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傍観者  作者: Amaretto
第七章
44/56

7-2(槇原12)

[槇原]


 生徒と教師のやり取りは淡々としていた。それが、生きている人の言葉でないようにさえ感じられるほど、奇妙なやり取りだった。

 それは、私の想像以上に、冷徹なもので、現実の発言として捉えられないからか、怒りさえ感じなかった。

 私は、日向千鶴を、小田さゆりに似た人物だと勝手に思っていた。恨みとか憎しみとかを隠さずさらけ出す人物のように。けれど、違った。全くの逆だった。彼女は、怒りすら、憎しみすら、淡々と語り、淡々と死んでいったのだ。言葉自体は酷いものが多いのに、感情がこもっていないような、言い方をする少女。これが、日向千鶴なのか。



 私は、田中先生が日向千鶴について話していた時の事を思い出した。


「小田さゆりも、日向千鶴も、人の本質に対しては、執着が凄いと思う。でも、2人には違いがある。小田さゆりは、人の本性を疑って探る。でも日向千鶴は、人の本性を、信じて探る。だから死んだのよ。彼女は。」


 田中先生の言っていたことは、その時はどういうことか分からなかった。

 でも今なら分かる。

 こんな学校を、こんな大人たちを、こんな世の中を、信じようとした。

 でも、こんな醜い人の本質に、耐えられなかった。




 武田は、「音声データ1」を保存していた。

 それが終わった後、「音声データ2」をタップした。



[音声データ:日向千鶴]


[私は、真実を知ってしまった。この学校が、生徒の為のものじゃないことも。みんな、知ってて見て見ぬ振りをしていることも。私が、私の為に生きていけない事も、知ってるの。貴方達の為に、もうこれ以上生きるのなんてごめんよ。私の為に生きられないから、私の為に死ぬの。さよなら、傍観者達。]



 日向千鶴は、自分のために生きるために、死んだ。

 日向千鶴にとって、この世の中は生きづらかったのだろう。そして、誰も彼女を救わなかった。

 みんなが「傍観者」であったから、彼女は死んだ。


「武田……。」


 武田は無言で、音声データを保存する。そしてそれを自分のポケットにしまう。


 私と武田は、その後何も言わず、その部屋を出た。


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