表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍観者  作者: Amaretto
第二章
15/56

2-6(鈴木5)

[鈴木]


「うん。本当だよ。その書き込み、私がしたんだもん。」


 その発言に、皆が動揺させられた。

 昨日あれだけ藤井を庇って、ようやく一件落着したのに、どうして、と僕も疑問に思う。


「さゆりちゃん、私が犯人って書き込みしたってどういうこと!?」


 藤井が、小田の肩を掴んで揺らす。小田は、揺らされながらも、落ち着いた様子で答える。


「だって本当の事じゃん。有紗ちゃんが自分で言うかなって思って、チャンスをあげたのに、自分で名乗り出ないからさ。名乗り出てたら、ちゃんとフォローしたのに。自分が悪いでしょ?」


 小田の発言に、クラス中が驚きを隠せなかった。


 小田は、優等生で、誰にでも優しく、武田のように信頼の厚い人物だった。だから、こんな人を陥れるような発言に、耳を疑う。


「え。さゆりちゃん。どうして。どうしちゃったの。」


 藤井も言葉が震えている。親友だった人に裏切られたこと、そして、自分が犯した罪をクラス中に知られたこと。この2つで藤井の心は壊れそうだった。


「どうしちゃったのって。私は、もともと、こうだよ? 何言ってるの、有紗ちゃん。」


 にこっと微笑み、いつものような笑顔をする小田。その恐ろしさに、僕は背筋に冷たいものを感じる。


 これは、僕たちが見てきた小田ではなかった。優しくて、天使で、皆の高嶺の花。その小田が、こんな怖い笑顔をする人だったなんて。


 藤井が犯人だったことよりも、小田の本当の人格が露わになった事の方が、クラスメイトにとっては衝撃だったようで、それ以上、藤井への質問責めもなくなった。


 皆が黙ってそこに立ち尽くしていた。


 暫くして、担任が教室にきて、朝会を始めるため、各々が自分の席に着く。

 その日は、朝のような騒々しさなどまるでなく、いつも以上にしんとしていた。




 僕の推測は、ある意味どちらも当てはまっていた。犯人は藤井であったし、投稿者も、クラスの雰囲気を悪くすることを気にも留めない人物だった。

 小田さゆり。これほどまでに、恐ろしい人だと、誰が思っていたというのだろう。藤井の裏切られたショックは計り知れないな。カンニングの犯人でありながらも、少し同情するくらいだ。


 誰がどう見ても、小田の行動は小田らしくなかっただろう。昨日までの小田が、本当の小田だとしたら。

 でも僕は、今日の小田が、本性なんじゃないかと思う。


 小田は、藤井が名乗り出なかったのが気に入らなかったといっていたが、まるでそんな風には見えなかった。寧ろ、彼女自身があの状況を楽しんでいるような、そんな気がした。


 それが、本当の小田だとしたら、恐ろしい。

 あの笑顔も、あの可憐さも、あの儚さも、全て嘘だったんだ。


 そしてふと、思う。小田はどうやって藤井がカンニングしたと知ったのだ? そもそもカンニングなんてどうやってやったっていうんだ?


 僕は暫く考えたけれど、カンニングの方法なんて思いつかなかった。まあ、いずれにせよ、小田は、藤井のいつも近くにいたわけで、藤井は物事を隠すと動揺してしまうようだから、雰囲気とかで分かったのかもしれない。元親友といえるほどの仲だったのだから。


 僕はベットに入りながら、小田さゆりと、クラスの今後について考えていた。この悪くなったクラスの空気は明日も続くのだろうか、と思うと気が重い。


 武田なら、なんとか前の空気に戻してくれるのではないか?


 僕はいつも他人任せだけれど、武田になんとかして欲しかった。空気を変える。それは力がある人しか出来ない。今の僕はただの傍観者だ。

 だけど、それでもいいから僕は穏やかに高校生活を過ごしたいんだ。そう思いながら、いつのまにか眠りにつく。


 次の日の朝、重い足取りで学校に行く。みんなが教室の後ろに集まっている。その中心にいるのは武田だった。


「だいたいみんな集まってきたね。」


 武田は全員に視線を少しずつ向けながら、続ける。


「みんな、藤井が本当にカンニングをしたって思ってる?」


 思いもよらない発言だった。昨日の藤井の雰囲気と、小田の発言から、明らかではないか。


「何いってるの。そうとしか思えないじゃない。」


「まあ、そうだよね。僕もそう思うんだ。カンニングしたのは、藤井かなって思ってる。でもね、確かな根拠はないんだよね。根拠も無いのに、100パーセントそうだって信じるのも、どうかと思ってね。藤井が犯人だと確信したところで、彼女を責めたい訳じゃない。ただ、本人に確かめてみようかなって思って。」


「本人に確かめるって、どうするの?」


「本人に、点数開示申請するんだ。」


 そうか。点数開示申請をすれば、申請された側の承認により、その人の点数を知ることができる。

 武田は、続ける。


「藤井がカンニングしていないなら、自分の潔白を証明するために、点数を開示する。もし、開示しないとしたら、それはカンニングしたとみなしていいと思う。でも、問題なのが、カンニングしているのに、点数開示をするかもしれないこと。その対策のために、前期テストの点数も開示してもらう。以前より明らかに高い点数だったりしたら、それも、カンニングしたとみなしていいと思う。みんな、どうかな?」


 武田にしては、荒いやり口だと思った。武田は、みんな和やかに過ごせるような調整をしてくれると思いきや、これではまるで公開処刑を進めてる執行人みたいだ。


 けれど、クラスの皆は賛成した。やはり、あの重いペナルティの恨みは少なからずあるからだ。


「そしたら、今日の放課後、見せてもらうことにしよう。あとで昼にでも俺が藤井に話しておくよ。」


そうして、武田による朝会は終わり、まだ来ていなかった生徒に対しては、その友達が説明することとした。



 放課後が来る。


 僕はそわそわしていた。クラスで行われる公開処刑。それも武田による。


 武田も小田と同じように本性は怖い人なのかと、少し疑ってしまう。小田のあれだけの豹変ぶりを見てしまっては、人間不信にもなる。まあ、武田が荒い方法で犯人探しのように吊るしあげるとしても、最終的にクラスの雰囲気を良くなればいい。でも僕は、この方法じゃ、どんどん空気が悪くなる一方に思えて、焦っていた。これ以上の悪化なんて考えたくもない。


 武田は、この荒い方法でも、クラス再建をやり切れる自信があるのか?

 それとも、小田と同じように、誰かを犠牲に、楽しみたいのか?


「みんな、集まったようだね。」


 武田が宣言通り、藤井有紗の公開処刑を始める。

 全ては武田にかかっている。なんとかしてくれ、武田。僕の平和な日常を取り戻してくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