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第二話 『文化祭の伝説』

 うんざりした表情の東山に、西野は言う。


「でもよ。俺だって無責任にお前を脚本係にしようと思ったわけじゃないぜ。お前をサポートするために、総監督になったんだからさ」


「それはありがたいけどさ。でも、やっぱり生半可なことじゃないんだよ。そりゃね、普通の脚本をつくるくらいのことは、なんとかできるよ。でも、普通のレベルじゃダメなんでしょ?」


「もちろんだ。目指すは優勝だからな。我が二年一組にも、優勝賞品の特権を欲しがるやつはそれなりにいるからな」


 一高の文化祭では、文化祭最終日にアンケート調査が実施され、各学年ごとに最優秀クラスが決定される。

 そして、最優秀となったクラスには、文化祭最終日に学校の屋上へ入場できる権利が与えられるのだ。

 屋上からはなだらかに広がる自然豊かな街並みが一望でき、後夜祭のキャンプファイヤーやフォークダンスが催されている運動場を特等席で観覧できる。

 それはそれはいい眺めだそうだが、健全なる高校生がそんな詩的なもののために青春の一ページを費やしたりはしない。

 創立大体九十年を誇る一高には、こんな伝説があるのだ。


 文化祭最終日の夜、学校の屋上で告白すると、その恋は成就する。


「今時そんなうわさ話を信じてる人がいるなんてね。うちの学校ってそこそこの進学校なのに」


「よそにはない特別なものが自分たちの学校にはあるって信じたいのさ。つまりは中二病だ」


「高校生にもなって……。ていうかさ、春太郎にはいるの? 告白したい人」


「いる、というか、いた、だな。先週告って断られた」


「マジで? ていうか、どうせなら文化祭の結果が出てからにすればいいのに」


「文化祭は一か月後だからな。それまで我慢できなかったんだ」


「ほんと、昔っから本能で生きてるよね」


「まあ俺のことはさておき、この機会に告白を決意してるやつもいるんだよ。うわさだろうが伝説だろうが、すがれるもんにはすがりたいのさ」


「気持ちはわからないでもないけどさ、だからって僕にへんな期待を向けるのはやめてほしいんだけど」


 東山は脇に置いてある通学鞄から筆記用具とノートを取り出し、机の上にノートを広げる。

 ノートには何も書かれておらず、東山は頬杖をつき、ため息をついた。


「にしてもさ、演劇のモチーフが『桃太郎』ってどうなの? 高校生が文化祭でやるような話じゃないでしょうに」


「仕方ないだろ。今年の演劇のテーマは童話・昔話で、くじ引きの結果これが当たっちまったんだから。


『三匹の子ぶた』とか『鶴の恩返し』とかと比べれば、まだマシな方だろう」


「そりゃそうかもしれないけど」


「とにかく真面目に考えないとな。結果が悲惨なものに終わったら、今度こそこのクラスはどうなるかわからん。お前だって去年のクラス展示の時みたいなことは、もうごめんだろ」


 そうだね、と東山はつぶやいた。

 二人が在籍している一組は特別進学クラスであり、基本的に三年間を通じてのクラス替えはない。

 なので、残りの高校生活は今のクラスメイトと過ごすことになっている。

 そのため、何か重大な失態をおかしたとしても、クラス替えというリセットは存在せず、卒業までその罪を背負い続けなければならないのだ。


「ねえ。もし僕の脚本が原因で優勝できなかったら、どうなるかな?」


「去年のあの騒動がもう一度起こることになるだろうな」


「だよねぇ……。やっぱ、やるしかないか。でも、どうすれば桃太郎を面白くできるかなぁ」

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