2-4(藤井3)
[藤井]
こんな事になるなんて思ってなかった。もともとはさゆりちゃんが言い出した事だったし、私はただ協力したに過ぎない。だからって正直に協力しましたって言う事もできない。
さゆりちゃんは、どうするつもりなの? 隠し通すのかな? それが出来るなら、そうしたい。でも、バレたらどうしよう。
さゆりちゃんが、カンニングした人を責めないようにするっていう雰囲気を作ってくれたのが唯一の救いだけれど、もしバレたら最悪だ。犯人を責めないようにしようって言い出した本人が犯人だったら、怒りはさらに倍増しちゃう。犯人を責めないようになんていう約束だって、意味がない。
「じゃあ、カンニングをやった人は手を挙げて」
さゆりちゃんはみんなに呼びかける。私は手が震えていた。挙げるべきか挙げないべきか。きっと、私がやったとバレてしまったら、クラスから嫌われてしまうだろう。そうなると分かっていて、自分から名乗り出るなんて、私には出来なかった。嫌われたくなかった。きっと、さゆりちゃんもそう思って、うやむやにしてこの場を収めるつもりなんじゃないかな。
5秒ほどだろうか。無言の時が続く。もちろん、誰も手を挙げない。
さゆりちゃんは、肩をすくめ、発言する。
「私は正直、本人は名乗り出ないと思う。やっぱり、クラスの中で声をあげるのって難しいことだから。だけど、それを攻めないでほしい。」
クラスが少し騒つく。さっきと言ってることが違うじゃないかと、皆の怒りがさゆりちゃんに向かっていきそうになってる。
「みんなが、許せないのは分かるよ。私だってそうだよ。でもね、本人が言わないなら、見つける方法なんてないよ。だからそうするしかないと思うの。小声で不満を言ってる人もいるけど、もし自分の意見があるなら、きちんと言って欲しい。解決策とか、いい案とかあれば、言ってほしい。そうすれば、クラスとして、どう対応するか考えられるでしょ? 私だけの意見をクラスの意見とみなして話を進めていくのはダメだって分かってるよ。だから、みんな何かいってほしい。」
さゆりちゃんはそう言ったけど、クラスの中で声を上げる勇気がある人はなかなかいない。そして、当事者でありながら、私も何も言えなかった。
「俺は、小田の意見に賛成するよ。」
また、クラスで声を上げたのは武田くんだった。
「これは俺の意見だけど、一番良くないと思うのは、犯人探しみたいに、みんながみんなを疑って、クラスの雰囲気が悪くなる話ことだと思う。それに、今の雰囲気の中で、カンニングした人も名乗れないよ。もし、分かったとしても、今回の事が無くなるわけじゃなくて、ペナルティも受けて、クラスの雰囲気も悪くなる。そうなるくらいなら、次はこう言う事をしないようにしようって、みんなで約束して終わりでいいんじゃないかな? 俺自身は、ペナルティは気にしないよ。支給されているお金だからね。これが俺の意見だけど、みんなはどうかな?」
穏やかな口調ながらも、自分の意見をはっきりと伝え、まとめようとしているのは、武田くんの力があってこそ出来ることだと、私は思う。
クラスの雰囲気も、さゆりちゃん、武田の2人のおかげで、穏やかになった。ありがとう、さゆりちゃん、武田くん。
「私も、同じ意見だよ。」
私はここで始めて発言した。
「俺も、武田に賛成する。」
「犯人には強く反省してもらいたいけど、追求はしないでいいと思う。」
「まあ、しょうがないもんね。」
「私も、今月一万円我慢するよ。」
ほかの人たちも、武田や小田の発言の促しにより、自分の意見をポツポツと言っていった。
こうして、1年1学期の夏、カンニング事件は幕を閉じたように思えた。
[学校掲示板:二組]
内容:
中間テストのカンニングをした犯人は…
藤 井 有 紗。
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