1-2(鈴木2)
[鈴木]
僕らの高校は入学してから、三年間クラス替えがない。
四月にこの学校に入学した当初は、28人のクラスメイトと僕の間に差はなかった。
「ねぇ、名前なんてゆーの? 俺、武田。」
入学式の日、空き時間に席にじっと座っていた僕に、左隣の席のクラスメイトが席に着いてすぐ話しかけてきた。
「僕、鈴木って言うんだ。よ、よろしく!」
高校デビューをしようと思っていた僕は、少し張り切って挨拶をしたが、声が上擦って掠れた。それに対して武田は、ふっと笑い、「よろしく。」と言った。
切れ長の目に高い鼻、サラサラの茶髪。武田はまさに美少年といった風貌であった。それで自信があるからか、初対面の僕との会話も自然である。他のクラスメイトは既に打ち解けてグループがいくつか出来始めていたため、高校デビューに失敗した僕には、武田が救世主のように感じる。
引っ込み思案な僕は小学校中学校ともに友達が少なかった。けれど自分にとってはそれはさほど問題ではなかった。交友関係が狭いことは悪いことではない。そう思っていたからだ。現に、狭く深くなんて言葉もあるくらいだ。でも僕の場合、狭く深くでもなく、広く浅くでもなく、ましてや広く深くなんてもってのほかで、悲しいことに、狭く浅くにあてはまる。僕は仲の良い親友だと思っていた人も、あちら側からしたら単なるクラスメイトだったこともある。
だから僕は、出来ないのなら仕方がないと開きなおり、友達なんていなくてもいいと強がっていたこともあった。でも本当は、クラスのみんなと仲が良く、堂々としている人にひっそりと憧れを持っていた。そういう人は常に周りに誰かがいて、明るくて楽しそうだ。だからさらに人が寄ってくる。世の中はそういう仕組みになっているらしい。僕もそうなりたいと願うこともあったが、そういう人は、きっと育ってきた環境も、住む世界も違うのだろう。僕はそういう人とは親友になれなかった。最初は僕にも優しく話しかけてくれるのだが、あちらは単なるクラスメイトとして仲良くしてくれるわけで、休日に遊びに行くだとか、そういったことには、僕は誘われない。
話しかけてくれた武田もそういうタイプなのだろうと、思うようにした。後で落胆しなくて済むように、保険をかけておく。
「鈴木、ね。これから3年間、よろしく。」
ニコっと微笑む武田は、人を惹きつけるような見た目をしている。生まれた時から、沢山の人に注目されて育ってきたのだろうな、なんて思いながら、「ああ、よろしく」と作り笑いで返事をした。
作り笑いは、昔からやってきたので、手慣れたものだった。作り笑いをしていれば、親友は出来なくとも、とりあえずイジメられることはなかった。
この高校では今までの僕を知る人がいないのだから、新しい自分に生まれ変われるかもという期待を抱いていたのだが、結局、環境が変わっても自分が変わらなければ、何も変わらないのだと、まだ初日にも関わらず痛感していた。このまま、誰の影響も受けず、誰にも影響を与えず、卒業するのかな、とため息がでそうだった。けれど、そんな僕の予想と反して、とうとう神様が優しさを見せてくれたのかと感じるほど、高校に入ってから僕の生活は変わった。初めて話しかけてくれた武田と、二人で行動する程度に仲良くなっていった。一緒にご飯を食べたり、休みの日にあったりもした。
武田のような、明るく社交的で、クラスでも目立つ存在の彼と友達になるなんて予想していなかったので、初めは戸惑った。けれど武田と何度も話すうちに僕も自然でいられるようになった。武田はとても大人びていた。周りをよく観察し、自然に気を使っていた。武田といると、とても心地良く感じた。
武田を通して、他のクラスメイトとの会話をすることも出来た。武田はその美貌から女子から人気がすぐに出た。始めの頃は男子から良く思われていないように感じることがしばしばあったのだが、武田は誰にでも優しく平等に接していたため、そのうち男子からも一目置かれる存在となった。武田は飛び抜けた才能などは無かったが、何でも平均以上の事をさらっとこなしていた。勉強も、運動も、僕よりも出来るものだから、悔しくて、逆に僕が武田より出来る事を探したのだけれど、結局作り笑いしか思いつかなかった。
武田が、クラスの中心の存在となるまで時間はかからなかった。僕は気軽に話せる人は武田の他数名しかいなかったが、武田はクラスメイト全員と仲が良くなっていた。他のクラスメイトも、だんだんとクラスの中での立ち位置が決まってきて、それがスクールカーストとなった。
高校1年の夏時点でのカーストは、男子のトップが武田、女子のトップが藤井であった。
【藤井 有紗】
1人目のイジメ対象者。




