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転移直前の記憶

《転移直前》


「「ナイスショーット」」

「もうちょっと右に行きたかったけどね。まあまあか。」

「いや~。社長。今日は調子いいね。今日は勝てそうにないな~。」

常務が笑顔でティーを拾った社長に向かって声を掛ける。

「いや~。さすが社長。かないまへんわ~。」

続けて上司もティーのセットに向かいながら上機嫌な声で乗っかったので、俺も更に便乗する。

「ほんと、いいショットでしたよ。僕もあれくらい打ちたいです。」

仕事の取引先とゴルフに来ている。メンバーは俺、上司の部長。取引先の社長と常務。

俺はしばらくやっていなかったのだが、上司に頭数が足りないと誘われた。

先日まで技術部にいた。今年から営業課長に転属になった俺の顔つなぎなのだろうが、いつもニコニコして会社では滅多に怒らない上司の誘いを断れなかった。

彼とは俺が技術部で新規品の開発担当をしていた時に、何度も会議で顔を合わせていた。

値段の話は当時まだ課長だった彼の所によく相談に行ったものだ。

俺はもう吸わなくなったが、喫煙所で顔を合わせ、雑談を含めた情報交換を良くした仲でもある。

その時にゴルフの話題もあり転属すると直ぐに「一緒に今度行こう。」と誘われていた。

それが今日実行された。


午前中は晴れていたのに昼過ぎから雲行きが怪しくなってきた。左前方には明らかにまずい黒い雲。

まだ雨は降っていないが、近寄ってきているし、その下では霞かかっており雨が降っているのも分かる。

ただ16番ホール途中の俺達はあと3ホール。急げば何とか回れるかぎりぎりだろう。

355ヤード、パー4。俺の前の3人はフェアーウェーをキープした。

「ファー~。」

4番目に打った俺のティーショットの球が右にスライスしていく。隣のホールまで届きそうな勢いだ。

「いや~。ナイストライだよ。もう少しだね。」

「ありがとうございます。社長の様にうまくなるように頑張ります。」

「しっかり頑張んな~。」

「仕事の方もトライ頼むよ~。特に値段ね。」

3人共スコアが良く、それほど気分を害していないのが救い。笑顔で答えてくれるので、それなりに今日のゴルフは楽しめている。


下手な俺はクラブを持って右往左往。

俺が同伴者のショット間を開けてしまう為、彼らのスコアが悪くなった時に俺のせいだと言われるとつらい。幸い今日はそうはならないだろう。

久しぶりの運動と、コース周りでそれほど嫌ではない。ただもっと練習しとけば良かったと思う。

俺のベストスコアーは102。2ホール前にそのスコアを既にオーバーした。

普段は残業で早くて帰りは10時過ぎが普通。

練習場は会社帰りに回り道をすればあるにはあるがとてもそんな気になれない。


コースを回ると決まったら2~3回練習場にいけばいい方だが、今回は間が開きすぎた。練習でもまともにまっすぐ飛ばせなかった。3年ほど体調を壊していたのもある。

昔好きだったアウトドアもすっかりなりを潜め、休日はゲームをしてダラダラしている日が増えた。

連れは皆結婚。適齢期を過ぎた俺にはそんな気力も無くなってきている。

20台だったときなら一人でも出かけたが、何事にも最近は面倒になっている。


社長がオッケーパーからチョンとボールに触ってカップの金属音がする。

「「ナイスパー」」

「いや~。バーディー取れたのに残念だ~。」

「今日の社長にはかなわん。」

「ダントツでっからな~。」

笑顔の3人がグリーンから降りる所、俺が旗をカップに突き立て急いでカートに向かう。グリーン周りにクラブを忘れている人がいないかの確認も怠らない。

林に飛んだ俺の球も直ぐに見つかり何とかダボで切り抜けた。


続く17番ショートコース。前が詰まっていた。ここに来た時は二組前がグリーン上。前の組の一人が早く打ちたそうにティーをセットしてアイアンの素振りをしている。

俺の組はカートでまだ順番待ち。社長が煙草を吸う為カートから降りてカート横の灰皿付近に行った。

「あの雲危ないですよね~。何とか回れると良いのですが…。」

俺が隣に座る部長に声を掛ける。

「そうやな~。間に合わんかもしれへんな…。」

ビカビカ右側で光っているし、音も何度も聞こえている。ただ落ちるような大きな音は無くゴロゴロ言いながら近寄ってくる。

山登りで下で鳴る雷に比べれば怖いとは思わなかった。

技術部の連中と回ると必ずと言っていいほど出た⒚番ホールの話題はこのメンツでは最後まで出なかった。

そんな中、前の組が打ち始めた。

『へぼい…。』

「あ~。」とか言っている3人組。

俺と同レベルで誰もグリーンに乗らなかった。

一人だけ球がまっすぐ飛んでいたが、残りの2人は良くて今日の俺と同レベルだろう。

前の組が3人で林に入る。『マジか…。探すの早く切り上げてね…。』

社長がティーをセットしてクラブを振り始めたが、前の組はまだまだかかりそうだった。


部長の2本目のたばこが吸い終わった後、俺達のプレーが始まった。

2人はワンオンだ。一人はグリーンエッジ。俺だけ手前のバンカー。ダフリ気味で届かなかった。だがここのコースはそれほど深いバンカーではないので問題ない。うまく打てた方だ。

後ろの組に軽く会釈してカートに乗る。クラブも後ろに片付けず、運転席に向かい素早くアクセルを踏む。

カートを走らせ始めると同時に雨が降り始めてしまった。

バンカーからも素早く出すことが出来てボギーで凌いだ。おかげで3人からも祝福が貰えた。


続く最終ホール。489ヤードパー5。このゴルフ場の名物ホールだ。

2打目を打つ頃には本降りになって来た。上空で光り出した。既に俺もぐしょぐしょ。『早く風呂に入りて~。』と思いながらも4打目のフェアーウェー地点に4本のクラブを持って走る。

「花田常務!先打っちゃって下さ~い。」

それなりに飛んで、俺か常務かどちらが先か分からないところまで行った。3人共ボールの付近で傘を差して待っている為、大きな声を掛けた。


雨が更に強く降って雷の音も近いがあと少しで終わりだ。

皆さんの今日のスコアもいい。何とか最後まで終わらせたい。


3人がグリーン周り迄飛ばしたあと、俺も打とうと素振りも禄にせずにボールの横に立ちクラブを上げた。

『カシュ』っと土を打った感触もほとんど無くボールが上がった。

『よっし。上手く打てた。』と思いボールを目で追うと、目の前が真っ白になった。





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