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傍観者  作者: Amaretto
第二章
14/56

2-5(鈴木4)

[鈴木]


 ペナルティ宣告を受けた次の日、教室の中は騒がしかった。昨日の件で何かあったのかもしれないとと僕は悟った。クラスの雰囲気が悪くなっていなければいい。それだけが僕の願いであった。


 意を決して教室のドアをあける。クラスの皆が、タブレットを手に持ち、呟いている。


 クラスメイトが手に持っているタブレットにちらっと目を向けると、クラスの掲示板を開いているようだった。僕も自分のタブレットを取り出し、掲示板を開く。そこには、昨日の夜投稿された書き込みがあった。カンニングの犯人は藤井有紗だという内容。投稿者は、匿名だった。


「まじかよ、有紗って……。」


「昨日、自分も賛成ですとかっていってなかったっけ?」


「もしかして、小田も、知ってて庇ったのかよ……。」


 昨日よりさらに悪い空気になっている。クラス中がピリピリとしていた。


 ああ、僕の平凡な高校生活も終わるのかもしれない。そんな予感がした。


 この時の僕は、中学の時とは違う、明るく楽しい高校生活を期待していた。この数ヶ月過ごして、いてもいなくても変わらないクラスメイトに成り果てた今でも、今から何か変わってくるんじゃないかなんて、思っていた。

 まあ、自分で変えようとなんて気はないし、変えられるほど、僕に力があるわけでもない。もし変えられるのだとすれば、武田とか、小田とか、そういうクラスの中心の人物だろう。

 でも今日、僕の願いとは逆の方向に、クラスは変わってしまったようだ。いや、初めから、入学した時から、こうなるものだと決まっていたのかもしれない。このクラスメイト達は、他の人なんてどうでもよくて、自分に都合悪い人がいれば、その人を吊るしあげる、そんな集団だったのかもしれない。


 集団は空気に流される。1人が悪者だと分かれば、その悪を徹底的に無くそうとする。まるで何かに取り憑かれたように、それが正義であるという。本当は何が正しくて、何が悪いのかなんて関係ない。僕たちは、「空気」というものに従う。空気がすべて正しいと信じている。


 教室とは、クラスメイトとは、集団心理とは、恐ろしいものだ。僕はこれから、その集団の中で生きていくんだと、今になって改めて実感する。


 僕は黙って自分の席に着き、考える。これから、藤井有紗はどうなるのか。小田さゆりもどうなるのか。


 小田が、昨日犯人探しを辞めさせたけど、あれは、藤井が犯人だと分かってそう言ったのか? それとも、ただ単にクラスの雰囲気を守るためか?


 そもそも、本当に藤井有紗が犯人なのか? 根拠なんてどこにも無い。藤井有紗を犯人に仕立て上げようとした真犯人がいるかもしれない。匿名なのだから、分からないけれども、少なくても、穏便に解決させた小田と武田は違うだろう。そして、犯人と名指しされている藤井にもメリットはない。多分、昨日クラスの雰囲気に流され同意はしたものの、ペナルティに対して納得行かない人が投稿者だろう。



 まず、藤井が犯人の場合について考えてみる。この可能性は充分ある。藤井はあまりテストが得意ではなさそうだからだ。ただ、疑問点もある。投稿者はどうやって藤井が犯人だと知ったんだ? 「犯人が名乗り出ないなら知りようがない」と、小田が昨日言っていたじゃないか。本人以外が知る方法など、あるのか?


 そして、考えられる他の場合。藤井が犯人ではない場合だ。僕としては、こっちであってほしくはない。こっちの方が、今後のクラスに影響が大きいからだ。


 藤井が犯人じゃない場合、2通りのパターンが考えられる。


 1つ目は、ペナルティに関係なく、藤井本人を嫌っている人が投稿した場合。藤井は思った事をそのまま言うタイプであるから、そういう人がいてもおかしくない。だけど、こっちのパターンで問題なのが、その人は、"藤井を陥れるためなら、クラスの雰囲気を悪くしてもどうってことない"ってことだ。そんなことは気にも留めない、図太い神経をしているのかもしれない。でも、それだったら、藤井を嫌う理由に矛盾が生じてしまう。図太い神経の人をよっぽど傷つけるほどの失言を藤井がしてしまったのか。


 2つ目パターンとして考えられるのは、投稿者は、藤井に恨みを持っていないって場合だ。単に、誰でもいいから吊るし上げて、クラスの雰囲気を悪くしたい。そう思っている人がいる場合。それが、一番タチが悪い。

 どのパターンかによっては、今後クラスでの生活が最悪なものになる。

 だってこの高校は、3年間クラス替えがないのだから……。


 暫くして、藤井有紗が教室に入ってきた。

 クラスメイトがさらに騒きはじめる。


「有紗ちゃん、カンニングしたの本当?」


「どういうことなんだよ!」


「昨日、なんで言わなかったの!?」


 藤井が教室のドアを閉める前に、藤井の周りに人が集まっていった。藤井を非難する声は、廊下まで響き渡る。


「えっ。ちょっと。いきなり、なに?!」


 藤井は動揺していた。

 藤井を囲うように集まるクラスメイトの間を抜け、みんな落ち着いて、といったように、肩に手を置きながら、武田が前に出ていく。

 武田が、この今の状況の経緯を説明する。


「昨日の夜、クラスの掲示板に書き込みがあったんだ。匿名で。カンニングをした犯人は藤井有紗だって。それについて、みんな本当かどうか聞きたがってる。もちろん、俺は藤井が違うっていうなら、そう信じるけど。本当なの?」


 武田は、急に皆に怒鳴られ、粛々としている藤井に優しく声をかけ、答えを促す。


「掲示板に書かれてた? え、そうなの?」


 藤井の顔色は青くなっていった。これは、本当に藤井がやったのかもしれない、と皆思った。


「どういうことなの!」


「本当って事でいいの!?」


 クラスメイトが、藤井を責め立てる。また、武田が周りをなだめる。


 その時、後ろから、小田さゆりが入ってきた。


 小田に対しても、藤井と同じのように質問責めにする。武田の牽制が効かないほど、クラスメイトは興奮していた。


「小田ちゃん! 昨日、有紗ちゃんを庇っていたけど、犯人だって知ってたの?」


「さゆりちゃんは、掲示板の書き込み、見た?」


 小田は、両手を挙げ、まあまあ、といったポーズをとる。藤井とは違い、落ち着いていた。そして、さらっと発言する。



「うん。本当だよ。その書き込み、私がしたんだもん。」


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