8-4(槇原16)
[槇原]
地下室の扉がガチャガチャと空く音がする。
だれかがこちらに歩いてくる。その足音の正体は、小田だった。
「助けに来たよー!」
小田は笑って言ったが、その笑みは助かってよかったねというよりは、感謝してよねということを意味しているように思えた。
小田はなぜかこの檻の鍵を持っていた。
「小田、一体どうやって?」
小田は私の質問をスルーし、檻の鍵を開ける。私はそこから出ることが出来るようになった。
小田は続いて向かいにある田中先生の檻の鍵も開ける。
「あなた、やるじゃない。」
田中先生は、拷問されていたことなどなかったかのように、爽やかに言った。
背伸びをしたり、屈伸したりしている。
「入口の方に、校長と学年主任がいるから連れてきてよ。あと、これ返すね。」
小田がそう言いい、槇原先生に拳銃を渡した。
私は状況が全くつかめていなかったが、とりあえず、小田と田中先生について行く。
地下室の階段の近くに、学年主任と校長が横たわっていた。それを、武田が監視している。
2人は脚を撃たれていた。痛そうに呻き声を発している。
「運ぶわよ、武田、手伝いなさい。」
学年主任と校長を、私達が先程いた檻に監禁する。
2人は観念したのか、抵抗はしなかった。
私と槇原先生は、小田と武田のおかげで無事に抜け出すことが出来た。
ただ、あの拳銃が気になっていた。田中先生が小田に渡したのだろうか? そして、撃ったのか?
私は小田に対する恐怖心を少なからず抱いていた。
助けに来たということは仲間なんだろうけど、彼女は行動が読めないから怖い。
私達は地下室を出て、2組の教室に来ていた。
そこには誰一人としていなかった。
「あら、誰もいないわね。」
「そうなんだ。いろいろあってね。とりあえず、今までの流れを説明するよ。」
そう言った武田は、私達が連れていかれてからのことを説明した。
「槇原先生がつれていかれた日、もう槇原先生が戻ってこないことを想定して、対策を考えた。船が出発する今日、クラスに残っている人に鬼ごっこをしてもらうことにした。それで、本当の証拠を持った人が無事に船に乗れるように、学校を攪乱する目的だった。だから今ここには誰もいない。みんな逃げ回っているんだ。」
「あら、そういう作戦を立ててくれたのね、ありがとう。助かったわ。」
田中先生はさすが武田ね、といったように武田を称賛した。武田は田中先生の心強い協力者なのだろう。
私はなぜか、私が一番でないことに、悔しさを感じてしまった。
「でも、船はもう出発してしまっている。今はもう2時近い。武田は、結局船に乗れなかった。」
私がそう言うと、武田は驚いたように田中先生の顔を見る。
「え、もしかして田中先生、俺が本当の証拠を持っているって槇原先生に伝えてたの?」
武田の発言に私は衝撃を受ける。
私は武田が全部証拠を持っていると思っていた。
「え……武田じゃないの? じゃあ小田?」
小田はニコッと笑って「私じゃないよ」と言った。
武田が冷めたような目で田中先生を見ている。
どうやら状況を理解できていないのは私だけらしい。
「まきちゃん、ごめんね。今まで隠してたんだけど、武田が持っているのはダミーの証拠よ。それで、今逃げ回っているクラスメイトのうち誰かが、本当の証拠を持っている……。」
じゃあ、その人が捕まっていなければ、まだ可能性はあるんだ。
私はほっと、胸を撫でおろす。
そんな私に、田中先生は言葉を続ける。
「と、そういう風に、学校には思わせた。そう言うことよね、武田?」
武田はふっと笑う。
「もう一人、俺たちの仲間がいるでしょ?」
武田は私にヒントを出す。もう一人の仲間?
そう言われ、私は思い出した。
彼も、私達の仲間だったんだと。




