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傍観者  作者: Amaretto
最終章
54/56

8-6(鈴木11)

[鈴木]



 僕は船に乗り、島から出てきた。

 もちろん、休暇のためなんかではない。

 制度崩壊に誘われたのは、槇原先生からだ。今から約1年前に。

 でもその後はずっと田中先生や武田から指示を受けていた。

 僕の任務は、クラスで何もしないこと。目立たないこと。協力者だと、学校に気づかせないこと。

 そして、一番最後の重要な任務を俺がすることになるだろうと、武田は言っていた。

 証拠になるものはすべて、俺が保管していた。他の人が持っているUSBとかは、すべてダミーだ。

 いつどこで武田や田中先生が取り押えられてもいいように、手に入れた証拠はすぐにダミーのものと引き換えた。

 学校側が、小田や田中先生を疑うように仕向けたのは田中先生だ。だけど、槇原先生まで連れていかれたのは想定外だった。


 学校側は、もともと船を12時に出発させる予定だった。けれど10時に変更した。これは、田中先生や武田を欺くための処置だろう。だから、逆に言えば、船に乗ることを許可されている俺は、無事に島から脱出できる可能性が高いと思っていた。もしその当日、船に乗る前に徹底的に荷物検査なんてされたらどうしようかと不安もあったが、されなかった。僕は全く怪しまれていないのだ。武田や小田は、休暇申請を却下されたようであるから、怪しい人はそもそも船に乗れないのだろう。


 それでも万が一に備え、武田が、残った生徒でおにごっこをすることを提案してきた。それなら、島に残っている人たちに注目させることが出来る。僕はより安全に船に乗れる。



 僕は帰ってきてすぐ、持ってきたすべての証拠をネットに拡散した。なるべく目立つように。なるべく多くの場所にばらまく。

 僕はテレビ局へも、その証拠を持って行った。当初は取り合ってくれなかったが、僕がしつこく言うと、その内容を確認してくれた。そしてその衝撃的事実に、テレビ局の人は「おい! これ、はやくニュースで流せ!」と声をあげる。


 そうして、瞬く間に、シークレット・スクールの正体が、全国へ広まった。

 その内容にはさまざまな声が上がる。

 なんてひどい学校なんだという人もいれば、素晴らしい仕組みじゃないかという人もいた。


 その日のうちに、シークレット・スクールがある島へと調査が入った。


 僕はそれに一緒に同行した。


 島の中をくまなく調査した結果、学校からも、学生寮からも、多数の監視カメラが発見され、生徒の生活を文字通り24時間監視している証拠となった。また、13年前の事件の真相についても調べられた。28人の生徒の死亡は、事故死や病死などと、事実とは異なる死因に書き換えられていることも判明した。

 学校関係者はもちろん、国の関係者の一部も、罪に問われることになった。



 完全なる、勝利だった。

 田中先生をはじめとする、俺たちの。



 シークレット・スクールに通っていた生徒たちは、今後についての不安を抱えながら、事情聴取を受けることになった。

 学生寮も、学校も立ち入り禁止となり、生徒達には、仮の住居が用意された。

 田中先生や槇原先生、田中と小田の事情聴取は長かった。

 どうやら、田中先生は不正な取引で拳銃を手に入れたらしい。そして、その拳銃を使って、生徒が校長と学年主任に対して発砲したと、ニュースは報道した。

 けれども田中先生は罪に問われることわなかった。なぜだかは分からないが、田中先生が国の関係者と繋がっていたからではないかという噂になっている。

 小田は発砲したらしいが、そのことは罪にならなかった。これも、田中先生の裏の力が働いたからだといわれている。



シークレット・スクールは全体未聞の学校として、何日間にもわたり、大々的に報道された。


 生徒のイジメの現場を黙認する槇原先生に対しては、ネットでひどく叩かれていた。

 実際の現場の状況を知らない者たちが、無責任に非難の言葉を発する。

 そうして自分たちの行き場のない毒を吐き出しているのだろう。

 僕自身は、槇原先生が決めたことであるし、同情はしなかった。


 

 主犯である田中先生も、共犯の槇原先生も、個人情報を特定され、出身地から、通っていた学校、親の住所など、瞬く間に世間に広まった。

 小田と武田については、未成年ということもあり、名前などは報道されなかったが、小田や武田を知っている人がネットに情報を漏らし、広まっていった。



 完全なる、勝利だった、はず。

 田中先生をはじめとする、俺たちの。

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