08
急遽、校庭に呪術師のテントが張られて、その中でマリア先生に憑いた病魔を払う儀式が行われた。
山の夕方なので、すぐ太陽が山の向こう側に行って、夜の闇に包まれ始める。
先生はキリスト教のシスターなので、このような邪教の集会で、呪術師のまじないなど受けてくれないのが普通だが、子豚たちが持ってきた正体不明の薬も飲めるだけ飲んでくれて、子豚共の心遣いを無下には断らなかった。
神学的には駄目なのだろうが、修道女長が乱入するようなら、ライカか子豚が止めてくれる。
「fdhしぎうghdl;sl;ふrhgdshgdslkふぁwfgslghsrlghsふぁsふぁsfl」
また意味不明の呪文を唱えながら、先生の周囲を踊り狂う呪術師。
こうやってトランス状態に入って行き、神憑り状態になって、神?の力で病魔を去らせ、手にしている骨で出来た槍で突くようだ。
テントの中では護摩の火が炊かれ、香草を焚べてみたり、病魔が嫌う状況を作っている。
サマネの格好は、全身を護符で覆った服と、頭ごと隠す仮面を被っていて、まるでラブライバーみたいで顔も出していない。
病魔に取り憑かれないように、正体がわからないようにしているそうだ。
私も修理屋から貰った魔法のナイフが有るので見学できているが、子どもたち全員退避させられ、私も顔出し禁止でマスクして医療用の防止被って、メガネだけ出るようにして見ている。
本来私も病魔なんか見えない普通の人間だが、眼鏡に魔法がかかっているので精霊も見える。
まだ経験が浅い医者だが、癌の病魔とはこんな奴なのだと初めて拝見した。
『キーーッ、キーーーッ!』
先生の腹の中から追い出され始め、苦しそうに太った体をくねらせている。
周りで見ている子豚たちからも、ガン見されながら思いっきり呪われているので、とても苦しそうだ。
子豚とか呪いの人形を知らなければ、こんなのも笑い話なのだが、病魔は実在する。
「病魔よ去れっ、我等の仲間から離れよっ、消えろっ、消えろっ!」
厳しい術と呪いで悲鳴を上げら、ついに先生から引きずり出された病魔、サマネも槍で刺して引っ張るが、手足では決して触れようとしない。
そこで病魔は別の宿主を探し、子豚で呪いのビスクドールに入ったりすると即死するので、私に向かってきたが、魔法のナイフがすっ飛んで行って病魔を刺した。
『ギエエエエエエエエッ!』
実体がない魔物なので、機械には認識されず、放電とかも全く効かなかったようだが、真っ黒なナイフは通じた。刀身は外注らしいが、作った奴なにもんだよ?
それでも病魔はナイフを抜こうとして暴れ、勢い余って護符を切ってしまい、護符だらけの場所に穴を開けた。
「いかんっ!」
その隙間から病魔が逃げ出そうとして、サマネも槍で刺したが、テントから逃げられてしまった。
「お前達っ」
テントの外に待機していた子豚が、骨で出来たブーメラン、骨製の投擲武器、空飛ぶ魔法のナイフ、色々と飛び交って病魔を叩き落とし、走って追いかけたサマネが、骨の槍で止めを刺した。
『ギャアアアアアアアアッ!』
悪は滅びた……
あの、私はこれでも西洋医学の医者の端くれで、癌の摘出手術とか外科は専門外だけど、何で病魔を退治する儀式にまで出席してんの?
