


と独り言を呟いた。


和夫は、海斗という青年が来るまでの間、病院からの脱出作戦の段取りを頭の中で回想していた。

頭の中でイメージするうえでは、脱出は作戦どおりに事が運ぶことばかりを思い描いていたが、実際に実行して問題なく遂行できるかどうかの保障は何もなかった。


それから、どれ程の時間が経っただろうか。

海斗という青年が待てども病室に来なかった。

しびれを切らせた和夫は、呼び出しベルのボタンを押した


「山本さん、どうされましたか?」


と呼び出しベルのリモコンに付随しているスピーカーから、看護師の声がした。


「すまんが。朝、看護師に頼みごとをしたのじゃが。その後、どうなった!」


と少しイライラした口調で尋ねた。


「あぁ、名刺の男性に連絡する件ですね。山本海斗さんに、ですね」


「ああ、そうだ。何時にわしの所に来るのかね」


「連絡はしましたよ。昼過ぎに来ると言っていましたから、もう少し待って下さい」


看護師は、事務的に和夫の質問に回答した。

和夫は、看護師からの回答に少し安心したものの、本当に海斗という青年が病院に来るのか半信半疑であった。


「あの青年が来ないことには、この病院から脱出できんぞ」


と、また独り言を呟いた。和夫は、海斗という青年の事を考え始めた。


「あの山本海斗という青年に、どこか見覚えがあるのじゃが・・・」


と海斗という青年の面影を思い出しながら考え始めた。


「海斗という名前も、どこかで聞いたことがあるのじゃが・・・」


記録力が衰退しつつある脳に蓄積された記憶の断片を掘り起こしながら、ふと、和夫の息子の孫の名前と同じであることを思い出したのであった。


「わしの孫も確か、海斗という名前じゃったぞ。」


「しかし、孫はわしの記憶では、まだ三歳になったぐらいだ」


和夫は、自分の孫と海斗という青年の面影を頭の中で思い描き、目元が似ているように感じたものの、意味のない妄想をしてしまったことに恥ずかしさを感じた。


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