第十六話 『最高の舞台を』
珍しく困惑している北川に、東山は言う。
「いや、なんとなく。そっか、告白したい人がいるんだ。なんかうれしいな、そういうのって。中良きことはよきことかなっていうし」
善意百パーセントの表情で東山が言うと、北川は少しだけ不満そうに目線を下げた。
「ちなみに、北川さんは誰に告白したいの?」
「ねえ、東山君。デリカシーって言葉、知ってる?」
「え? それは知ってるけど。どうして?」
すると北川はため息をつき「もういい」とつぶやいた。
「あれ? なんか気に障ること言っちゃった? だったらごめん。悪気があったわけじゃないんだ。その、北川さんの好きな人がわかったら、僕も何か応援できるかなって思っただけで」
「どーぞおかまいなく。一人でちゃんとするから」
すっかりふてくされた口調で北川は言った。
「えっと、その、ごめん。とにかくごめん」
東山はわけもわからずひたすら謝る。
北川はしばらくむくれていたが、やがて表情をやわらかくした。
「いいよ、もう。そうだね……、うん。優勝できたら教えてあげるよ。私が好きな人」
「ほんと?」
「ところでさ、東山君にはいるの? 告白したい人」
「あー……、今のところは、いないかな」
「じゃあ、告白してきそうな人は?」
「ないない。いるわけないよ、そんな物好きな人」
「そうかな。なんだかんだで東山君って優しいし、けっこう可愛いところもあると思うよ」
「あはは。そう言ってくれるとうれしいよ」
北川はかすかに目を細めたが、やがてほほ笑みを浮かべ、ほんとだよ、と言った。
そのほほ笑みを見た瞬間、東山の心ははっきりと動いた。
「それだ……」
「え?」
「北川さん、今とてもきれいに、笑ってた」
「は? え? えぇっ?」
「いける。いけるよ! 北川さんのその笑顔があれば、みんなの心をきっとつかめる。優勝だって狙えるよ! うん。本当に、すごくきれいだった。みんなに見てもらおうよ、北川さんの笑顔を。そうすれば北川さんも、今よりずっとずっと変われるよ!」
東山はノートに『笑顔』と書きこんだ。
そうだ。やっぱりバッドエンドはダメだ。
物語はハッピーエンドを迎えなくちゃいけない。
きっと去年の僕も、心のどこかでそう思ってたんだ。
このまま終わるのは嫌だ。ハッピーエンドでなくちゃいけないって。
だから今年こそ、今度こそハッピーエンドにしてみせる。
東山はノートに書かれたメモを見つめ、そこから物語を導き出していく。
ここにあるアイディアを活かして、ハッピーエンドを目指さなければならない。
春太郎も言っていたが、一般的にハッピーエンドはバッドエンドをつくるよりも難しいかもしれない。
しかし、だからこそ東山は、それに立ち向かうと決意した。
困難を乗り越えた先にこそ、ハッピーエンドは待っているのだから。
東山は顔を上げ、北川に言った。
「北川さん。絶対に、最高の舞台をつくろうね」
東山の顔に笑みが浮かぶ。
北川は、さっきと同じようにほほ笑みを浮かべ、うん、とうなずいた。




