第23話 和夫の墓
「あー、うまかった!」
海斗は、飯で満たされて膨れた腹を叩いて満腹である表現をした。
「わしも満足じゃ」
空腹が満たされた二人は、しばらく満たされた気持ちを楽しんでいた。
そして、あのニュースのことを再び話始めた。
「なあ、じいちゃん。さっきのニュースのこと何だけど」
「どうしたんじゃ」
「恐らく警察は、僕らの身元をすぐに特定すると思うんだ」
「それは、どうしてじゃ」
「僕らが逃げ込んだケーブルテレビ局に設置してあった監視カメラに、僕らの映像が記録されていると思
うんだ。それを警察が確認すれば、顔認識システムで直ぐに身元が特定されてしまうんだ」
「そうなのかい」
「でも、和夫じいちゃんは、顔認識システムにデータが登録されていないから、特定はされないけどね」
「それは、どうしてじゃ」
「じいちゃんは、2019年からタイムスリップして来ているだろう。顔認識システムが導入されたのは、2035年なんだ。十八歳になると、個人情報として証明写真を役所に登録するシステムなんだよ。この登録は、法律で義務づけされているから」
「そうなのかい。ということは、わしは2035年までには、死んでおるということじゃな?」
「ああ、そうだよ」
海斗は、悪気なく和夫の問い掛けに答えた。
和夫は、海斗の返事に納得した表情を示したものの、浮かない顔をしていた。
「そうか。2035年には、わしは、もう死んでおるのか」
海斗は、何気なく和夫の問い掛けに答えてしまったことに、罪悪感に苛まれていた。
「じいちゃん。変なこと言ってしまって、ゴメン」
「いいんだよ。お前が悪いんじゃない。ただ、わしの寿命が気になってのう」
「ところで、わしの墓はあるのか?」
「そんなこと聞いて、どうするんだい」
「できれば、見てみたいんじゃが・・・」
「エッ、じいちゃんの墓を・・・・」
「やめた方がいいよ」
「でも、どうしても見たいんじゃ」
海斗は、和夫の真剣な眼差しに答えざるを得なかった。
「分かったよ。でも、この事件が無事に片づいたら、じいちゃんの墓に連れて行くよ」
「頼んだよ」
「ああ」
海斗は和夫に、「和夫の墓に連れて行く」と答えてしまったことを悔いていた。
自分の墓を見て、自分の寿命を知ってしまったら、和夫がショックを受けるのではないかと怖くなったのだ。
しかし、「墓に連れて行く」と約束してしまった以上は、守らないといけないとも思っていたのだった。