第三話 『桃太郎に挑む』
両腕を組み、うーん、とうなる東山に西野は軽い口調で言う。
「文化祭でやる演劇のモチーフとしてはけっこうベタというか、メジャーな物語だからな。やりやすいといえばやりやすいんじゃないか?」
「そこが問題なんだよ。ベッタベタの手あかまみれのモチーフだから、特徴というか、独自色をつけるのが難しいんだ。これだ! っていえるようなオリジナリティがないと、既視感しかない話になっちゃうよ」
「そうそう。そのことについてなんだが、じつはクラスの連中と話しあってな。とりあえずのたたき台を用意してきたんだ」
「へえ。どんなの?」
「桃太郎というメジャーな昔話に現代的な要素を加え、さらに社会風刺的なメッセージっぽいものを盛り込めば、なんかこういい感じにまとまるんじゃないかって気がするんだ」
「ねえ。たたく前に壊れてない? そのたたき台」
「じゃあ、他に何か案はあるのか?」
西野に言われ、東山は「うーん……」と考え込む。
しばらくして、東山は気づいた。
こちらを見る西野の顔に、うっすらとした笑みが浮かんでいることに。
「はっはっは。いいねいいねえ。やっと脚本家らしくなってきたねぇ」
「春太郎……。まさか、君は」
「やっと気づいたか。そうさ、たたき台でお前のけつをたたいてやったのさ!」
「うまいこと言ったつもりか! ていうか、全然うまくないっての!」
東山につっこまれ、西野は愉快そうに笑う。
「あー、もう。ふざけてないで真面目に考えてよ」
「何言ってんだ。俺が生まれてこのかた真面目になったことがあると思うのか?」
「だよね、ですよねー。ほんとなんでうちのクラスは、こんな愉快犯的人物が総監督になるのを阻止しなかったんだろうなぁ」
「他に立候補したやつがいなかったからな。これまた満場一致の決定さ」
「そういえば、まだクラス全員の役割表をみてないんだけど。それってもうできてるの?」
「ああ。まだ見せてなかったっけか」
西野は通学鞄から一枚のプリントを取り出し、東山にわたす。
「ええと……、え? あれ? ねえ、これどういうこと? 鬼役の役者が全員女子で埋まってるんだけど」
「ちゃんとした戦略にもとづいてのキャスティングだ。鬼の衣装はビキニまでの露出ならギリギリセーフらしいからな。これで男子生徒の支持率を固めることができる」
「いやいやいや。男子はよくても女子からは反感買いまくるでしょ」
「そんなことより、桃太郎役を見てみろ。何か思うことはないか?」
西野に言われ、東山は桃太郎役を確認する。
そこには、桃太郎役『北川美冬』と書かれていた。
「え……、これはちょっと、意外というか。あ、まさか僕と同じように北川さんも欠席しててそれで無理矢理」
「失礼なことを言うな。俺たちがそんな非人道的なことをすると思っているのか」
「君の目の前にその被害者がいるんだけど?」
「冗談はさておき、それは北川が立候補したんだ」
「ほんとに? 信じられないな。北川さんって、自分から目立つようなことをする人じゃないっぽいのにね」
「どういう心境の変化があったのかは俺にもわからん。ただ、桃太郎役を決めるとなった時に北川は真っ先に手を上げたんだ」
「そうなんだ。ねえ、もしかしてさ、それって去年のことが関係してたりするのかな?」
さあな、と西野は首を振った。
「とにかく今は脚本を考えようぜ。我がクラスの誇る才女たちがあられもない姿で舞台に立ってくれるんだ。それに見合う最高の脚本を考えないとな」
もうその時点で深夜の低俗なバラエティ番組程度のクオリティにしかならないんじゃないかなと思い、東山はため息をついた。
それでも、脚本は仕上げなければならないため、東山はペンを持ち、ノートと向かいあう。




