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傍観者  作者: Amaretto
第二章
11/56

2-2(藤井2)

[藤井]


 次の日、私達はカンニングを決行した。


「先生、来たよ」


 小声でさゆりちゃんが言う。


 私達は先生が教室に入って来る前の時間、先生から見えないように隠れて、先生を観察していた。


 先生は教室へと続く廊下を歩いている。その廊下の途中、向かって左側にトイレがある。そして、その向かい、つまり廊下の右側に棚がある。


 先生は、まっすぐ廊下を進んでいたが、棚の前で立ち止まり、肩にかけている鞄を下ろす。そして、さゆりちゃんが言っていたように、廊下の棚に荷物を置いた後、トイレへ向かう。


「トイレに入っていったね」と小声で言い、私達はすぐにその棚へ向かう。棚には黒い鞄が置かれてあった。鞄には学校のマークがついている。先生の鞄を手に取り、鞄の中からタブレットを取り出す。その時私は、緊張を感じながらも、このスリルを楽しんでいた。


 タブレットをタップすると、画面が表示される。見てみると、生徒にはない中間テストのアイコンがあった。黄色い背景にピンク色の文字で「中間テスト」と書かれている。そのアイコンをタップし、中身を開く。教科ごとに別れており、国語の文字をタップすると、問題が表示された。私とさゆりちゃんは、顔を見合わせ、悪戯好きな子供の様にニヤっと笑う。

 最初の画面に戻り、私達のタブレットから接続できる学校の掲示板のアイコンがあったから、それを開く。各教科ごとの問題を掲示板に貼り付ける。その後、私のタブレットで掲示板にアクセスし、貼り付けたデータを取り込む。時間がかかったらどうしようと思ったが、データはそれほど重くなく、思ったより早く取り込めた。


「取り込めたね。あとは掲示板削除するだけだね」


 さゆりちゃんが嬉しそうに言った。私は掲示板の投稿を削除し、先生のタブレットを鞄の中にしまい込んだ。そして最初に置いてあった時と同じように、棚に鞄を置きなおした。


 急いでその場から離れ、廊下の曲がり角に隠れて観察する姿勢に戻る。


「上手く言ったね」とさゆりちゃんが囁く。私はそれに頷く。その10秒後に槇原先生がトイレから出てきて、鞄を手に取る。もし、バレたらどうしようという不安で、私の心臓がバクバクとなっていた。


 バレませんように、と私は心の中で願う。その願いが届いたからかは分からないが、先生は全く不審に思うこともなく、鞄を持ち、教室へと向かってきた。


「先生こっちくる。戻んなきゃ」私はそう言い、さゆりちゃんの手を引く。私達は慌てて教室の中へ入り、ドアを閉める。



 ガヤガヤした教室のクラスメイトの一人に戻ることができ、ホッとする。私とさゆりちゃんは何事も無かったように席についた。


 思ったよりあっけなく問題を盗むことが出来てしまったけれども、こういったことは初めてだったので達成感は物凄かった。


 本来の目的はカンニングだったのだが、途中から盗む行為そのものを楽しんでいた。

 今の自分なら何でも出来るような気さえしてくる。


 その余韻に浸るまでもなく、先生が教室に入ってきて、いつも通り朝の事務連絡をし、1日が過ぎた。朝の出来事以外は、全く普通の日であった。




 中間テストまでの期間、放課後にさゆりちゃんと勉強をした。

 盗んだ問題を一度解き、分からないところを復習した。さゆりちゃんは私に問題の解き方を教えてくれた。私はあまり勉強が得意ではなかったが、さゆりちゃんの教え方が上手で、私でも理解出来た。


 でも私は素朴な疑問を持っていた。


 さゆりちゃんは頭が良く、おそらく中間テストでも良い点数を取れるはずなのに、どうして問題を盗むことを提案したのか。


 問題を見ただけで、回答までたどり着けるような人が、リスクを冒してまで、問題を知る必要があるだろうか?

 そう考えても、私にはその答えなど分かるはずもなかった。


 その時ふと、今日の朝のさゆりちゃんの顔が浮かび上がる。いつもの優等生の顔とは違い、裏で悪いことをしているのを楽しんでいる、そんな顔だった。

 さゆりちゃんは、以外といい子ではないのかもしれないな、と思った。そして、それは私の予想しない形でのちに証明される。



 中間テストの日がやってきた。


 生徒は何も話さず、タブレットをじっと見つめている。タブレットには、黒い画面の中央に、テスト開始までの時間が表示されている。その秒数が0を示すと同時に、「開始」と先生が言った。


 タブレットに、中間テストの問題が表示される。盗んだ問題と、全く同じものであった。私はすらすらと問題を解き、正解と思われる番号をタップする。この問題には慣れていたので、今までのテストより、簡単に思えてくる。回答時間が終了する前に、私は全ての問題を解き終えていた。


 終了時間と同時に、タブレットの回答画面は閉じ、転送中という文字の表示に切り替わる。回答内容が生徒のタブレットから担任のタブレットへ自動送信された。その後すぐに、私達のタブレットに正答と、点数が送信されてきた。



[藤井 有紗]

[国語85点 数学70点 化学75点 日本史83点 世界史78点]



 いつもの平均が50点くらいの私にとっては、かなり良い点数を取れている。クラスの平均点も確認してみる。



[2組平均]

[国語70点 数学64点 化学68点 日本史69点 世界史69点]



 どの教科でも私は平均点以上取れていた。わたは心の中でガッツポーズをする。

 周りを見渡すと、ニヤニヤしている人、今にも泣き出しそうな人、無表情の人、に大きく分かれていた。


さゆりちゃんは無表情の人に含まれていた。


 さゆりちゃん、点数悪かったのかな? と不安になる。さゆりちゃんは前回のテストでは平均92点くらいであった。今回は問題を知っているのだから、点数が低いはずないだろうけど、どうしたのだろう、と思う。私はさゆりちゃんの点数が気になったので、点数開示申請を行った。



[点数開示申請:小田 さゆり]

[申請中]


 タブレットから、他の人の点数開示申請をすることができる。点数を知りたい人がいれば、本人宛に申請を行い、承諾された場合のみ、点数が開示される。

 すぐに、さゆりちゃんが許可を出した。



[点数開示申請:小田 さゆり]

[許可されました]

[国語75点 数学70点 化学70点 日本73点 世界史73点]



 私はさゆりちゃんの方を見た。

 さゆりちゃんは私の方を見ることなく、無表情であった。

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