表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍観者  作者: Amaretto
第六章
36/56

6-2(槇原8)

[槇原]


 私の願いが届いたのか、「槇原先生は、何もしらないみたいですよ。」と学年主任が言う。


 私はほっとした表情を浮かべてしまわないように気を付ける。


「ほう……そうか。で、田中先生は、何か心当たりはあるかね?」


 田中先生は、険しい表情をしていた。


「心当たりと言われましても……。たとえばどういったことでしょうか?」


 田中先生も白を切るつもりだ。


「たとえばねえ……。」校長はそこで言葉を切り、学年主任と目を合わす。

「この学校の仕組み、それに不満があるとかはないかね?それを、やめさせたい……とか思ったりしていないかね?」


 田中先生の顔が凍る。その様子を見て校長も学年主任もニヤリと笑う。


「知っているんだよ、君が、モニタリングルームで何度かデータを編集していることをね」と校長が言う。


 それと同時に、学年主任が、田中先生の横に立ち、その腕をぐっとつかむ。


「離しなさいよ!」


 咄嗟に田中先生は叫び、学年主任の手を振り払う。


「なにするんだ! 抵抗はよしなさい!」


 学年主任が叫ぶ。

 もう一度学年主任が、田中先生を押さえつけようとするが、田中先生はそれを軽々と避ける。

 学年主任は、勢いよく壁に激突してしまう。


 そして田中先生は、右手を、スーツの胸のあたりに持っていく。

 そこから、何かを取り出した。


 取り出したのは、拳銃であった。


 私は、びくっと驚き、田中先生の顔を見つめる。

 すべてを失ってもいいような、覚悟を決めたような表情であった。


 私が、田中先生にパートナーにならないか誘われた時のような、威圧的で、怒りと憎しみを含む、そんな目をしていた。

 私は背筋が凍る。

 田中先生は、校長を撃つことも厭わないかもしれない。

 ああ、田中先生は、もう隠すことなく、真正面から反抗する気なんだ。

 私はそう感じた。



 拳銃を持っていたのは予想外だったようで、校長も学年主任も慌てふためいている。



 以前、田中先生に対し、「どうしてそんなに田中先生はいろんなことができるんですか?」と聞いたことがある。

 田中先生は「私は、制度崩壊のために生きてきたの。人間、本気になれば意外となんだってできちゃうのよ。」と言って笑っていた。

 だから、今回の拳銃も、そういうことなのだろう。



 田中先生は、おろおろする二人を見下すように、冷たい目をしながら言った。


「私があなたたちの部下だからって、SS制度の教師だからって、ここじゃ何もできないと思っているでしょう? 自分たちの力で抑え込めると思っているでしょう? でも、有難いことに、ここは普通の学校じゃない。法なんて、ここじゃ無意味よ。だから、ここでは教師じゃなく人間でいられる。知ってた? 私はね、教師である前に、人間なのよ。だから、何をしようとも、怖くないわ。」


 そう言って、田中先生は、校長に銃口を向け、引き金に手をかける。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