第16話 部長報告
「田中、部長は、どこにいるか知っているか」
と隣の席の田中に聞いた。
「さっきまで席にいたけれどなぁ。行き先は知らないぞ」
「そっか・・・」
海斗は、社会部のフロアーをキョロキョロと見渡しながら、部長がいないか目で探していた。
すると、ドアが開き部長がフロアーへ入って、自分のデスクへ向かうのが見えた。
海斗は、和夫から手渡された書類をカバンから取り出し、書類を持って部長のデスクへと進んだ。
「部長、ちょっと、お見せしたいものがございます」
「おう、海斗くん。何だね」
「向こうの打合せ室で、お話したいのですが」
「何だね。深刻な相談事でもするのか?」
「それとも、めでたい話かな?」
と部長は、子供っぽく笑って、海斗に言った。
海斗は部長を連れて打合せ室に入ると、真剣な面持ちで部長に和夫から手渡された書類を見せた。
部長は、いつもと違う真剣な海斗の眼差しに、少しビックリした表情でその書類を手に取った。
部長は、海斗から手渡された書類を読み終えると、海斗を問い正した。
「この文書は、どこで入手した!」
「私の知り合いからです」
「そうか。私も影の政府NRGが存在するという噂は耳にしておったが、この様な極秘文書を目にするのは初めてだ!」
「海斗くんの知り合いは、この文書をどこで入手したのだね」
「あるビジネス街でサラリーマン風の男性と通りすがりにぶつかったそうで、その時、男性が落としていったようなんです」
「おぅ、そうか・・・」
「海斗くん、この事を記事に書くつもりか?」
「ええ、その予定です」
「しかし、この機密文書が本物かどうか、裏を取ったのかね?」
「それは、今から裏を取ります。その前に部長の了承を得たかったのです」
「分かった。裏が取れたら、一面で載せよう」
「ありがとうございます」
「裏が取れるまで、この文書は私が預かることにするが、良いかね?」
「ええ、よろしいですが、部長に預ける前にアリスにコピーを取らせます」
海斗は、部長から極秘文書を返してもらおうと手を出した。
すると、部長は一瞬、不服そうな表情を覘かせたが、海斗に文書を返した。
「少々、お待ち下さい」
海斗は自分のデスクに戻り、モニターに映し出されたアリスに文書の写真を取るよう指示した。
「海斗さん、文書の写真を撮りました」
「サンキュ、この写真を保存して、それから自宅のエミリーへ送信しておいてくれ」
とアリスに指示をした。
海斗は文書のコピーが完了したことを確認し、打合せ室へ文書を持って戻った。
「部長、先程の文書です」
「おお、悪いな。では、この書類は私が一旦、預かっておく」
「よろしくお願いします」
「裏が取れたら、至急、報告してくれ。頼んだぞ!」
「分かりました。では、早速、私は情報の裏を取ってきます!」
海斗は部長に極秘文書の保管を頼み、早々に情報の裏を取るため、打合せ室を出た。
そして、デスクへ一旦戻り、取材で必要な備品を支度すると、急いで取材へと出かけた。
部長は、海斗が取材に出かけたのを確認すると、ひっそりとフロアーから退室して、電話をかけ始めた。
「例の件ですが、私の部下の知り合いが拾ったらしく、今、私が文書の原本を持っています。如何いたしましょうか?」
「部下の名前ですか?」
「山本海斗という名です」
「その部下は今、この文書の裏を取りに出かけて行きました」
「どこに出かけたのかは、分かりません」
「しばらく部下の様子を見て、問題が起こったら、また連絡します」
部長は電話を切ると、何事もなかったかのようにフロアーに戻り、自分のデスクに向かった。