3-2(藤井4)
[藤井]
「藤井、ちょっといいかな?」
お昼ご飯の時間、食堂に向かう途中、武田に声をかけられた。
おそらく、カンニングの事だろう。私はもう、隠す事も出来ないと諦めて、承諾する。
「うん。どこで話そうか?」
「ちょっと、二階の会議室にでも、どうかな?」
普通の少女漫画なら、ここから、このイケメンと恋愛のストーリーが始まるのだけど、現実は違う。
ふたりで会議室へと歩いていく。まるで先生に呼び出された時のように、私の足取りは重かった。
会議室に着く。中には誰もいない。外に声が漏れることを恐れてか、窓際の方へと向かう。壁へ寄りかかるような体制をし、こちらへ体を向けている。武田は本題へと入った。
「もちろん、カンニングのことについての話なんだけど、本当に、藤井がやったのかな?」
武田は、本人の口から直接聞きたいのだろう。私は、躊躇うことなく、犯人であることを認める。
「そうだよ。私がやったの。」
「でも、藤井だけが、やったわけじゃないよね?」
私は目を見開く。武田は、さゆりちゃんが共犯者であることを知っているのか? 私は何も言わないでいた。
「小田も、でしょ?」
「え、なんで……知ってるの。」
私は反射的に言ってしまった。あ、やばいと思い口に手を当てるが、もう遅い。
やっぱりそうか、といったように、武田はため息をつき、説明した。
「小田も共犯だと思った理由は2つある。1つ目は、藤井の単独犯じゃないって思ったから。昨日の夜、掲示板に投稿があったわけだけど、俺は、半信半疑だった。失礼だけど、カンニングなんてリスクある行動、藤井一人では取れないって思ったんだ。だから、もし、藤井がカンニングしたなら、共犯者もいるって思ってた。それで、今日の朝、小田の本性を知った。小田は自分のあんな本性を今まで隠し通せるほど、演技もできるし、頭がいい。俺としては、とても怖いクラスメイトだと思うよ。だから、カンニングなんてリスクある行動も、難なく出来ちゃう。だから共犯者は小田だろうって思った。」
確かに、私1人では、カンニングする方法なんてもちろん、そんな事をしようなんて考えにすらならなかった。
「理由2つ目。」
武田は、ピースサインをし、手で数字の2を作る。
「小田は昨日、カンニングした本人が言わないなら、見つける方法なんてないって言ってた。でもその発言、おかしいと思わない? 実際には、表情とか、仕草とか、そう言うのでわかる場合もあるからさ。それをわざわざ、本人が言わないなら、見つける方法なんてないって強調するのはおかしい。その時は、なんでそんな事言うんだろうって思ったけど、小田が穏便に済ませる方法を取ったから、気にしないようにして、俺もその方法に乗っかった。でも、あんな発言してメリットあるのは、カンニングした人か、それを庇う人だけなんだよ。でもあれは間違って言った訳じゃないと思うんだ。もしかしたら、クラスメイトを試していたのかもしれない。きっと小田は、クラスの誰かが怪しむことを見越して、あの発言をしたんだと思う。その上で、小田自身が、穏便に済ませる方法を取ることで、小田を怪しむ人が、何も言えないようにした。それで、自分の予想を通り越した行動を取ってくる人がいるかどうかを探っていた。結果、そんな人はいなかった。まあ、考えすぎの可能性もあるけどね。でも、小田なら、ありえる。」
武田の説明を、理解するのに時間がかかった。要するに、さゆりちゃんは、自分が怪しいですってわざわざ分かるようにした上で、何も行動出来ないようにさせたってことかな? それで、クラスメイトに自分の敵になりそうな人がいるかどうか探ったのか。
「ここまでが、昨日の話。」
すらすらと武田は解説を続ける。
