第12話 ダイヤルのからくり
「和夫じいちゃん、花子ばあちゃんは、元気にしているよ」
と海斗は言い直した。
「あの奇妙な箱の正体が解明できれば、じいちゃんは元の場所にもどれるからさぁ」
と何の根拠もないまま、海斗は和夫を励ました。
「そうじゃのう」
「そうさぁ、腹ごしらえしてから、ゆっくり考えようよ」
和夫は、孫である海斗の優しさに涙が自然と流れ出した。
「海斗よ! 立派な大人になったのう。じいちゃんは、安心した」
「そうかなぁ」
と海斗は、照れくさそうに頭を手で掻いた。
それへ、店員が注文した食事を持ってテーブルへ運んできた。
「唐揚げ定食と、アジの開き定食です。ご注文は以上ですね」
二人は、湯気の立つ食事を前にして店員の問い掛けにうなずき終わると、即座に飯を食い始めた。
二人は一言もしゃべらず、飯を食うことに集中した。
そして、定食の半分くらいを食べたところで、海斗が和夫に質問をした。
「和夫じいちゃん。あの箱のことだけどさぁー」
「あの箱が、どうしたんじゃ」
「じいちゃんが、あの箱を初めて見つけた時、箱に付いていたダイヤルの数字は、いくつになっていたのさぁ」
「そうさのう、確か・・・」
「2・0・1・9 じゃった」
「やっぱり、そうか!」
「あの箱の蓋を、じいちゃんも開けたんでしょう?」
「ああ、開けた。そうしたら、煙と眩い光が立ちこめて、気がついたら、このありさまじゃ」
「蓋を開ける時に、何かした?」
「そう言えば、あのダイヤルを触ってしまったぞ」
海斗は、和夫の言葉にピンときた様子で、
「そうか! 分かったぞ。おそらく、ダイヤルをタイムスリップしたい西暦に合してから蓋を開ければいいんだよ」
「そうなのか?」
海斗は、自分のヒラメキに納得した様子で、残りの飯を平らげた。
和夫も海斗が食べ終わってから、5分ほど後に食事を終えた。
「ああ、腹いっぱいになったのう」
「僕も腹いっぱいだ」
「ここの飯は、うまいのう!」
「そうでしょう! だから、いつも来ているんだ」
「あの店員の女の子目当てじゃーないのか」
「そっ、そんなことはないよ」
と海斗は、和夫のツッコミに図星であることを隠すように答えた。
「さあ、僕の家へ帰ろうか?」
「ところで海斗、おまえは独り暮らしか?」
「ええ、そうだよ」
和夫は、海斗が独身であることを言い当てたことに満足しつつも、何処か虚しさを感じていた。
「早く嫁さんをもらうんじゃぞ」
「分かっているさ」
「さあ、店を出よう」
と二人は、席を立って勘定をするためにレジの所まで歩いて行った。
和夫は、反射的にお金を払おうとズボンに手を入れた。
「わしが払おうか?」
「いいよ。和夫じいちゃん。僕が払うからさぁー」
と海斗は、財布から現金1万円を出した。
和夫は、その1万円に印刷されている肖像画を見て驚きを隠せずにいた。
「福沢諭吉でなく、小泉純一朗が印刷されている!」
と、声を発してしまった。
「ええ、知らなかった?」
思わず驚きを声に出してしまった和夫のセリフに、店員が気がついて、
「あら、お客さん! まだボケるのは、早いわよ」
と、軽くあしらわれた。
和夫は、店員の言葉に少しムッとしたが、過去から未来にタイムスリップしている事を気がつかれずに済んだことに安心した。
和夫は、お金を払おうとズボンに入れた手を出した。
その手には、あの「極秘文書」が握られていたのだった。