プロローグ
魔法使いは素顔を見られてはならない。素顔を見られた時、魔法使いは顔を見た者を始末、あるいは弟子にしなければならない。
魔法協会で定められた掟、これに逆らうことはできない。逆らうならば魔法使いとしての地位は無くなり、生活ができなくなる。
私はまだ弟子など取りたくはない。一人前になりようやく魔女の資格を手に入れたのだ。今の生活が軌道に乗っている上に、今は自分のことで精一杯なのだ。
「すまないな、せめて安らかに」
夢魔の私が人に苦しみを与えずに殺す方法。
ーキスー
口と口を重ね、生気を吸い取る。痛みはない。すうっと意識がなくなり死に至る。
私は目の前で眠っている少年の顔に近づく。幼さの残る顔つき、さらさらの髪、一本の小さな黒い角、この少年にはどんな辛い未来が待っていたのだろう。半幻魔というハーフ、場所によっては忌み子として奴隷の如く扱われる存在。今ここで、私が終らせてあげよう。辛い世界から解き放ってあげよう。
「んっ…」
私はそっと、少年の唇に自分の唇を重ねる。
おやすみ、名も知らぬ少年。来世があるなら、どうか幸せに。
その時だった、少年が、目を、開けた…?
「…っ!」
私は思わず口を離してしまった。少年の綺麗な瞳と目が合う。しばらく時間が止まっていた。急に異常なほど恥ずかしくなってきた。少年も恥ずかしそうにして固まっている。
ああ、ついてないなあ。もう少し早ければできたのに。どうしようか、どうすればいいだろう。なんで、出会ってしまったのだろう。
時は、数時間前に遡る。
魔女は、傷だらけの少年に出会う。