「それで、今日の朝、小田が投稿したって言った時、俺は思った。小田の目的は、藤井が名乗り出なかったことを責めることじゃない。クラスの雰囲気を悪くして、楽しむためなんだって。それで、悪くなったクラスの雰囲気を、誰かに穏やかにさせるよう誘導して、さらに悪化させる気なんだってね。このままいけば、藤井は、確実に1人、カンニング犯として、みんなから嫌われると思う。そうならなくても、そうなるように、小田は仕向けてくる。それを避けるには、小田も共犯だっていうことをクラスに知ってもらう方法しか俺には思いつかない。共犯だって暴露するのは、藤井でもいいかもしれないけど、『投稿した私への当てつけだ』とかなんとか言って、藤井の言ってることを嘘だと主張するだろうね。だから、第三者がやらなきゃいけない。でも俺にはクラスの雰囲気を良くするなんて事、無理なんだよ。どういう方法を考えても、余計に悪くなる結果しか浮かばない。だから俺はどうしたものかと悩んでる。俺が、藤井と小田が共犯だって気づいても、それを、クラスに言うことはしないって小田は分かってる。俺のことを、クラスの雰囲気を悪化させるような人じゃないって思ってるんだ、小田は。だから、裏をかくんだ。小田を共犯だってクラスに示す方法を取る。クラスの雰囲気が悪くなっても、あとで立て直せばいい。藤井を助けるには、そうするしかない。俺は、藤井1人を、犠牲になんてできない。」
武田は、まさに私を救ってくれるヒーローだと思った。優しさの塊。
クラスから嫌われ、3年間を送る事になると思っていた私は、武田の救いに、少し安心した。私の味方をしてくれる人がいる。これはとても大きなことだ。
「俺は藤井を助けたいけど、肝心の方法が思いつかないんだ。何小田が共犯である証拠になるものって何かあるかな?」
さゆりちゃんが、共犯である証拠?
あの時、データを取り込んだのは、私のタブレットだったし、掲示板の削除履歴も私の方だ。それも、さゆりちゃんが私を陥れるためだったんだと今になって気づく。
あとは、先生がどうやって、カンニングを知ったのか、それが分かれば役立つかも知れないけど、それは私には分からない。
もしかしたら、さゆりちゃん本人が言ったのかもしれないし。
だとしたら、何があるんだろう……。
悩んでいる私に武田は質問してきた。
「ねぇ、小田はどうやって、藤井をカンニングに誘ったの?」
「えっと、私がね、テスト不安だから、勉強教えてほしいって頼んだら、中間テストがある場所を知っているよって教えてくれたんだ。」
「中間テストがある場所?」
「そう。先生のタブレットの中だよ。中間テストっていうアイコンがあって、その中身をクラスの掲示板に貼って、問題を盗んだ。」
「問題? 解答は盗まなかったの?」
「解答は無かったよ。だから、問題だけ。解き方は、テストまでの期間、さゆりちゃんに教えてもらった。なんで、さゆりちゃんは、問題見ただけで答え出せるのに、盗むんだろうって思ったけど、私を、陥れるためだったのかな……。」
「ああ、ごめんね、嫌なことを思い出させて。カンニングっていっても、2人でちゃんと勉強したわけだ。点数は、満点を取らないように調整したりしたの?」
「いや、私は全力でやったよ。さゆりちゃんは、本気でやれば、満点取れたと思うけど、いつもより低い点数だった。」
「え? どういうこと?」
「私もどうしてだか分からないけど、さゆりちゃんはいつも平均90点以上とってるのに、今回は70点ぐらいだった。」
「点数開示申請したの?」
「うん。だから間違いないと思う。」
「でもそれなら、逆にそれを根拠に出来るかも知れない。体調悪かったとか言い訳されるかも知れないけど、点数開示申請すれば、小田が中間テストで、普段通りじゃない点数をとっていたことを、みんなに示すことが出来る。」
武田は、うん、その方法がいいかもしれない、と頷いて、私にお願いしてきた。
「藤井、明日の放課後、点数開示申請させてくれないかな? みんなの前で。前期テストと、中間テストの点数を。その時、小田も共犯の可能性があることを言って、小田にも開示してもらう。そうすれば、小田が共犯だって、みんなに分かってもらえるよ。」




