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傍観者  作者: Amaretto
第一章
8/56

1-8(槇原3)

[槇原]


 シークレット・スクール(ss)とは、この学校の別名である。生徒達は知らない、裏の名前。


 この学校は、教育を受ける権利のもと、平等な教育の場を提供することを目的とし、学校に行くことが難しい生徒に向けて作られたとされている。

 

 けれどそれは表向きで、実際は、この隔離された島で、生徒達を3年間監視し、学力、身体能力、コミュニケーション力、行動力等をデータとして管理する。そのデータを元に、将来を担う人材育成に必要なのは何か、イジメをなくすにはどうしたらいいかなどを考察する。SSで得た結果は、多くのプラスの効果をもたらしている。実際に教育の場で利用され、イジメが減ったという実績もある。また、生徒の行動から推測される家庭での問題の把握などにより、家庭内暴力の減少にも役立っている。


 これまでの制度にも、生徒を観察して、問題把握するような仕組みはあったのだが、ほとんどの問題は解決できなかった。その理由として、子供に纏わる問題のほとんどが、学校に起因するものではないからだと考えられるようになった。学校以外で過ごしている場所、つまり家庭に問題があるという考えに至る。一般の人がプライバシーとして守られているものが、その人に大きな影響を与えている、と。だからこのSS制度が開始された。


 学校にカメラを設置するだけでは、本質的な問題の発見には繋がらない。SS制度の要は、学校以外の場、つまり学生寮での生活が、生徒へどのような影響を及ぼしているかを観察出来るところにある。高校生活における3年間、生徒たちの行動を24時間すべて監視しているから、これほどまでの成果を挙げることができているのである。監視されていることは生徒達は知らされていない。


 人権侵害であるにも関わらず、この制度がなくならない理由は、この制度自体、一般的に知られていないから。知っている人は、ごく一部の限られた人のみだ。この制度の結果を利用する立場にある人と、教員である。


 その人たちは、人権侵害だと訴えることなどしない。自分に利益があれば、人は、たとえ人権侵害だとしても、見て見ぬ振りをするのだ。この制度は傍観者がいるからこそ成り立っている。


 20年前にこの学校は設立された。


 生徒がのびのびと育てるようにと、自然豊かな小さな島に学校を建てた。


 けれど本当の目的は、一般的に知られないようにすることと、生徒達が逃げ出さないようにするためなのである。


 シークレット・スクールとは、学校という名の牢獄。


 創設者は生徒達の事など、全く考えてなどいない。


 生徒達にとっても、監視されていることを除けば、教育の場も、生活の場も、全て国のお金で用意され、3年間高校生活を送れるのだから、寧ろ良い制度であると、この制度創設者は語っている。


 けれどその費用は、生徒達が監視され得た結果の見返りとして得た報酬から支給されているだけなのだ。それでも有り余る金額があるほどなので、創設者はこの制度をやめない。自分の利益になるからだ。良い制度である、なんて言っているけれど、生徒にとって良い制度なのでなく、自分にとって良い制度なのだ。

 この制度に賛成する人は、創設者だけではない。結果を利用する立場の人も、たった250人程度の学生の生活を3年間監視するだけで、学生から社会人まで、実に1億という人数の生活を向上出来るのだから、いいじゃないかと思っている。


 自分には関係ないから。犠牲になるのは、自分じゃないから。


 けれど、そういう考えを私は許せなかった。そしてもちろん、この制度も許せなかった。


 この制度を知った時は、許せない、なんて偉そうなことを思っていたけれど、私一人では、ただただこの制度に対する怒りを感じることしかできなくて、自分の無力さを実感した。だから、なるべく目の前の生徒の高校生活だけは、良いものにしたいと、思っていた。例えそれが、偽りだとしても。



 シークレット・スクールを壊そう、と田中先生は言った。


 制度自体を壊そうなんて、私は考えもしていなかった。怒りや憎しみを含んだような瞳から、彼は本気だ、と本能的に感じる。でも、一人の人間が本気を出したところで、そんな簡単にいくものとは思えない。


 教師という立場の彼が、どのようにして、この制度を壊すのだろうか。この学校の創設者も、その取引先の人物も、国を代表する人物達なのだ。だから、田中先生が言っていることは、大きくいえば、ただの27歳教師が、「国」相手にケンカをふっかける、ということなのである。



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