転移準備 2/3
暫く沈黙があった所で男がパネル操作をすると部屋のキラキラが無くなった。
真っ白な白い空間。男も全身白いので輪郭が薄っすらと見える程度になる。
足元に目をやると白い空間に立ち、何かを踏んでいるという感じもない。
ホログラムで俺達が立体で映し出されていると言った方が正しい。下を見ていると平衡感覚がおかしくなりそうだ。
『じゃあ、次ね。もう戻れなくなったから前の話はいいよね。次に進むよ。まずは君たちが行く所だけど…。』
口調を変えずに何かを読み上げるように話していく。途中の話し方から面倒というのが感じられた。
彼が惰性で話している中、口を出すと『後で質問受け付けるから。』といって5分ほど話続けた。
俺達が向かう所はアウトオブアースと似た所。
発展が遅れているらしく、俺達に進めて貰いたいとの事だ。
内容は俺達からの質問に対することを先に話したように思われる。
纏めると、種族が選ばせてもらえ、あらかじめ配布される物、スキルはある程度ポイントを与えられるから自分で振る事。天恵が与えられ、他の者よりも成長が早い。
注意点として、初めは弱いから死なない様にと笑いながらの声で説明もあった。
質問を受け付けるようになり、詳細を問いただしても、『自分たちで調べた方が楽しいでしょ。』と言われどんなところなのかはゲームをイメージするしかない。
具体的なスキルの使い方、なにがあるかは全く教えて貰えず、出来の悪いチュートリアルでも受けているかのようだった。
唯一と言ってもいい詳細はステータスの見方だけ教えてくれた。
アウトオブアースは魔法と剣など武器があり、スキルとレベルが重要なよくあるゲーム。
これといった特徴もなくいくつもあるゲームの一つ。
俺がこれをやっていたのは割と初心者待遇が良かったから。初期の育ちも良く、微課金でもそれなりに楽しめグラフィックが綺麗だった。その割に家の型落ちパソコンでも画面が固まる事もないのがこのゲームを選んでいた理由だ。
玄人には物足りなかったのだろう、重課金者の不満レスをネットではよく見かけた。プレイヤーアバターは男女4:6と明らかにおかしい。チャットも楽しんでいたが、性別を反対にしている奴は多かったと思う。
俺もサブキャラの低レベルの異性を持っていた。
レスを見て作ったのだが、一つの特徴に鍛冶スキルなどを上げると自分でアイテムを強化できた。ベースとなる防具があれば、強化することが出来、これをメインキャラで作り、サブキャラに譲渡。女の子の方が売れた為、回りくどい事をしていた。
女の子キャラは2タイプにはっきり分かれる。自分好みに作るか、やたら薄着になっているかだ。
俺は前者。俺の好みが一般受けするタイプだと良く分かった。
魔法はごくシンプル。武器のスキルの方が複雑。連続使用で硬直をタイミングよく消せれば、コンボ状態に入り、相手が防御に失敗するとひたすらダメージを食らう可能性があった。
低中ランクの内は魔法使いが使いやすいが、高ランクになると魔法耐性が上がる為、近接が使えない魔法使いは一方的にやられる。チーム戦を前提とすればいいが、単独を好んだ俺は両方を覚えた。
その為、中の上レベルの魔法よりの剣士。はっきり言って中途半端で弱い。どちらかと言えば支援系だった。
そんな俺がなぜ選ばれたか不明。年齢的にも俺だけ⒑才は浮いている気がした。
これから行くとされる世界の事以外にもそれぞれから質問が飛ぶ。
俺からも質問してみた。
「あの、なぜ俺達なのでしょうか?」
『さっきも条件は言ったよね。』
「俺達は知らない者同士。しかもまとめて。いろんなところから集めた方が良いとか、最強を誇った方々のほうが良いのではないですか?」
『ああ、そっちね。他のも候補地はあるのだけどね。割と似ているからだよ。同じ物もたくさんあるしね。同じ空間だし、むしろ同じ物の方が多いよ。』
「同じ空間?」
言っている事がはっきり言って理解できなかった。
『面倒だな~。まあ、もうちょいだから僕も頑張るけど、同じ物質が多いんだよ。過去にも君たちの先輩も飛んでいるし。えっと君たち所で言う原子だっけ。少しだけ種類が違うんだよ。だから魔法なんてものがある。でも大概一緒だし、なにより僕が君たちの管理者の所を真似たからね。その方が楽だし。他からも持って来ているから混ざったような感じだと思って貰えればいい。』
「え…。てことは他にも似たような所があると…。」
『あるよ。いくつもね。君たちの所にも行っていると思うよ。もっと進んだところからね。』
「…。マジで…。」
「同じ空間っていうのはどういうことですか?さっきの話だと同じ宇宙と言っている様に聞こえるのですが…。」
