人との出会いはお約束 2/2
隊長が盗賊の方へ向かったので俺も後をついていくと武器を取り、ポケットの中のなどをあさる。
「ヒロ君。悪いが君も手伝ってくれるか。」
肩越しに隊長に言われ、俺も仕方なく了承した。
身分証や、現金、貴重品の回収。
武器は盗賊仲間やゴブリンなどがいると使用されると知った。
出発食前、亡くなられた方に祈りを捧げていたので、俺は後ろから眺めた。エルザと言われた人が一番前に座りその後ろを囲むように4人立った。人の隙間から、黒髪で、白のスカートに赤のベストを着た後姿をが見られた。
彼女を前から見たいという衝動もあったが、この隙にステータスを開き、馬術スキルを習得ポイントを振る方に時間を取った。驚いたことに既にレベルが12になっていた。
祈りが終わると、隊長の指示でテキパキと動き、俺も言われるままに御者台に座る。
箱馬車内には2人。ドサーム隊長とリクは馬に乗った。
「じゃあ、出発だ。」と隊長の掛け声で進む。
俺が言われたのは、御者台に座ること。それだけだった。
御者というより護衛として同行という事が分かった。
出立した後、道端に放置された遺体を見て、確認したい欲求に負けた。
「あの、お仲間さんも放置されるのですか?」
「はい。仕方ありません。遺品を回収する事しか出来ません…。」
俯いて答えてくれたが、泣きそうな顔をしており、俺もそれ以上話しかけることが出来なかった。
やっと人と会ったら暗い場面。喜べる気持ちはどこかへ飛ぶ。
操作方法を教えて貰いたかったが、彼女もこちらを一度も見ない。そんな雰囲気にはなれず、彼女の手綱の動きを見ているだけ。妙な雰囲気で過ごす事2時間。前方に集落が見えて来た。
村に入る木扉は開けっ放しで見張りも居ない。
これが初めて見たこの世界の住居。正直がっかりした。
外壁を木の板柵で囲み外側には畑が広がる。柵内は30軒ほどの木造平屋住宅と少しの畑。柵の脇を街道沿いに川が流れていた。
村を見た感動が初めにあったが、それ以上に文明が低い。
「いつの時代よ…。」というのが俺の感想だった。
村人の服装が薄汚れており、貧乏な農村のイメージそのもの。
畑以外これと言った店も見当たらない。
腰の高さまでありそうな大きな鶏が放し飼い。似たような動物がいる驚きもあるが、大きさが合致していない違和感が大きい。
口ばし、目つきが強そうだった。
俺は待っている様に言われたので、そのままセリアさんと御者台で座っていた。
彼女はしっかりと手綱を握っており、周囲に気を配っているように見回している。
村にやっと着いたのに、違和感が拭えず問いかける。
「降りないのですか?」
「…はい。先ほど襲われたばかりですのでまだ警戒が必要です。」
「え…。」と俺は混乱する。
そんなに治安が悪いの…。
「盗賊がまだ村にいる可能性があるのです。」
彼女は俺の顔を一度見た後、周りを見渡していた。
そこまで警戒をする必要があるのかと俺も周囲に目を配る。
思ったより物騒な世の中の様だと認識する。
これまで碌な目にあっていない。
幸運と言うパラメーターがあったら俺はかなり低いだろう。
現世から変わっていない事に、ため息が出る。
そんなに明らかにガッカリ感が出ていたのか、セリアさんが初めて俺の顔を正面から見る。
苦笑いを向けると、「どうかしましたか?」と冷静に聞かれ、首を横に振った。
村の人は畑作業をしていた5人と隊長が一番大きな家の戸を叩いて出て来た人の計6人。
街道沿いに人はおらず、寂しい所でもあった。
しかし、盗賊村というには、畑に女性や子供がいるし、こちらを注目している様子などなかった。
隊長が戻って来た所で馬車の扉を開けた。
「村長に死体処理は頼んで来ました。それでは先に進みます。」
俺からは姿が見えないが、声だけははっきりと聞こえた。
頼んだという事はこの村は安全と踏んだのだろうと思っていると、隊長が馬に跨り、セリアに進むように指示を出した。
「あの、僕はこのまま載せて貰っていいのですか?」
念の為の確認。横に来た隊長に問いかける。
「ああ。君にはお礼も必要だしここではな…。君もこちらへ行くのだろ?なら次の村の方が良いだろう。」
「そうして頂けると助かります。何分全く位置が分からないもので…。」
宿の様な物は見当たらないので、素直に申し出を受けることにした。
村を出た後、道幅が広くなった登坂車線のような所で馬車が止まる。
馬の為の休憩が必要と知った。
話をするいい機会となり、先ほどの村がサンブン村といい、貧しい部類であること、この先のフォーメリ村という宿のある村まで今日進むことが判った。
初めの情報としては上々だろう。俺も自分の事を聞かれるのが嫌だったので進んで話しをしなかった。
セリアさんも、悲しみから立ち直った後は、どちらかと言えばムッスリした顔をして、話しかけて来る事もない。
休憩中も馬の世話と飲み物を飲んだ後は男性は周囲の警戒、女性は箱馬車の中に入ってしまった。
俺は暫くボーっと御者台で座っていた。
フォーメリは木板の柵に囲まれた所で、サンブン村から2時間ほどだった。
村としては大きいと言うから期待していたが、2~300軒の家。開けた盆地に畑が広がる。入り口に門番が立っており、入る時には騎馬の2人が何やら話をしてカードの様な物をだしたら通過出来た。
中央部には家が固まり村と言うより町というのも少し分かった気がした。土塀の木造住宅ばかりだが、家一軒当たりはサンブン村とは違い大きい。2階建ても多く、店もあった。中央部を抜けると一軒だけ金属柵で囲まれた立派な白っぽいレンガ造りの家がある。
「お~、中世の田舎村のイメージだ…」と高揚感が戻って来た。
店の表示だろう。家が立ち並ぶ所は、扉の上にノートパソコンサイズの木板が掛かっている。
△と□を組み合わせた家の様な絵が描かれていた前で馬車が止まる。
俺の中では「?」が広がった。
ドサーム隊長が馬から降り、箱馬車の扉を開け言葉を交わした。その後俺の隣に来て小袋を差し出した。
「ここは宿だ。君もこの村に泊まるのだろ?ここでお別れだ。あと、これは君への報酬だ。少ないかもしれないが受け取って欲しい。」
「あ、ありがとうございます。」
小袋を受け取ると俺は慌わて気味に御者台から降りる。
俺の為にここで止まったと初めて気付いた。
受け取った小袋は小さいながらも重みを感じ、直ぐにでも確認したかったが、失礼にあたると思い、そのままマジックバックに放り込む。
「ここまで有難うございました。」
隊長に向かい、軽くお辞儀をした。
「いや。君には本当に感謝している。王都に来る事があったらまた会う事もあるだろう。その時はまた声を掛けてくれ。」
「あの、王都と言うのは?」
「なんだ?そんなことも話していないのか?」
隊長はチラリとセリアさんの方を見て息を吐く。
「この先馬車で5日ほど行った所だ。ここからなら定期的に馬車も出ているはずだ。必要なら手配することも出来るが…、宿でも相談すればきっとやってくれるだろう。」
口元に笑みを含んで教えてくれた。またお辞儀をすると手を上げて馬の方へ向かった。
王都の人という事以外知らないが、お金持ちなのだろう。
彼らを見送った後、宿の扉を開けた。