第10話 ふたたびボックス
和夫は、奇妙な箱を見つけると、指を指して海斗に伝えた。
「あの箱じゃ」
「あの箱が・・・」
「結構、大きい箱だなあ」
海斗は、恐る恐る大きな箱に近づき、箱の様子を観察し始めた。
「和夫じいちゃん。この箱の外側に何か文字か書いてあるよ」
「あぁ、確かに書いてある」
「何て書いてあるのか、和夫じいちゃんは分かる?」
「梵字の様にも見えるが、わしには分からん」
「確かに、梵字の様な文字だね。僕も分からないなあ」
和夫と海斗は、箱に刻まれている文字を食い入るように観察したが、結局のところ、その文字の意味は分からなかった。
「じいちゃん! 箱の前あたりに鍵のようなダイヤルが四つあるぞ」
海斗は、四つのダイヤルが指し示す数字を読み上げた。
「ダイヤルの数字は、2、0、4、5になっている」
和夫も、そのダイヤルが指し示す数字の並びを確認した。
「本当じゃ。2、0、4、5となっておるのう」
「この数字は、もしかして、西暦を指し示しているんじゃない?」
「そうかもしれんのう」
海斗は次に、箱の蓋に手をかけ始めた。
「和夫じいちゃん。この箱の蓋を開けてみるよ」
「おい! 待て!」
「蓋を開けるな!」
海斗は、和夫の威嚇した声に手を止めた。
「どうなるのか分からんから、開けん方がよい」
「そうだね。止めておいた方がいいよね」
「もしも、タイムスリップしてしまったら、大変な事になるしね」
海斗は、和夫の威嚇した声に恐れを感じたものの、箱の蓋を開けたいという衝動を抑えられずにいた。
そして、和夫がよそ見した瞬間を見測るように、箱の蓋に力を込めて押し上げた。
「何をしておる。開けるなー」
和夫の呼びかけも虚しく、海斗は箱の蓋を開けた。
「あれ、何も起きない」
「それと箱の中は、何も入っていない」
和夫も箱の中をのぞいて見たが、確かに空っぽの状態であった。
和夫は、何も起きなかったことにホッとしたと同時に、怒りが込み上げてきた。
「わしが開けるなと言ったのに、なぜ蓋を開けたのじゃ」
「何も起きなかったからよかったが、もし、二人ともタイムスリップしてしまったら、どうするんじゃ」
「ごめんなさい。蓋を開けるとどうなるのか、確かめたかったんだ」
「もう良い。二人とも無事だったからな」
海斗は、飼い犬が主人に怒られたようにしょんぼりした表情をみせたが、心の奥底では、まだこの奇妙な箱の正体を突き止めたくて仕方がなかった。
「蓋を開けたけれど、何も起こらなかった」
「どうしたらタイムスリップできるんだろうか?」
と海斗は和夫の顔を見ながら、ひとり呟いた。
「わしにも、それは分からん・・・」
「日も暮れて来た様じゃから、暗くなる前にここから出よう」
和夫は海斗に促した。
海斗は、不満そうな面持ちであったが、辺りが暗くなってきていたこともあり、和夫の言うとおりに倉庫から出ることにした。
「そうだね」
「和夫じいちゃん、今日はこのくらいにして帰ろう」