『そうだよ。仕方がないな~。君たちの所で言うなんとかバーンっていうやつ?一つじゃないし。無数に出来た中にたまたま知性が育つ所が出来ると僕らが見に行くんだよ。』
「見ているって…。僕達ずっと見られているってことですか?」
「そんなわけないよ。君たちは自分たちの体の細胞の1つ1つを見ている?血液の1つ1つを見ている?出来ないよね。酷くなったりしたらちょっといじったりするだけ。病気を治すみたいにね。でもよっぽどひどく無いと放置だよ。僕たちはそれをちょっと見て楽しんでいる。今回は6人。君たちがどれだけ他の所に近づけてくれるか僕はそれだけが楽しみなの。だから君たちに頑張って欲しいから、僕もこんなに頑張っているんだよ。これ疲れるんだから。天恵なんてそこにいる者達にとってはインチキだよ?だから頑張ってね。」
「あの…。直ぐに死ぬってことないですよね?」
『そんなこと無いよたぶん。余程の不運がない限り大丈夫。』
「気軽な…。」
『そこは僕の範囲外だから。それよりも疲れた。もういいかな?君たちの為に頑張ったのだから僕は早く休みたい。起きた時には君たちの行く所の数年後?数十年後?だから。それまでに色々変えといてね。頼んだよ~。それじゃあもう…。』
「あ~、ちょっと待ってよ。あなたは神様なのですか?あ、そうじゃなくて、私達の場所。選ばせてくれるって言いましたよね?選んでないのですけど…。」
『あ、そうだった。じゃあそれが終わったら終了で…。ああ、僕は神と呼ばれているのは事実だね。ここだとペントデウスなんて呼ばれている。じゃあ、君。種族と場所をこっち着て選んで。』
寝そべった自称神から腰のあたりまで降りてきて、一番端の男が手招きされた。
ロン毛男が近寄るとなにやらやり取りを始める。
「名前は…テツ…。」と言った後、神と相談して半透明板を操作している様だった。
名前を言った後の言葉は聞こえない。
じっと後ろから5人で背中側で囲んで見ていると、空中にベンチでもあるかのような座り方に変わったあと、『はい。決定。じゃあ行くよ~。』と言って手を叩いた。
するとロン毛君が光ったと思ったら徐々に薄くなり消えてしまった。
ボーっとしていたらあっという間だ。
俺はここにいる中で協力したいと思ったから慌てた。
「あ、あの、すいません。折角なので、皆の名前とか確認したいんだけど終わってから相談させてもらうのはダメですか?」
『ん…それぐらいならいいよ。でも初めから場所が固まるのはダメ。前に失敗したからね~。だから行く場所を決めてからだね。それまでは相談なし。それが守れるならいいよ。』
「あ、わかりました。じゃあ、終わった人は少し離れた所で待つという事でどうですか?」
『まあ、それなら…。』
「俺は直ぐ飛ばしてくれればいい。つるむ気無いし。あ、女の子たちならいいよ。」
チャラ男君が前髪をかき上げて、笑いながら言った。
俺は背中に悪寒が走るのを感じながら苦笑いを向けるが無視された。
女性陣を見ると寝間着姿の2人は腕組をしながらそっぽを向く。
私服のスカートさんは「あ…。機会があったらね…。」と答えてはいたが顔は無表情になり俺の目から見ても引いているのが分かった。
「いいさ。僕はここで好きにさせてもらう。」
チャラ男がそう言うと、手招きされる前にグータラ神に寄って行った。
『じゃあ、次は君ね。』
「カムイ」と名前を貰っていたチャラ男君。ロン毛君と同じように神とやり取りを始めた。
テツよりもかなりカムイの選択している時間が長い。
俺はやることはやっておこうと思い、教えて貰った方法でステータス画面を確認。
チュートリアルで説明のあった事をすることにした。
武器など初めにマジックバックに入れる物を選ぶ。
こちらにカムイが顔を向けたのに気付いたのでそちらを見ると、笑顔が増していた。そして、中二病にでも侵されているような考えるポーズを取って消えていった。
俺の番になった。神の前に行くと、登録名を普通に聞かれる。なぜか後ろまでは聞こえなかったのにと思いながらもゲームで使っていた名、ヒロ・スウィフトを名乗る。
すると俺の前にステータス画面と同じく半透明の青いボードが俺の前に現れる。
正面の男を見ると自分で選べと言われる。
種族一覧がボードに表示されていた。6×6、36種類もあった。
選択肢がゲームよりも多いのは間違いない。目で流し見をする。
獣人族、鬼人族、魔人族などはゲームの選択には無かった。獣人族、魔人系はNPCのみだったし、魔族系はほとんど敵だった。魔族と言う所は何故か太字になっているしそこだけ背景が赤くなっていた。疑問に思ったことが口から出る。
「表示されているのはどういう基準でここに乗っているのでしょうか…。あと、魔族だけなぜ色が違うのですか?」
