03
ゴサ~イズのイートインにあるカウンターで、コーラなど出されて飲んでいた私達。
普段、私も取引や通訳に駆り出されるので、飲み食いは無料だ。
この場所は、街にある看板も出していない中華料理屋とか喫煙所と同じで、ここで管を巻いている奴らの集合場所で休憩所、違う意味でのファミリーの警備員詰め所。
何か問題が起これば、ここに居る全員でカチコミに行って、子豚の敵を倒しに行くので、謝礼が出る時もあれば、貧しすぎて七人の侍とか荒野の七人状態で、農民には何も出せない事もある。
そんな時でも、このイートインなら子豚限定で飲み食い自由、お土産貰ったり、薬買って行ったり、店の品揃えが良いので何でもある。
稼ぎで言うと、地方領主の君主が開いているギルドの方が評判も良く、最低限、異世界間運搬の仕事があるらしい。
こちらは密貿易の拠点の片割れで、物を運び終われば、ここで軽食か、孤児院でガッツリ飯を食って寝ていれば良いので、出稼ぎ的に運び屋やトラックの運ちゃんみたいな生活をして稼いでいる子豚もいる。
さっきの姉子豚も、農家の稼ぎなんかよりも、ここの方が遥かに稼げるので、領主の所で運び屋をやって日当を稼ぎ、ここならオバハン達が好きなだけ食わせてくれるので宿泊して、週末にはゴサ~イズで買い物をして、家族の所に土産を持って帰る生活をするんじゃないかと思う。
舞台上の演目は、さっきの赤ちゃんを連れて来た夫婦の結婚式だったが、観客のオバハンとか招待客全員トイレタイム。
男女とも、後輩からも大して好かれていない先輩で、友人だけ残って祝福したり、保育係でも仲が良かったオバハンだけが見守っていた。
今年卒業の子豚を引き取る契約をした資産家は、子豚を連れ帰る準備に入って、教会やイスラム寺院に寄進したり、孤児院側に入金したり、もう舞台なんか見ていない。
里親に引き取られて行く子豚だが、言葉か心が通じるか、相手が聖人同然の人物の時だけ、父親母親と認識する。
ここを出ていってもオトータンは孤児院のパパで、オバータンはマリア先生なのは変わらない。
話が通じないので、ここで子供の頃から子豚と一緒に過ごして、カタコトでも通訳ができる友達も一緒に引き取られて雇われる。
友人になったり、子供の頃から一緒に育ち、どこかのラモックスさんみたいな子豚が「この子は私が育てた」という場合は言葉が通じるらしい。
教会とかイスラム寺院に居るのは、いつものロボットみたいな宗教信者で、神を盲信して与えられた規則を守っているだけで、聖人でも何でもない。
神の教えが「隣人を愛せ」ではなく「異教徒を殺せ」だったら、笑顔でそうする化物揃いだ。
私もトイレタイムにして、一般用トイレは混んでいたので、子豚用トイレを借りにゴサーイズの裏手に入った。
「なあ、売ってくれよ、金なら幾らでも出す」
「ええ~? どうしようかな~」
影でコソコソと、何かの取引を持ちかけられている女の子。ろくでもない現場に出くわした。
ここで羊飼いとか山羊飼いを任されている娘で、狼も居るような山なのに、一匹も損失を出していない珍しい子だ。
名前はターニャと言う孤児で、中学生ぐらいで経歴は不明。カタコトのごさい語は話せても通訳は無理なレベル。
性格が悪すぎて友達もほとんど居ないが、「この娘は私が育てた!」と言い張る姉子豚が居るので、その子豚を売り渡すような取引をしているんじゃないだろうか?
