人との出会いはお約束 1/2 (ここから元2話 転移後から冒険者登録)
3日目
今日は朝から曇っている。
ライトヒールを掛けて傷は全くない。
MPが50ポイント必要で、直ぐには治らずに暫くかけ続ける必要があった。
10分ほどで完治したが、その間に50MPを追加で持っていかれる。
おかげでまだMPは半分弱。
MPはいくらあってもいいかもしれないと思った。
服が血だらけだしみすぼらしい。水筒の水で顔を洗い服も少し洗ったが手遅れ。
袖も無いし俺のゴルフウェアはもうだめだろう。
色が黒と言うのがマシであまり血のりもめだたない。
しかし茶色のズボンには黒ずみの様に血の模様がついてしまっている。
また襲われる可能性があり備える為、暗視スキルと隠蔽スキルにも9Pずつ振った。
それ以上振れなかった。
暗視スキルは効果があり、暗い林の中でも30ⅿほどなら白黒で物が見える。ついでに遠視スキルも習得10にしておいた。
スキルを全て発動させれば、50~60ⅿほど見えるようになった。
この世界の明るい星光では倍の距離でも見えた。
まだ午前中だろう。小腹が空き、天候の回復に安堵しながら干し肉をまた齧る。
『今日も村に着かないのかな…。』とトボトボと歩いていると道が分かれていた。
気分的にもそうだが、怠さが残っており、気を抜くと座りたくなる。
T字の街道で、正面に大きめの岩が地面に置いてあり目印の様だ。左右に広がる道は俺が通っていた道よりも整備がされており、希望が持てた。
沈みがちの気持ちが幾分軽くなる。
太陽の位置から考えて俺の知る東西南北が適用されれば右が南寄り。
山も下り方向になるのでそちらを選択した。
歩く速度も速くなり、馬車に会う事を期待しながら進むと微かな異音が聞こえ、耳を澄ます。
そして狂気した。今迄の怠さがうその様になり、その場で万歳を2回した。
こんなに喜んだのは入試以来かも知れなかった。
道は山間に沿っているので先まで見通せないがたぶん話声。
歩くのをやめ耳を澄ますが前方から、微かに聞こえる気がする程度。
『盗聴スキルってあったな…。』
早速スキルを習得し、10P振った。
ちょっと良くなった?くらいでがっかりする。
ポイントが足りないのかスキルが違うのか、魔力操作が足りないのか…。
また調べることが増えた。
結局小走りで向かう事にした。
一分も走ると人の声だと認識できた。
金属音とわめき声だと分かる。
嫌な予感がしてストレージから装備し、急いで道なりに向かう。
『マジか…、昨日の今日だぞ…。もしかしてこの世は荒れ荒れなのか?』
面倒に思いながらも緊張感を保ち近寄って行く。
馬車を止めて人同士が戦っているのが遠目で確認できた。
木陰に隠れ、森の中から隠蔽スキル『ハイド』を発動させ、近寄る。
俺にどれだけの戦闘力があるか分からないし、どちらが悪いか分からない。
気付かれることなく、襲っている側の裏側に近寄れたので、様子を伺う。
『馬車だよ…』と驚くも、状況がひっ迫しているのは判り、直ぐに頭の片隅へ行った。
足を止めて身を屈めると、金属鎧の男が弓を受けた後、切りつけられて倒れた。
「へ、諦めな!お前ひとりになったぞ!」
「くっ…。お前たちなど何人いようが負けはせん。」
普通の会話も確認が出来た。
争っている現場は身長程の茂みがあり、隠れるのにはもってこいの場所。
俺の方など誰も見ていない。
襲っている方の後衛、街道の端の男からは15ⅿほどしか離れていない所迄、場所を移しながら状況を確認する。
黒い箱馬車の横に男が一人。大型の剣を両手で持ち金属鎧を付けた男が血まみれだ。
男の後ろには紺色ワンピースを着た女性が短剣を持って箱馬車の扉の横に立っている。
大剣男の両脇には少し劣る金属鎧をした男が2人倒れていた。
それを囲むように5人の軽装。更にその後ろには3人。軽装の男も3人倒れていた。
『どう見てもイベントだ。』
身なりがいい方が正しいとは限らないが、囲んでいるのはここまで匂ってきそうな薄汚さの者もおり、盗賊系と推測した。
自分を冷静に分析すると、魔法は6回しか使えない。まだ完全に回復していなかった。
まず弓スキルと剣スキルに残っていたスキルのポイントを振る。
弓を用意し、後衛で弓を持っている男を狙う。
頭に命中した。
背中を狙ったのに上にずれた。
