第一話 『仕組まれた運命』
高校の文化祭というと、おおよその人は賑やかで楽しく、それでいてどこか切なくもある青春の一ページを思い浮かべるのではないだろうか。
普段は惰性で高校生活を送っている無気力な輩や反社会的集団予備軍も、こういう機会にはここぞとばかりにはしゃいだりするものである。
文化祭では授業だの課題だの校則だのといった高校生活をおさえこむ諸々の要素がなし崩し的に薄まり、十代後半という若さをいかんなく発揮できる年に一度の機会なのだ。
一方で、文化祭には地域住民との交流という目的も含まれることが多い。
在校生の家族だけではなく地域住民も参加できる文化祭というのも、さほど珍しくはない。
どこの学校も真意は不明だが『地域に愛される学校づくり』だの『地域社会に開かれた学校運営』だのをスローガンにしているので、こういう機会をうまく利用しようと考えているだけかもしれないが。
いじめだの体罰だの教員による猥褻事件だのが起こると途端に閉鎖的になる分際で何が地域社会との交流だ、などと思ってはいけない。えてして組織とはそういうものなのだから。
ここ、桜坂第一高校、通称『一高』もそうした例にもれず、一般向けに文化祭を開催している。
一年生はクラス展示、二年生は演劇、三年生は模擬店というふうに催し物が行われ、卒業生や地域住民による特別参加ステージなども行われる。
そのため毎年それなりに賑わい、地元ではちょっとした名物イベントになっていたりもする。
だからこそ、というわけでもないかもしれないが。
どの学年も、どのクラスも、文化祭には並々ならぬ情熱をかけているのである。
さて、厳しい残暑がようやく過ぎ去り心地よい初秋の風が吹き始めた九月中旬のある日のこと。
放課後の二年一組の教室に、二人の男子生徒が向かいあって座っていた。
教室の中にはほかに誰もおらず、時を刻む時計の音が静かに響いている。
二人のうちの一人、東山千秋はとうとうがまんできなくなったというふうに机に突っ伏し、頭を抱えた。
「やっぱりさぁ、僕に演劇の脚本をつくるなんて無理なんだって」
東山は顔を伏せたままため息をつく。
そんな彼に対し、もう一人の男子生徒、西野春太郎はなんでもないような口調で言った。
「しょうがないだろ。役割分担を決める学級会の時、お前は欠席してたんだから」
「まさかそんな大事な時に季節遅れの夏風邪にかかるなんて思わなかったよ。それにしてもひどいじゃないか。欠席して、反論さえできない僕に、脚本係なんてものすごく面倒で責任重大な役割を押しつけるなんて。こんなの横暴だよ」
「そういうなって。俺たち二年一組一同はな、これは運命だと、神様からの啓示だと思ったんだ。誰もやりたがらない脚本係がある。そして物言えぬ欠席者であるお前がいる。つまり神様は、この役目をお前に授けよとおっしゃったってことさ」
東山は顔を上げ、西野にジト目を向ける。
「うちのクラスはいつから邪神崇拝なんて中二くさいことはじめたんだよ」
「もちろん俺たちだって常識がないわけじゃない。ちゃんと採決をとったさ。東山君が脚本係になるべきだと思う人は挙手してくださいってな。するとどうだ。満場一致で賛成だった。その光景を目にした時、俺は民主主義の偉大さを実感したな」
「そーゆーのは強行採決って言うんだよ。もしくは多数派による少数派への弾圧」
「まあようするにだ。こんな重要な時期に体調管理を怠って欠席したお前が悪いってことだ」
「あーあー。言っちゃったよ、この男は」
「まあでも、それだけが理由ってわけじゃないんだぜ。お前は昔っから本をよく読んでるし、面白い話もよくしゃべるし、無駄に行動力もあるし、勉強だって……。あ、すまん」
「おい。あやまんなよ。そこはウソでもいいからできるって言いなよ」
「ソウ、オマエ、ヤレバ、デキルコ」
「ねえ春太郎。ぶっとばしていい?」
西野は「はっはっは」と楽しげに笑い、東山はため息をついた。




