白黒でヒラヒラなあの服とボク
高峰家を出て、数秒で目的地に到着した。
「おっじゃましまーす!」
「ボクの家じゃん!」
数秒の距離。
つまり、我が家と高峰家はお隣さんなのだ。
「あれ、渚じゃない。どうしたの?」
なんでお姉ちゃんがいるんだ?
今日は出かけるって言ってたはずなのに。
「あ、早姫お姉ちゃん!」
渚ちゃんは、一人っ子だからなのもあってか、お姉ちゃんとはかなり仲良しだ。
「真姫くんの服をコーディネートしようと思ってねー!」
「へえ、真姫の服?」
あ、お姉ちゃんが獲物を見つけた時の目をしている。
これは……イヤな予感が当たったかな?
「さあ、渚!真姫をお部屋に連行!」
「イエーイ!」
二人揃ってボクの腕をがっしりと掴んだ。
「わっ、ちょっと……や、やだー!」
二人に引っ張られてボクの部屋に連れていかれる。
「さあ行くわよ!」
「おー!」
このままボクの部屋に行かれるのはダメだ!
アレは見られたくない!
「本当にボクの部屋はやめて!」
「何よ、何か変なものでも置いてるの?」
「変なものじゃない!じゃないけど、とにかくちょっとだけでも待っ……」
「よーし、突入ー!」
「あっ、渚ちゃん!?」
ボクとお姉ちゃんが話してる間に渚ちゃんが凄い勢いでボクの部屋に入る。
「あれー?ここ、真姫くんのお部屋?」
「どうしたの、渚。真姫の部屋に何か……おお?」
遂にバレてしまった……。
何がバレたかと言うと、かなり前から始めていたボクの趣味だ。
「すごーい!お部屋中にぬいぐるみがある!」
「このぬいぐるみ、これ全部真姫の手作りでしょ?いつの間にこんなに作ってたのよ?」
「いや、あのー、実は中学くらいからこっそりとね……」
小学生の時から可愛いものが好きだったボクは、中学一年生になってからお小遣いを貰えるようになって、ぬいぐるみにハマってしまった。
最初は売っているものを買っていたけど、一度自分で作ると今度は作るほうにハマり、いつの間にか凄い量になっていた。
「なるほどー。それで真姫くんってお裁縫上手だったんだね!」
「うん……まあね」
「にしても、これだけの数があって今までどこに隠してたの?」
「ほら、ボクの部屋の収納って結構大きいでしょ?だからそこに入れてたんだよ」
ちょっと恥ずかしくて隠してたけど、バレてしまったならもう開き直ってしまおう。
「それに、凄く女の子の部屋って感じになってるねー」
「元通りになるようなものでも無いから、もういっそ楽しんじゃおうと思って……」
「ならこんな服も楽しめばいいじゃない」
そう言ってお姉ちゃんはヒラヒラとしたスカート系の服をボクのタンスから持ってきた。
「そういうのはちょっと……」
「でもいつかは着るんでしょう?」
「いやまあ、そうなんだろうけど」
スカートに関しては、夏休みが明ければ強制的に制服のスカートを着なければいけないんだけどね。
「スカートはまだ我慢できるよ?けど、ヒラヒラしたのは流石に抵抗があるというか……」
「でも、本気でこの生活を楽しむなら避けては通れないわよ?」
「えー、そう?」
「ま、通れないと言うか私達が通さないけどね。はい渚、ゴー!」
「あいあいさー!」
「あの、ちょっと……。え、え!?待って待って!」
二人がかりでボクの服を剥ぎ取りに来た!?
「待ちませーん。先ずは上からね」
「んぐー、抵抗出来ないー!」
そして、されるがまま脱がされて、下着のみになる。
「……うー、何か着せるのなら早くしてよ?恥ずかしいから」
脱がされたままの格好でいるわけにもいかないので、取り敢えず自分の布団で隠した。
「おー、シャッターチャーンス」
ん?
今、写真撮られた?
「ねえ、お姉ちゃん?」
「んー?」
「今のカシャッて音は何?」
「恥ずかしがってる真姫を撮っただけだけど?」
あー、これはどれだけ交渉しても写真消してくれないやつだ。
「と、とにかく早くしてよ!ほんとに恥ずかしいんだからさ!」
「じゃ、渚ちゃん。そこの紙袋持ってきてくれるー?」
「紙袋……と。これでいいのー?」
「そーそー、それ!」
あの紙袋って、お姉ちゃんがプレゼントって言って昨日買ってきたやつだよね?
まだ中身は見てなかったけど、服だったのか。
「さてと、渚ちゃんもこれ着せるのちょっと手伝ってくれるかな?」
「ん、いいよー!」
そんな会話をしながら我が姉が袋から取り出したのは、コスプレとか映画でしか見たことのない白黒のヒラヒラした服……というかメイド服だった。
「え……それ、着るの?ボクが?」
「もちろんよ。そのために買ってきたんだから」
「無理だよ!ボクにそんなの似合うと思う?」
「私は全然可愛いと思うけどね。そもそも元が可愛いんだし」
「いや、ボクなんか可愛くないし!そもそも可愛いって言われても嬉しくない!」
「えー、私も見たいなー。可愛い真姫くんのメイド服!」
渚ちゃんまで可愛いとか……。
なんかくすぐったいような変な感じがするからやめてほしい。
「分かった、分かったよ着るよ!だからあんまり可愛いとか言わないで!」
「可愛いものを可愛いと言って何が悪いのよー」
「なんかムズムズするからやだ!」
「真姫が可愛いのは置いといて早いとこ着せましょうか」
「オッケー!」
二人とも凄くノリノリだ。
着ると言ってしまった以上、今さら逃げるわけにも行かないので大人しく着せられることにした。