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傍観者  作者: Amaretto
第四章
25/56

4-4(武田2)

[武田]


 転校生がやってくることは、全く耳に入ってきていなかった。

 今日いきなりやってきたために、戸惑ってしまう。

 転校生は、非常にガラの悪い。


 今のクラスは、東だけを標的としているが、この西村っていう人は、気に入らない奴を次々に虐めていきそうだ。俺は、どうするべきなんだ? とりあえず、西村の標的になることだけは避けたい。標的になってしまったら、抜け出せず、自由に動くことができなくなる。


 おそらく、小田は見た目がいいから、西村の標的になることはまずないだろう。一番厄介なのは、その2人が仲良くすることだ。現実、そうなりそうで怖い。


 皆、西村に対してなるべく目線を合わせないようにして過ごしていた。小田もクラスメイトも、この日は、東をいじめることをしなかった。


 次の日も、西村は特別、誰かをターゲットにする様子はなかった。クラスをキョロキョロと見てはいるが、特別注目している人はいかなった。


 それが面白くないと思ったのか、小田は行動に出た。

 自分の席を立ち、西村の席の方へトコトコと歩いていく。席の前に達、西村を見ながら、微笑む。


「西村くん、はじめまして、小田さゆりですっ! 仲良くしようっ!」


 小田は、西村の威圧感に何も恐怖を感じないのか、軽いノリで話しかけている。

 対する西村は、始めて話しかけてくるクラスメイトをジロジロと見ながら、目を細める。

 普通の女子なら、怖くて動けないだろうな、と思ったけれど、小田は、普通じゃない。


「お前、いきなりだな。」


 西村は低い声で返事をした。小田の見た目が良いからか、悪い反応ではなかった。この様子だと2人が仲良くなっても不思議じゃない。


「いきなりじゃないよ。ホントは昨日話しかけたかったんだけど、転校してきたばかりだったから、ちょっと間をおいたの。西村くん、分からない事があったら、気軽に聞いてねっ!」


 小田はニコニコと笑いながら話している。西村自身も、自分が怖いという自覚があるからか、全く怯えていない小田を、珍しいものを見るような目で見ている。


「お前、変わってるな。気に入った。」


 俺の嫌な予感は的中した。こんな2人が組んだら、クラスはめちゃくちゃになる。もし、この2人が組むようなら、俺もクラス維持のためと、西村の動きを見るため、仲間にならなきゃいけない。


 黙って2人の会話を聞いていた俺も、焦って席を立つ。西村の前に行くと、西村の威圧感がひしひしと感じられる。俺はそれを気にしないように、自己紹介する。


「西村さん。俺、武田っていうんだ。よろしく。」


 小田の時とは違い、睨まれた。そりゃそうかと、少し落胆する。可愛い女子と、男じゃ、違うからな。でも俺は屈しない。


「急に転校生が来るからびっくりしたよ。西村さんはどこから転校してきたの?」


 なるべく、下手に出ないように接する。おそらく西村は、自分がいるだけで人の上に立てることを知っている。だから相手を見下す。一度そうされたら、終わりだ。平等である様に接することに気をつけて話す。


「転校してきたっつっても、学校なんて、行ってなかったけどな。少年院入ってた。」


 西村は俺の目を見ずにボソッと言った。

 少年院という言葉に、クラスメイトは凍りついている。

 その雰囲気を醸し出していないのは、小田と俺だけ。


「えー! 少年院ってどういうところ?」


 小田は無邪気に聞く。俺もなるべく和かな表情をする。

 それで、度胸がある奴って思われたのか、俺への見る目が変わった。


「少年院ってのはな、自由にやれない、めんどくさいとこだよ。ようやく、抜け出せて清々する。」


 ふははははと西村は笑った。どうやら、機嫌は良いようでホッとする。これなら、まず、西村の標的とされる可能性は低いだろう。



 それからというもの、俺の予想通り、西村はクラスの中心になっていった。誰もが西村の機嫌を気にし、西村に注目されないように過ごしていた。


 クラスのイジメの対象は、東のままだったが、イジメの内容が変わった。今までは、物を隠したり、精神的に追い詰めたりといった方法だったが、西村が来てからは、直接的な暴力に変わった。


 放課後、クラスメイトは教室の後ろに集められ、東の他、クラスメイト1名がランダムに選ばれる。

 選ばれた人物は、小田から2択を迫られる。

 東が暴力を振るわれるか、自分が東の身代わりとなり、暴力を振るわれるか。

 それをゲームとして、小田と西村は楽しむ。小田はそれを偽善者ゲームと呼んだ。

 俺は無事に、西村の取り巻きになり、虐める側のポジションになっていたため、標的になることはなかった。


 毎日殴られる東を見るのは辛かった。

 でも、それでも何も言わないクラスメイトを見るのは、もっと辛かった。


 小田の2択で、自分を身代わりにする方をを選ぶクラスメイトはいなかった。

 やめなよと言わないクラスメイトを嘲笑う小田。


「選びなよ。自分を犠牲にして、東くんを助けるか、東くんを、このまま見殺しにするか。」


 彼女は、人の心を揺さぶる時が一番生き生きして見える。小田は、助けるという選択肢をする人を待っているのだろうか。小田は何を求めて、こんなことするのか。俺には分からなかった。


 でも、小田は、楽しそうながらも、苦しそうだった。今にも壊れそうなくらい、不安定に思えた。


 今日、選ばれた生徒の肩に手をおき、小田は言う。


「世の中にはさ、『はい』か『いいえ』の2択しか選べないことが沢山ある。だけど、世の中には白でも黒でもない、グレーの物がほとんどなんだよね。でも、世の中はそれを許さない。私も、それを許さない。だから、助けるか、助けないか決めなよ。誰も決めてくれない。自分が決めなきゃいけない。」


 彼女は笑みを浮かべながらも、傍観者を、とても冷たい視線で見る。責めるように。憎むように。


「そんな世の中に、生きたくないって、思う? じゃあ、死んじゃったら? あはは! それしかないじゃん。世の中は、2択しか選択肢を与えてくれないんだから。だから、もし生きるっていうなら、自分の意思で、その2択のうちらどちらか決めなよ。」



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