「お前のナイフは病魔にも効いたよ、これからも医者で呪い師としてやって行くんなら、まずそれで病魔から切っておやり」
病魔を倒す所を見せて、今後も呪術師としてやっていけるよう見学させられてた。
「薬とかはその後だよ、まず誰かの呪いや病魔を倒してやれば、後は放っておいても治るもんさ」
「はあ」
これからの私は、呪術師としても成長を見込まれているようで、西洋医学を施す前に、まず呪術で病魔をぶった切って倒して、それから薬を出してやるように言われた。
何キャラの医者だよ。
さて、病魔の方は払ったから、後は薬が効けば先生の癌も治るはずなんだが、腫瘍を治す良い薬とか有るんだろうか? ゴサーイズで売ってると良いけど。
「先生、これも飲んで」
相変わらず、修理屋とか船長まで薬を差し出して飲ませている、こいつらは宇宙船まである先進科学が有る所から来ているから、イモリの黒焼きとかじゃないだろう。
「癒やしの精霊よ、願わくばこの者の病を癒やし給え」
呪術専門の呪術師、治療魔法も使える魔女、他にも精霊とか魔法世界の連中が並んで、治療魔法で癌を治している。
低レベル魔法では、癌とか結核は治せないのだが、病魔を祓える術者が根本原因を祓った後だから効くそうだ。
「エリーも精霊と契約して、魔法も覚えておきな、いつかきっと役に立つ時が来る」
「はあ」
近くにいるサマネの精霊も、「ごさいちゃんにモフモフさせてくれるなら、いつでも契約してやる」みたいに抱き上げて差し出してくるが、イヤイヤされてすぐに逃げられた。
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多分、精霊語で、「私が、私もあんたみたいに、ゴサイちゃんに懐かれていたらっ、私がオカータンだったならっ」と泣かれている。
今回のお礼と、呪殺されないように、子豚を数匹持ち上げて、精霊に無理矢理モフモフの刑をしてやると、白目剥いてビクンビクンしながら満足して、ヘヴン状態で精霊界に旅立っていった。
子豚語は分かっても、精霊語は分からないので、今の所契約のしようがない。薬代かからないみたいだから、契約できるものならそうしたいが。
「あら、もうすぐイエス様に会えると思ってたのに、もう治ってしまったの?」
神学的にはコレも間違っているんだろうが、先生は死ぬとイエス様に会えると思っていて、死ぬのも全然怖がっていない。
しばらく診療所には来なかったので、異常は感じていたのだろう。それでも運命と受け入れて、痛み止めすら飲まずに、苦痛すら天命として受け入れていたのに違いない。
修道女長とか来ると、邪教のまじないまで受けてしまったのを、散々イヤミを言われてから、正しい神学について説教されそうだが、救命措置なので勘弁して欲しい。
「あら?」
「何でっ?」
皺々のお婆さんだった先生が、突然若返り始めた。手足から皺が消えていたので気が付かなかったが、顔にまで達して皺が減って、どう見ても40代ぐらいに戻ったかと思えば、真っ白な白髪だった髪が伸びて、綺麗な金髪が伸びていく。
ちょっと回復速度が異常すぎるだろ。
「誰だっ、若返りの魔法まで掛けたのは、治療どころじゃないぞっ」
いや、子豚共も一人ひとりは適切な治療を施したはずだ、その数が重複しすぎたんだ。
「退避っ」
子豚共をテントの外に出して、護摩の火を消してから、マリア先生も出そうとしたが、髪の毛が長すぎて絡まってるのか起こせない。体の方も、もっと若返り始めた。
「ぐへぇ」
私もどうにかテントを出たが、隙間からも髪の毛が溢れ出した。
「先生っ」
テントの中が輝いて、何かすんごい化学変化が起こってる。
「始まりの時だ」
「ハレルーヤ」
何か子豚もありがたいものを見たように祈ってる。先生大丈夫なんだろうか? 黒魔術とか暗黒魔法とかはなかったように思うんだが?
テントが眩しすぎて、周囲にも何か輝く者が降りてきてるみたいで、稲光もあったりちょっと雨が降ったり、沈んだはずの太陽が、雲から光を反射して、なんか神々しい雰囲気になってる。
「あ~あ……」
とうとうテントをどけて、髪の毛と先生がはみ出して出てきた。どう見ても10歳以下、入れ歯とか差し歯も抜けて、新しい歯が生えてる。
「どうしたんです先生? 歯まで生えて」
治療前は反っ歯で出っ歯で歯並びも無茶苦茶な昔の人で、ガッツィーな顎をしていたのだが、子供の頃から柔らかいもの食べてる人の歯と顎になった。
「一旦、赤ちゃんまで若返って、この歳になったみたいですよ」
テントの中で、先生が赤ちゃんか卵細胞まで戻って、卵子の万能性ですべての傷とか病気が治って歯も生えて、それから小学生ぐらいまで成長したらしい。
赤ん坊まで戻った時に、伸びてる髪の毛とは離れたのか、肩までのセミロングになった。
「カツラがたくさん作れますね」
先生の外見年齢は、大体10歳以下で落ち着いてしまった。これ、教会と修道女長にどう言えば良いんだろうか?
