女の子になったボク
これはボクが女の子になった日のこと。
ボクが目を覚ますとそこは自宅のベッドの上だった。
「うぅん……あれ、学校じゃない?」
昨日、どうしてたんだっけ。
えーと、たしか教室で熱を出して倒れちゃったんだったか。
と言うか誰かボクのベッドの横にいるのかな?
「あら、真姫!やーっと起きたのね」
「ん、お姉ちゃん?」
姉だった。
雨野早姫、ボクの姉でまあまあのブラコン。
有名な大学の医学部に余裕で合格したくらいには頭が良いのに、ボクのことになると何故か偏差値が下がる。
「はいはい。真姫の大好きなおねーちゃんですよー心配させよってこのやろー」
「うわっ!ちょっと、やめてよ!」
お姉ちゃんが抱きついてきた。
なんかいつもよりボディタッチ激しくない?
「やめてってば、弟に抱きついて何が楽しいんだよー!」
「んー?……あ、そっか!」
「え?」
お姉ちゃんはリビングに走って行って、五分ほどで帰ってきた。
「ほら、これ見てみなよ!」
一枚の紙を渡された。
「うん?なにこれ。えっと……雨野真姫さんを、性反転病、つまりTS病と診断しました。目が覚めたときには女性の体になっていると思われますが、少し熱が残る場合がありますので安静に……って」
ボクの名前の書いてる診断書ってことは、ボクが、TS病?
確かに書いてある通り熱っぽさも残ってるけど……。
「お風呂は熱もあるから駄目だし、体拭くだけでもやっとく?自分の体も見れるだろうし」
「あー……うん」
そう、自分の体の確認もしないと、だ。
TS病は性別の変化に伴って身長とか髪の長さが変わる場合が殆どらしいけど、髪も元々長いし顔つきも女顔で身長もかなり低かったせいか、外見的な変化はあまり無いみたいで、とても性別が変わったとは思えない。
「まあ、もうアレの感覚でわかってはいるんだけど……」
明らかに下半身のあの部分にあったものが無いから。
「でも興味はあるしね」
「必要なら姿見も持ってこようか?」
「うーん、どうせならちゃんと見た方が良いかな?」
ということで姿見も持ってきてもらった。
「さーて、どんな感じかなっと……」
思い切って服を脱いでみることにした。
「あら、結構大胆に行くのね?」
「なんか、自分の体だと思ったらね」
これから一生見ることになる自分の体に反応してても仕方ないじゃない?
いや、驚いてない訳じゃないけどね。
「ほんと、不思議な病気よね、これ」
「へ?」
「こうして、ほとんど一晩くらいで身体が完璧に女の子になっちゃうなんて、信じられないわ」
そう言ってボクの体をじっくりと観察する。
自分が実際に体験すると、とてもそんな凄いことには思えないけど。
「……ねえ」
「んー?」
「いや、そこまで近くで見られると流石に脱ぎづらいんだけど……」
「えー……じゃあ、私の存在を忘れたらいいんじゃない?」
「いいんじゃないって」
そんな無茶なことを言われても。
「部屋に居るのはいいから、せめてベッド辺りまで離れてよ!」
「もー、仕方ないわねー」
お姉ちゃんは、渋々、とでも言うような表情でベッドの上に座った。
なんでお姉ちゃんが不服そうなんだろうか?
「医者を目指してる身からして見れば経過観察をしたくなるものよ?」
「ボクは医者でも無いからそんなのわかりませんー」
シャツとズボンも脱いで下着のみの姿になった。
当然下着は男性用。
「……うん、ちょっとだけ胸があるかなー」
「パンツは?」
「え?」
「パンツは脱がないの?」
「いや……流石にボクだって元男なんだから、そこまでは出来ないよ?」
「あら、そう」
体が女の子になったとしても、男だったことを忘れるわけでもないしね。
「でも、どうせならもう少し胸があってもよかったなあ……」
「いや、それ普通に私よりあるからね?自分で言ってて悲しいけど」
うちの姉は貧乳だった。
ーーーーーー
うちの姉弟は……今は姉妹だけど、身長はそこまで変わらないのでしばらくはお姉ちゃんの服を下着も含めて借りることになった。
「まさかボクが女性用の服を着ることになるなんて……」
「まあ、治るようなものでもないし、慣れていくしかないわね」
「だよねー」
「ママにもメールはしたけど見てないみたいだし、帰って来たらどんな反応をするかしらね」
我が家はボクが生まれてすぐに父親が病気で死んでしまい、今はママとお姉ちゃんとの三人暮らしだけど、ママは日本語の教師の仕事のために海外に行くことが多く、一年の半分以上顔を合わせる時間は無い。
それでも、愛情はしっかりと感じているから特に嫌なこともないけどね。
「そういえばママもそろそろ帰ってくるって言ってたよね」
「そういえばそうね。でもママのそろそろってあんまり真に受けない方が良いわよ?この前もそんなこと言って帰ってきたの3ヶ月後とかだったし」
「まあ確かに……」
雨野美姫。
ボクの母親で海外に行き、日本語の教師として働いているけど、日本では英語塾の経営も同時にしている。
「とか言ってると帰ってきたりして……」
お姉ちゃんがそう言うと同時に玄関のドアが開く音がした。
「あれ、もしかして……」
お姉ちゃんと顔を見合わせた。
ドアを開けた人はそのままものすごい勢いで階段をかけ上がり、二階のボクの部屋まで来た。
「まーちゃん!大丈夫!?」
「帰って来るの早!?」
「……ん?あなた、ホントにまーちゃんなのよね?」
そう言って、確かめるようにボクの体を触り始めた。
そして、その手がボクがの胸に行った時だった。
「えっ、あれ、これって……!」
「あの、ママ?」
「これ、まーちゃんの?」
「そうだけど……」
「私の記憶ではまーちゃんって男の子だったんだけど。あー、なるほどそう言うこと」
ママがハッとしたように表情を変えた。
「TS病、よね?」
「うん」
「まーちゃんの学校から倒れたって聞いたときは驚いたけど、まさか、うちの子がなるとはねー」
「あんまり驚いてない?」
「もちろん驚いてるわよ?ただ、結構この目で見てきたから、受け入れられるだけ」
「やっぱり行ってた学校にもいたんだ」
「まあね」
そう言うと、ママは「よしっ」と言って立ち上がるとボクの手を掴んでこう言った。
「女の子の服、買いにいきましょうか!」