07
ライカと一緒に教会に向かった紳士。子豚を取り上げられないと聞いて、絶望のズンドコからは救われたようだが、懺悔室で泣いていた。
「輸入相手の業者から、数人同行させて欲しいと頼まれましたっ、ゴサイきゅんの故郷に迷惑を掛けるとは思っていなかったんです」
「神は貴方の罪をお許しになります」
最近の悪魔か吸血鬼は、懺悔室で信者の告解を聞いて、悔い改めさせて神の許しまで与える権限があるようだ。
中東にも近い、イスラム圏にまで来る命知らずのベテランのシスターが多いこの場所だが、修道女長様からのキツイお達しにより、天使?ライカには特別な権限が与えられている。
普通なら先輩シスターとか、妖怪みたいなババアシスターから虐められたり、規律、仕来り、約束事で雁字搦めになりそうなものだが、本気出すと体が光ったり背後から後光が差したり、頭上に光輪が浮いてみたり、守護天使が何人か舞い降りて祝福するような女なので、あの修道女長のクソババアの方が、奇跡を見せられて跪いて十字を切って祈り、ライカに従ったと言われている。
悪魔に騙されているとは考えなかったのだろうか?
「それでは、うちのゴサイきゅんは、ゴサイきゅんは、ここに戻さないのですね?」
「はい、それには少し条件が」
「寄進致します、いくらでも」
相手は中国から品物を仕入れて、1ドルショップを経営している相手だ、いくらでも金は搾り取れるだろう」
「バッカルコーン」
ああ、やっちまった。
「うっ、うああああああああっ!」
懺悔室の懺悔を聞く側が光って、光る触手が告解側に迫る。
「お前は、私の下僕になるのだ」
「ぎゃあああああああああっ!」
何か、人類とは違う生物に作り変えられている、気の毒な紳士。
出てきた時にはいつものように、生まれ変わったような清々しい顔付きになっていて、その代償に生命エネルギーを失って白髪になったり、壮年の人物は老人になったり、ライカには絶対服従の下僕になって出てくる。
政治的にも利用できる場合は、別の人物から生命エネルギーを盗んできて、こちらに移し替えることもあるようだ。
もうシスター達も修道女長もバッカルコーンされた後なのか、懺悔室が光り輝いても、いつもの奇跡が起こっているんだと思い、十字を切ったり祈ったりしていた。
何か視界の端に、チョロっと天使が見えたような気がしないでもなかったが、多分幻覚だろう。
やがて紳士の吸収とか支配が終わると、やはり清々しい表情で出てきた。
何かすべての罪を赦された感じで、これからの余生も幸せに包まれたものになるのだろう。
敬虔なライカ信者として活動し、今までのように商売でガツガツ利益を上げるのではなく、家族を大切にして子豚とも意思が通じて、ここでボランティア活動等もして、満たされた人生を送るはずだ。
オマケとして、今日は中国人二人もバッカルコーンされて、紐付きで帰らされた。
余りにも幸せな表情をして、憑き物が落ちたような顔だとバレるので、一応顰めっ面のまま帰ったが、どうにかしてライカの所に情報を送り続け、さっきの紳士と同じで犬の喜びに満たされて、主君で主で飼い主に忠実な犬が数匹生み出された。
「ふう、人心地付いたねえ」
私の背中の上の呪術師が満足したのか、自分の肩を揉みながらリラックスしていた。
私の背中は、アガペーか子豚パワーの急速充電には最適なのか、パワースポットの一つらしい。
撤去したはずの両足のオプションも、別の子豚が充電に来てしまい、両足に抱っこちゃん人形を巻き付かせて歩いている。
もし魔法のジャングルブーツを貰っていなかったら、重量オーバーで疲れ果て、歩けなくなっていた所だ。
「fhfrghsぁ3うfsghwhだdがf」
何かサマネが「くあせふじこ」的な呪文を唱えて、私の背中で少し踊り、数人の外国人に「家に帰りなさい」の魔法をかけて追い払った。
バッカルコーンされて、食われないように配慮したのか、私にもアジールにもライカにも伝えずに追い返した。
「エリー、さっき見たけど、マリアちゃんどこか具合悪いよ。診察するか、呪術で病魔を追い払ったほうが良い」
「え? そうなの?」
マリア先生も忙しい人なので、常時子供の相手をさせられて、定期検診の健康診断を受ける以外に診療所に顔を出す暇がない。
サマネからすると子供扱いで「ちゃん」付けだが、60歳超えの御老体で、この付近の住民なら老衰で死んでいる年だ。
ごさい祭りの方も終了が16時だったから、予定通り終了して近所のババア共を追い返し、大金払って入場している金持ちが、「ゴサイちゃんとのお食事会」に参加するまで休憩になって、マリア先生を探してみた。
