第5話 脱出作戦1
病室の窓から朝日が射し込み、静寂と爽やかな光が部屋全体に注がれていた。
光の流れが和夫の顔に流れ込んできた。
爽やかな光が和夫の深い眠りを覚ますかのように、優しく語りかけていた。
その語りかけに応えるかのように、和夫は目を覚ました。
「朝の様じゃ。よく眠ったな」
久しぶりに深い睡眠を取った和夫は、落ち着いた面持ちで病室の窓から見える景色を眺めていた。
今までに和夫の身に起こった様々な出来事が、夢の中の出来事のように感じていた。
「きっと、悪い夢でも見ておったのじゃ」
安堵の気持ちから発せられた言葉を自分に言い聞かせるようにため息を吐いた。
そして、つかの間の静寂のひと時を楽しんでいた。
「コツ、コツ、コツ、コツ」
その静寂のひと時を打ち払うように、けたたましい足音が和夫の病室に近づいてくるのが聞こえた。
そして、病室のドアの付近で足音が消えたかと思うと、ドアが勢いよく開いた。
「おじいさん、おはよう!」
見覚えのある顔と声に和夫は、昨日までの出来事が夢ではない事に気がつき、落胆した声で挨拶をした。
「おはよう」
和夫が挨拶をした相手は、昨日の看護師であった。
「体調は、いかがですか?」
「どこか痛む所は、ありますか?」
と優しい口調で聞いてきた。
和夫は、体を恐る恐る動かしてみたが、特に、痛む所はなかった。
「特に、痛い所はないが」
「それは良かったわ。8時になったら朝食になりますからね」
「朝食後は、医師による回診があります」
和夫は、看護師が言った「医師」という言葉に、敏感に反応した。
「医者が、診に来るのか?」
「ええ、そうよ。おじいさんの様態を診にくるのよ」
「そうか」
和夫は、ズボンに押し込んだ「極秘文書」に書かれていた内容を思い出し、恐れを感じた。
「医者が診察した後は、どうなるんじゃ」
「それは、医師の診察の結果で、おじいさんが今、打っている点滴を増やしたり、薬を変えたりするのよ」
「そうなのか」
和夫は、自分が高齢者という身であり、身元を証明することができていない状況から、もし、あの「極秘文書」に書いてあった事が事実であったなら、自分は毒殺されるのではないかという不安に苛まれた。
そして、何とか今の状況から逃げ出す方法はないのかと考えを巡らせた。
「看護師さん、便所に行きたいのじゃが」
「トイレは病室を出て、左手に行った先ですけど」
「おじいさん、一人で歩いて行けますか?」
「ああ、たぶん、大丈夫じゃ」
和夫は、ベッドから起き上がると、点滴がぶら下がっている点滴スタンドを握りしめて立ちあがった。
和夫は、少し頭がふらついたが、歩くことができることを実感でき、病室を出てトイレに行った。
トイレで用を足しながら、この病院から脱出する方法を思案した。
そして、用を足し終えてから病室に戻りベッドに横になった。
和夫は、腹ごしらえをした後に、この病院から脱出する作戦を決行することにした。