革鎧を着ていたが背中は剣道の防具の様に紐しかなかった。
弓スキルにポイントを振った為だろう、これでも練習よりも命中率は高く、心の中でガッツポーズを取っていた。
男がドサッと音を立てて倒れると全員の注目を浴びていた。
続いて2射目を放つ。これも命中した。
理由は距離が近いからだろう。道中弓引きの訓練をしておいて良かったと思う。
「誰だ!」
軽装中央の男が明後日の方向を見て声を荒げた。
隠密スキルと倒れた男がねじれた為だろう。
射的後は直ぐに木陰に身を隠し次の的を考える。
もう一人の弓にするかリーダー格にするか。しかし安全面を見たら弓だ。そう決めるともう一度立ち、木の脇に立つ。20ⅿほど離れた位置にいる男に的を絞る。
「あ!いたぞ!」
「誰だ、おめ~。」
俺が矢を引き絞った状態で見つかるが、3人目も肩口にあたり無効化出来たと思われた。
少しいい気になりすぎた。
隠密魔法も目視されれば意味をなさないと知るが、ゲームと同じで、さほど動揺はしなかった。
人を殺めているのに何とも思わなかったが、この時は無我夢中でそんなことも考える余裕は無かった。
何処かゲームのPK連中と対峙している感覚があった。
軽装の男たちの目がこちらに向くと、馬車の前の男が「うお~。」と声を上げ、リーダー格の男に切りかかる。
「くっ!」
男は切りつけられたように見えたが防具のお陰で助かった様だ。
よろめきながらもなんとか立っていた。
一人の男が俺に向かってきたので弓を地面に捨て、杖を構えてエレクトロボールを放つ。
魔法陣から発せられた玉の大きさが大きくなっていたのには自分も驚いた。
光のバチバチした30㎝程の塊が男に向かうと驚愕した顔をした男が光に包まれてその場に倒れた。
「な…魔法使いか!」
もう一人が俺に向かってきたので続けてファイアを放つ。
「うお~。あ、あつ…。お頭あぁぁ…。」
火炎放射の炎に包まれた男は萌えながらその場に倒れる。
周りの草木にも火が付いたが消している暇はない。
その向こうではお頭が防戦一方で、他の男が大剣使いに一人が倒されていた。
「お、お頭…。」
「おい、お前もこいつに切りかかれ!」
「で、でも…。」
2対2で挟み撃ちになった。
2人のうち一人は俺と鎧の男を見比べていたが、逃げ出し始めた。
「おい!ぶはぁ」
リーダーが動揺したのか、頭上からの剣を受けきれず、その場に崩れる。
『逃がすか。』
後ろに下がって弓を拾い、矢をつがえる。
逃げる男の後ろから矢を放つとがら空きの背中ではなく足に当たり、よろめきながら男が倒れた。
すると大剣の男が、倒れた男たちに止めを刺しているのが目に入る。
ゲームと違い、赤いものが飛び散っていた。
ここに来て人殺しと言う言葉が頭に浮かんだ。
少し吐き気を催したが何とか耐える。
木にもたれ掛かりながら息を整えていると大剣の男が話しかけてきた。
「おい。君。助かった。援護してくれたことに感謝する。」
「え、ああ、気にしないで下さい…。」
また俺は吐き気を催し顔を背ける。
また何とか耐えることが出来た。
「君は…人を殺めたのが初めてか?」
2ⅿほど距離を取って剣を手に持ったまま俺に続けて話しかけてきた。
「は、はい、うっぷ…。」
「そうか。悪いことをしたな。だがこちらは助かった。」
そう言うと、男は足早に味方だったと思われる倒れている男の元へ向かった。
俺はその後ろ姿を見た後、何度も深呼吸するとやっと落ち着いて来た。
しかし、倒れた男をみるとまた吐き気が襲う。
3度繰り返し、念入りに深呼吸。
やっと立ち上がる事が出来た。
燃え広がろうとしている火を消しに入る。
余分な事をしていた為、少し燃え広がってしまった。
火消に2回の水魔法を使い残りMPが59。軽い立ち眩みの様な物が一瞬だけあった。
消し終わり、疲労感を感じながら馬車へ向かうと、仲間と思われる1人はまだ生きていたようで、女性が介抱していた。
回復薬だろう、空になった小瓶が二つ転がっており使用したようだ。
2人共血だらけで、一人は横になり手を組まされていた。一人は息が上がっていたが上体を起こし、女性に背中をあずけている。
二つ小瓶があったので、もしかしてと思ったが、手を重ねられた方は亡くなっている様だ。
馬車から出て来たと思われる女性が一人増えており、横になった男性の鎧を取りだした。