周囲1~2メートルぐらいを、常時子供が取り囲んでいる人物がマリア先生なので、比較的探しやすい。
結婚式に来ていた卒業生とかも、一体どこに行ったのか、子供だけ預けて、新婚旅行だと言って逃げて行ったそうだ。
やはり赤ん坊を育て疲れて、夜泣きにも疲れて捨てていったんじゃないかと思う。二人目を連れてきたら、親の方を殺してやる。
「あっちだよ」
サマネにも誘導されながらマリア先生を探す、私もここの学校で教えてもらってたから、今でもあちらの方が先生だ。
「それでね、法王様から直接お話してもらってね、ロザリオを頂いたのよ」
仮設の舞台の縁に座って、いつもの話を何度でもしている健忘症のお婆さん。子どもたちも何回も聞いただろうが、特に気にせず聞いている。
マリア先生は物怖じしないというか、少々アスペ気味なので、一切空気読まない。
若い頃、赴任先の独裁者に直接食って掛かって説教してやり、地獄行きの前に神の前に立って申し開きができるのか問い質したそうだ。
裸の王様だった独裁者も、若いシスターに怒鳴られてビックリして、国をどうすればよいか助言を求め、反政府勢力とも西側とも話し合わせて、議会が有るまともな国にして、本来政治介入してはいけない宗教関係者なのだが、後に法王様に面会して直接お褒めの言葉を賜ったそうだ。
キリスト教圏内で、40年ぐらい前にたった一人のシスターが独裁者に逆らって、射殺も拘束もされないで革命起こして、頭イカレてた独裁者を真人間に戻した経歴が有る、ある意味伝説の人だ。
その時独裁者に求婚されそうだが、還俗もせず教会に残ってイエス様にお仕えしている。
バチカン的にはここの修道女長より偉い人なのだが、法王様とお話しても、的はずれな受け答えをしてしまい、言い方は悪いが「アホの子」として記憶されているようだ。
法王庁から、世界を滅ぼす恐れがある「ごさい」と言う呪いのビスクドールで、怪獣が増え続けている場所に派遣され、見事に全員真人間と言うか真怪獣にした実績も有る。
ライカが世界を滅ぼしていないのも、マリア先生とパパのお陰だ。
ある意味、マリア先生が亡くなったりすると、子豚共とライカのタガが外れて、世界を滅ぼしてしまうかも知れない。
「マリア先生、ちょっと後ろから診察させて下さい」
「ええ、いいですよ」
基本、マリア先生は修道女なので、運命の時が来れば素直に天に旅立つ。
運命に逆らったり、無様に治療を受けまくったり、他人の臓器を移植されてまで無理に生きようとしてくれない。
痛み止め程度は飲んでくれるはずだが、人を惑わせている麻薬と同じ成分の、悪い薬だと知ると痛み止めも拒否しそうだ。
頭蓋内クリアー、脳腫瘍はない。呼吸器、心臓クリアー、胃腸、エラー有り?
「ステージ3っ?」
まだ無免許で、ヒポクラテスにもなんにも誓ってない小娘は、本人の意志に関係なく、驚いて大声を出して告知してしまった。先生に医学の知識がなければ良いのだが?
これは? でも携帯用医療機器であるゲーム機と、連動している眼鏡が診断結果を出してしまった。
胃ガンのステージ3、それもカリエスとか治せない奴で、胃を大半切除しても、既に転移してしまい、感染症にも掛かって治せない系統のガンだ。
「あら、ガンのステージ3? もうすぐイエス様に会いに行けるのね」
あっさりバレてしまった。狼狽えた私は、子豚互助会への通報義務と救助要請を同時にした。
あちこちで子豚の携帯に着信音が鳴り、速報を見ている、内容はもちろん「マリア先生、ステージ3の胃がん、救助求む」だ。
「「「「「「ごさ~いっ!」」」」」」
「「「「「「ゴッサイッ!」」」」」」
今度は子豚がここに集結してくる「ドドドドド」と言う足音が聞こえてきた。
「先生、薬よっ」
「俺も持ってる」
子豚の常備薬。大半が医学も存在しない未開の場所出身が多いので、せいぜい熊の胆とか、アルプスに埋まってたアイスマンも持ってた、ビールのホップから作った胃薬、痛み止め程度の薬草だ。
「あら、こんなに沢山飲みきれないわ」
あっと言う間に寄付用の袋一杯分ぐらいの薬が集まったが、伝承の薬草とか呪い師の灰とかはご遠慮願おう。
一人だけ、本物の呪術師が居るが、既に私の背中から降りて、病魔を呪殺する呪いの準備に入っている。
「えー、医学がある世界の薬だけ受け付ける。ここと同じでガンを治せない場所のも却下。まず呪術師の儀式が有る、他には回復魔法が使える奴限定」
「「「ごさ~い」」」
何か不満があるようだが、ここの医学では先生を救えないので、先進医学が有る所か、人智を超えた魔法世界の者限定にした。
「魔女回復魔法は後にしな、病魔を太らせるだけだ。まずあたしが病魔を追い出して始末するから、魔法はその後だよ」