『そこに出ているのは、ある程度集合体を築いている種族だよ。触る時は気を付けてね。一度選ぶともうやり直しは聞かないからね。赤いのは…他に頼まれたから。』
最後は歯切れが悪かった。
「他って…。」
『それ以上は秘密。』
「そうですか…。」
種類が多くて人族と決めていたがここに立つと迷ってしまう。
妖精族って何?とかつい考えてしまう。
オーク族ってモンスターの?とか餓狼族って動物だよね…。とか一人突っこみが入る。
ちょっとバンパイアには惹かれるものがあったが選ぶ勇気は俺にはなかった。
やっぱり夜になると強くなるのかな…などと考えていると、正面から俺の考えている事を読み取ったようで反応してきた。
『種族で差はあるよ。人族は弱いけど、色々習得はしやすいよ。』
「ゲームと同じ中途半端な万能型って事か…。俺向きだな…。」
『じゃあ早く選んで。』
「あ、ハイ。では僕は人族で。」
『性別は男…ん…?君両方?』
正面の座った姿の男は無表情だが声からすると何かに迷っている様にしか思えない。
「何かありました?」
『君…女に変化できるの?』
意味が分からない。
「え…できませんが…。ゲームのキャラの事ですかね?同一アカウントから二つキャラ作っていましたけど…。」
『ふ~ん。あ、ホントだ、ゲーム内って書いてあったわ…。あ、ごめん。で、君は男っと。齢はいくつにする?まあ長生きしてほしいから成人になり立てまでがおすすめだよ。』
「0才からでもできるのですか?」
『可能だよ。そうする?』
「あ、いえ。成人前後で。」
『ん。じゃあ、人族なら15才っと。後は場所だね。』
男がそう言うと種族が表示されていた画面が地図になった。歪なT字型の陸地。指定されたのは5か所。国の数でその国内でどこかの村か町の近くに出されると教えてくれた。
指定された5か所は南北に延びる中央部に人族の国家が集中しているとの事だ。他にも陸地が切れているし、大きな島も2つある。
『人族の支配地域では無いよ。それでも好いというなら構わないけど…。』
俺の思考を島と受け取ったのだろう。
この男は人族が居ないとは言わなかった。俺にはそう聞こえた
。安全を見るなら人族だろうと思い真ん中東側の人族の支配する国を適当に差す。
国境線は引いてあるが文字などは一切書いておらず、一国に1~3か所、都市と思われる〇マークがある。
わざと一つしか、都市表示がない所を選んだ。
『じゃあ終わったね。じゃあ飛ばすよ。』
「え、ちょっと、待ってもらえるって話でしたよね…。」
俺は慌てた。
『あ、そうだったね。じゃあ相談はなしという事で、向こうで待っていて。』
「あ、最後に一つ教えてください。どうして固まるのをそこまで嫌がるのですか?」
『ん?前にね。固まったの。大きく二つに分かれてね。そしたらお互い戦争始めちゃって…。片方は全滅。もう片方も2人生き残ったけど暗殺されちゃった。結局戦争しただけ。まあ武器や魔法の進歩はあったけど生活面はちっとも上がらなかったと言う訳。だから。』
「…。戦争ですか…。それは遠慮したいな…。」
『あ、戦争で死んだのは一人だけだよ。後は裏切りとかによる暗殺。どっちかと言うと彼らのお陰で発展が後退したんじゃないかな。僕が起きたらビックリしたよ。もう二人しか残っていないんだもん。ほんとに君たちはそんなことしないでよ~。』
「…。気を付けます…。僕も国なんかの厄介ごとはごめんこうむりますよ…。気ままに過ごしたい。」
『其れならいいや。あ、あとね。開発禁止があるから気を付けてね。過度の発展は君たちの所に似すぎちゃうからダメ。その時は僕からの制裁があるから。さ、じゃあ次ね。』
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。制裁って何ですか!?まさか僕が突然死するとか?あ、身の回りに不幸が訪れまくるとかかな?」
「う~ん、決まっていないけどね~。例えばそうだね…、その開発場所に竜巻や地震とかが起こるとかかな?あ、前に火薬の開発した人は爆発事故を起こしたかな。」
「…。火薬?はダメなのですか?」
「そりゃあ、ダメだよ。魔法使ってよ。じゃないと君たちの所と一緒になっちゃうよね?」
「…。他は教えて貰えますか?」
『え~。自分で探してよ~。たぶん古い面影は何かしら残っていると思うよ。さ、ここまで。もう話さないよ~。あっち行って。』
俺が指さされた彼女たちが居る反対側に10歩ほど歩いた所で止まる。
神と言う男の無表情の顔がこちらから外れたので了承したと認識する。
ここに胡坐をかいて座り、初期装備品とステータスの整理をすることにした。