俺も後ろから思わず手を合わせて拝んでしまった。
その後何をしていいのか分からない。
先へ進もうと思い、男の背中から話しかける。
「あの、すみません。ここからってどちらに向えば村とかって近いですかね?」
男が手を止めて俺の方に振り返る。
「それならだと向こうだろう。馬車で2~3時間で村に着く。」
『げ、じゃあ、俺は遠い方に向って歩いたのか…。』
ガックリと首を前に落とすと、男が続けて話しかけてきた。
「君はどちらへ向かう?森から出てきたようだが…村の方から来たのではないのか。」
「特に決まっていませんが…。」
設定など全く考えていなかったのでまずいと思いながら目線を外す。
余り突っ込まれる前に立ち去ろうと前後の道を見て、近いと言った方へ進もうと考えていた。
「…。なら少し待っていてもらえるか。良かったら馬車で共に行って貰えると有難い。礼もしたい。」
男に目線を向けると真剣な顔をしていた。
『礼』には惹かれるものがあるが、情報を貰うのと出すのが諸刃の剣になりそうで怖かった。
どうしようか悩んでいると、正面の女性が無表情な顔でこちらをじっと見据えているのに気付く。
「別に構いませんが…。」
考えがまとまる前に口から勝手に言葉が出てしまった。
すると30過ぎと思われる男が立ち上がり俺の前に立つ。
改めて見ると俺より20㎝くらい身長が高い。
鎧で身を固めているがアメフトでもやって居そうな体格だ。
色白で短髪の茶髪。顎の周りに髯が少し伸びていた。
「頼んで直ぐで悪いのだが、君は何処から来たのだ?身分証などがあれば見せてもらいたいのだが。」
「すみません。僕は山奥から出て来たばかりで何も持っていません。成人になったので人里に出ようと思ったのですが全く分からずに…。」
「そうなのか?ふむ…。どうする?」
男はしゃがんでいた女性の方に振り向くと、女性が男の方を見上げた。
「隊長にお任せします。」
「そうか…。」
困ったように隊長と言われた男が固まった。
そういえば御者台に人がいない。
馬車の裏側に馬が2頭、鞍付きで荷物を背負っていた。
『馬が一頭足りない?』
亡くなった人が御者をしていたのかもしれない。と思っていたが、もう一人馬車の陰に倒れていた。
執事の様な黒服に矢が2本立っていた。
俺からは見えない位置だった。
スキル習得可能欄の中に馬術スキルはあった。
隠れてポイントが振れないかなと思っていると、隊長が戸口の少し空いたドアを開けて中の人に話かけた。
「エルザ嬢。そういう事で一人御者を頼もうと思う。問題ないか。」
「ええ、お任せします。」
若い女性を思わせる、落ち着いた声が聞こえたが、俺からは開いた扉で中は全く見えなかった。
「よし。それでは改めて頼む。そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺はドサームと言う。君は?」
「…ヒロと言います。」
笑みを浮かべながら出された手を軽く握り、改めて大きな手を感じる。
介抱されていた男は20代前半。リクという金短髪で細マッチョを思わせるイケメン。
回復薬では全快出来ていない様で怠そうだが、自己紹介を終えるとフラフラと立ち上がり、倒れた味方男性の後処理の手伝いに入っていた。
悔しそうに見ている彼を見るとこちらもつらかった。
馬車の外に出ていた短剣持ち女性はエレーゼといい、濃いブロンズ髪で肩まで髪がある。
表情があまり変わらず会釈で挨拶を交わした。
馬車の中からもう一人薄いピンク色のワンピース姿の若い女性が出てきた。
セリナといいブロンズの肩下まである髪を後ろで束ねていた。細身でオレンジ色のワンピースを着ており、エレーゼよりも生地が薄く安そうな服に見えた。この人も無口。最低限の言葉しか発しなかった。
エルザ嬢と呼ばれた人は馬車からは出てきていない。時折馬車を覗いて女性達が声を掛けていた。
彼女の紹介はここでは無かった。
お偉いさんか性格的なものかは知らないが、俺は関わらない事を選んだ。
セリナが馬車につながれた馬の世話をし、隊長とリク、エレーゼは2人の身の回りの物を取り、街道脇へ運んでいた。
手を貸そうと思ったが、手伝ってほしいという素振りはなく、何をしていいか分からない俺には居場所が無かった。