第15話 新聞社へ
朝の眩い光がリビングのカーテンに反射し、部屋が穂のかに淡いオレンジ色に染まっていた。
爽やかな朝日が差し込む部屋に、けたたましく目覚まし時計のベルがこだました。
「もう、朝か」
海斗は重たい体を起こし、目覚まし時計のベルを止めると、会社へ行く身支度をし始めた。
ソファーに年老いた老人が横たわっていることに、気がついた。
「あっ、そうか。和夫じいちゃんがいたんだっけ!」
海斗は、昨日の出来事を思い出しながら、和夫から手渡された書類をカバンに入れた。
そして、ソファーに横たわる和夫の肩を揺さぶりながら話しかけた。
「和夫じいちゃん、和夫じいちゃん」
和夫は海斗に起こされると、寝ぼけ眼で海斗を見つめ、やさしい声でささやいた。
「なんじゃ、花子か?」
「花子じゃないよ、海斗だよ!」
和夫は、低い男の声にビックリして目が覚めた。
「海斗か」
「おはよう、じいちゃん。僕は会社へ行ってくるからね」
「おお、そうか。頑張れよ」
「じいちゃんは、ここで、まだ寝ていればいいから」
「ああ、分かった」
「何か用事があれば、メモに書いた番号に電話してくれればいいからさあ」
「おう、そうか」
「それと、外へは出ないようにしてね。何かあるといけないから」
「ああ、分かったよ。今日は、ゆっくりこの部屋で過ごすよ」
「それじゃー。会社へ行って来るよ」
和夫は、孫の部屋に独りきりで一日過ごすことに不安は感じたものの、まだ眠気が強かったため、そのままソファーに横になって睡眠を続けた。
海斗は、駐車場に止めておいた車に乗り、新聞社に向け出発した。
新聞社に到着すると、社会部のオフィースへ足早に向かった。
海斗は、社会部で介護問題に関する記事を担当しており、加速度的に高齢化が進んだ日本社会の問題や政府・自治体などの取り組みを紙面に載せ、読者に情報提供を行っていた。
介護問題は、社会的な問題に留まらず、今や日本経済に深刻な打撃を与えており、経済危機がささやかれていた。
「おはよう!」
海斗は、職場の部員に挨拶をした。社会部は、総勢30名の人員で運営されていた。
「おはよう、海斗!」
となりのデスクの田中が挨拶をしてきた。
田中は海斗と同期入社で、記事掲載についてお互い相談をする間柄だ。
「やぁ、おはよう」
海斗は、デスクの椅子に座ると、机の上に設置してあるモニターに話かけた。
「おはよう。アリス」
すると、モニターに女性が映し出され、海斗に挨拶した。
「おはようございます。海斗さん」
「メールは、何件届いている?」
「30件です」
「了解。緊急の案件はあるかい?」
「5件あります」
「表示してくれ」
と、海斗がモニターの人工知能の女性アリスに指示すると、自動で重要案件のメールが表示された。
海斗は、そのメールに目を通すと、その内の一件に返信する必要があった。
「アリス。このメールに返信するから」
と海斗はアリスに指示し、海斗は返信メールの原稿を入力し始めた。
原稿の入力が完了すると、アリスに別の指示をした。
「誤字が無いか確認して、返信を頼むよ」
モニターに映し出されたアリスは、海斗が作成した返信原稿の文章を確認し、誤字があれば自ら修正を行った。
「海斗さん、返信完了しました」
「サンキュ!」
海斗は朝のメール確認を終えると、部長のデスクの方を見て、部長が席にいるか確認した。
どうやら部長は不在の様で、席にはいなかった。