「何事ですっ?」
そこでライカが抑えていた修道女長まで現場に来てしまった。
「ええ、ちょっと前から具合が悪かったんですけど、ごさいちゃんたちが治してくれて… ちょっと治りすぎて、若返ったようですよ」
「貴方、その声はシスターマリア?」
「ええ、そうです」
確か同郷で、学年は違うが同じ神学校に通った同窓生とか聞いたことが有る。
教会の問題が多いシスターだったが、今度こそバチカンに報告されてしまう。「若返りの奇跡」とかなんとか。
「エリーさんの見立てでは、癌のステージ3だったそうですよ。折角イエスさまに会いに行けると思ってましたのに、この通り治ってしまったようです」
「ふうっ」
先生本人は平気な顔してるが、修道女長は倒れてしまった。
「あんた達、またやらかしたわねっ、今度は何をやったのっ?」
ライカに怒鳴られて、整列させられる子豚たち、現場保持も出来たようなので、順番に聞き取り調査をしていく。
「何もしてないわよっ、ちょっといつもの治療呪文使っただけでしょ?」
魔女、特に問題なし。現実世界では有り得ないんだが。
「あたしは病魔を追い払って、止めを刺しただけだよ。回復祈願も少ししたけど」
呪術師、こちらも問題なし。
「俺も、いつもの薬を出しただけ」
船長、問題なさそうだが、中身は後で調べよう。
「普通の潰瘍が治る薬だよ」
修理屋、潰瘍薬だが、中身不明、ゴサーイズの薬だ。他は低レベル回復魔法と、飲み薬もイモリの黒焼き程度で効くわけがない。
「船長、薬の説明読んでみて、そっちの言葉読めないから」
薬のボトルに書いてある、細かい異世界語を読む船長。
「え~と、この薬は? 手足やボディーの変更前に、生身の部分を不死化する薬です、肝細胞と同じく細胞核を2個にして…」
「「お前か~~っ!」」
早速犯人候補が見つかった。普通の薬どころか、サイバネティック系の薬で、体をサイボーグ化して交換する前に、脳とか神経の酸素供給が切れても簡単に死なないようにする薬だ。
その上細胞核が増えるから、肝臓みたいに足りない部分が再生までする。
「プ、修理屋も説明書読んで」
「え~と、この薬は、潰瘍、火傷、欠損部分を即座に修復する薬です、手足を切断した場合は、姉妹品のスグナオールを併用して…」
「それもかいっ!」
欠損部分を即座に修復する薬とか、恐ろしいもんがゴサーイズ店頭で売ってる。その上姉妹品の薬があれば、手足の切断まで治る。これも原因だろう。
両方飲んだ後に治療呪文食らったりすると、赤ん坊か受精卵まで戻されて、記憶が残ったまま10代以下に若返って、体の欠損が全部治って、病気なんかも問答無用で治される、らしい。
子豚的にはいつもの事? なのだが、マリア先生からバチカンに経過報告されて「ごさいちゃんに癌の治療を受けたら若返りました」とか手紙とか電話されると、奇跡調査の審問官が来てしまう。
修道女長とか他のシスターが、「シスターライカは天使を呼び出せる方です」とか抜かしたりすると、「天使は実在した」とか、また騒ぎになる。
呪いのビスクドールが大量に存在していると、そっちも悪魔祓いだとか、指から銃剣生やす執行者とか守護者とか来て、全部祓われるかも知れない。
「どうするよ、これは誤魔化しようがない」
「特殊メイクでもするか?」
「宇宙船に乗せても若いのが保たれるだけだし、時間経過が早い逆の作用の装置作って、老けるまで偽物でも用意して……」
「幻術を掛けて、外見だけ元通りにするのはどう?」
とりあえず、魔女がどうにかできそうなので、幻術を頼んで見る。どうせもっと碌でもない事になりそうだが。
「マリア先生の外見、元通りにな~れ」
魔女が魔法のステッキを振る。実にいい加減な呪文だが、こいつと契約している精霊が大喜びで魔法を行使する。
謝礼はもちろん「ごさいちゃんモフモフさせて」だ。
光の精霊か、外見を自由に操作できる精霊が、マリア先生をさっきまでの姿に変えて行く。
「あ、戻った」
「結構いけるんじゃね?」
こうして、合法ロリBBAで中の人と外見が60歳と言う、お約束の先生が一人出来た。
先生は元々、寄生虫まみれの国で育ったので、身長は140cm少々。
産まれ直した?体は、今どきの栄養も行き渡った小学生として成長したのか、130cmぐらい有るので、服と背丈はごまかせそうな気がしないでもない。