6-2(槇原8)
[槇原]
私の願いが届いたのか、「槇原先生は、何もしらないみたいですよ。」と学年主任が言う。
私はほっとした表情を浮かべてしまわないように気を付ける。
「ほう……そうか。で、田中先生は、何か心当たりはあるかね?」
田中先生は、険しい表情をしていた。
「心当たりと言われましても……。たとえばどういったことでしょうか?」
田中先生も白を切るつもりだ。
「たとえばねえ……。」校長はそこで言葉を切り、学年主任と目を合わす。
「この学校の仕組み、それに不満があるとかはないかね?それを、やめさせたい……とか思ったりしていないかね?」
田中先生の顔が凍る。その様子を見て校長も学年主任もニヤリと笑う。
「知っているんだよ、君が、モニタリングルームで何度かデータを編集していることをね」と校長が言う。
それと同時に、学年主任が、田中先生の横に立ち、その腕をぐっとつかむ。
「離しなさいよ!」
咄嗟に田中先生は叫び、学年主任の手を振り払う。
「なにするんだ! 抵抗はよしなさい!」
学年主任が叫ぶ。
もう一度学年主任が、田中先生を押さえつけようとするが、田中先生はそれを軽々と避ける。
学年主任は、勢いよく壁に激突してしまう。
そして田中先生は、右手を、スーツの胸のあたりに持っていく。
そこから、何かを取り出した。
取り出したのは、拳銃であった。
私は、びくっと驚き、田中先生の顔を見つめる。
すべてを失ってもいいような、覚悟を決めたような表情であった。
私が、田中先生にパートナーにならないか誘われた時のような、威圧的で、怒りと憎しみを含む、そんな目をしていた。
私は背筋が凍る。
田中先生は、校長を撃つことも厭わないかもしれない。
ああ、田中先生は、もう隠すことなく、真正面から反抗する気なんだ。
私はそう感じた。
拳銃を持っていたのは予想外だったようで、校長も学年主任も慌てふためいている。
以前、田中先生に対し、「どうしてそんなに田中先生はいろんなことができるんですか?」と聞いたことがある。
田中先生は「私は、制度崩壊のために生きてきたの。人間、本気になれば意外となんだってできちゃうのよ。」と言って笑っていた。
だから、今回の拳銃も、そういうことなのだろう。
田中先生は、おろおろする二人を見下すように、冷たい目をしながら言った。
「私があなたたちの部下だからって、SS制度の教師だからって、ここじゃ何もできないと思っているでしょう? 自分たちの力で抑え込めると思っているでしょう? でも、有難いことに、ここは普通の学校じゃない。法なんて、ここじゃ無意味よ。だから、ここでは教師じゃなく人間でいられる。知ってた? 私はね、教師である前に、人間なのよ。だから、何をしようとも、怖くないわ。」
そう言って、田中先生は、校長に銃口を向け、引き金に手をかける。