一応階段で姿を隠して盗み聞きしておく、子豚取引とか、自分の体とか他の子供の売買をしたら、金では子豚を買えないオバハンどもに袋叩きにされて追い出されるんじゃないかと思う。
「じゃあ、1万ドル出す、売ってくれ?」
「ええっ? 1万ドルってラリにしていくら?」
予想外の金額を提示されたようで、ハトが豆鉄砲食らったような顔をしている。ラリと言うのは、この国のゴミみたいな通貨だ。
「さて? 空港では千ドル400万ぐらいだったから、大体4千万だ」
「へ、へえ、そんな値段なんだ?」
腰を抜かす前に後ろを向いて壁に寄りかかり、ガタガタ震え出さないようにしているが、相手にもモロバレだ。
「ああ、ここなら多分、家でも買えるぞ」
もうここからトンズラしてでも金を手に入れる気になったらしく、ターニャは肩から掛けたカバンから、携帯用ゲーム機を出した。
「こ、これでいいの」
姉子豚にもらったかパクった携帯ゲーム、確か謎技術で今のプレステでもニンテンドーでも携帯できるようにしてある奴だ。
ソフトはネットでダウンロードしたのをコピーしまくり、全員が試用版を制限解除した海賊版で遊んでいる。
「そう、それだっ、1万ドルで売ってくれるな?」
ああ、アメリカの奴が来てたのって、これが理由のようだ。前の出入り、大喧嘩の時に、参加した全員に配られたゲーム機で電話。
子豚的には安物のゲーム機で喜ばなかったが、電気もない世界から来た奴には、お土産として喜ばれていた。
パズル物とかアクションゲーム、FPSの残虐ゲームに飛行機物、言葉関係なしに遊べるのしか入ってない、RPGとか台詞入りは無理だが、それでもゲーム100本以上入って、ここと地方領主の世界では携帯電話としても使える。
輸出禁止で持ち出し禁止、ココム違反レベルで人類に渡してはならない品物で、こんな場所には存在してはならないオーパーツ。
ブルーレイディスクにして500枚以上簡単に記憶できるチップとホログラフモニターが、英語訛のロシア語を話す、アメリカ人と思われる奴の手に渡った。
デストロンの親玉の残骸とか、コンボイ司令官の残骸みたいな物が、アメリカの掌中に落ちる訳だ。
「待て、それは持ち出し禁止だぞ、ターニャ」
子豚の売買ではなかったが、持ち出し禁止のゲーム機を渡した現場を押さえたので、後でお仕置きだ。
「あっ」
ドルを使うアメリカ人らしき男が、そのままゲーム機を引ったくって、更に見せ金を撒いてから逃走した。
「ああっ、お金っ、お金~」
ターニャが金を拾い集めている間に逃げた男。ゲーム機は携帯と一緒で、子豚の鼻紋認証を受けないと起動しないし、こちらで操作すると端末を使用不能にも出来たはずだ。
「おい、アメ公がゲーム機持って行ったぞ、ターニャから買おうとしてた」
ごさい待機所の溜まり場で言うと、何人かが追いかけて行った。
機械の制作設計、コピーや解析担当のゲーム猿3人とか、雀ゴッチャイに伝わると、捕まるかゲーム機を破壊されるはずだが、車でこの敷地を出て山を降りていくと、すぐ銃撃戦の音が聞こえたので、他の陣営と争奪戦になったようだ。
ごさい祭りへの参加入場券も高値で取引されていて、ロシアとか、中国とか、EUとかで争奪戦。アレは外ではそのぐらいの貴重品、らしい。
そんなに大した事件ではなかったので、追手もかからず人間たちだけで自滅したようだ。
後日の新聞では街の駅で列車が爆破されたり、空港でも銃撃戦があったり、港近くまで逃げ延びた奴が、ボートで外国に出国しようとして遭難したり、隣の国にボートと遺体が流されたりしたそうだ。
サーバーからの操作で、電話機能もゲーム機能もアカウントロック、ユアアイズオンリーな品は、バラバラにされても自動的に消滅して、主要チップを破壊して自壊したらしい。
大作くんとロボが出動したり、セルバンテスの叔父さんのGR2と戦ったりする、大事件にはならなかった。
「ヤダ~、お姉ちゃん、あたしごさいに捕まっちゃた~、エッチな取り調べされちゃう~」
一応ターニャが捕まって、投網で包まれたまま子豚警察に連行されていく。
私の方を見て、助けて欲しいのか欲しくないのか、ニヤニヤしながら子豚から特別待遇なのを自慢しているようだ。
あいつも小動物の子供とかに目がなく、子豚も大好きで汚染されて魅了されて籠絡済みだから、取り調べでも構ってもらえるのが嬉しいのだろう。
こちらは「来て欲しくないのに勝手に寄ってくる」から、何かイタズラでもしないと捕まえてもらえない奴とは違う。
ゲーム機を売った金も押収され、偽札だとばかり思っていた金は本物のドルで、8千ドルぐらいあったそうだ。
残りはターニャがガメてパンツの中とかに隠している、私も100ドル札拾っておけば、一日の収入の数十倍になっていただろう。
私も電話として1台貰っているから、売ると… 金にならずに捕まって教会の悪魔に殺されそうだ。
「ゴッチャイッ」
「何? ターニャ捕まってたけど?」
そこで銃撃戦の方に気付いたのか、教会から見習いシスターの悪魔、ライカが来た。鷹匠みたいに腕に雀ゴッチャイを乗せている。
「ああ、子豚用のゲーム機、アメリカ人か誰かに売り渡そうとしたのよ」
「へえ? それで外国人とか入ってきてるのね」
見習いでも一応シスターの格好をして、貞淑の誓いとかもしてるんだろうが、どう見ても暴力教会にいるCIAのシスターみたいだ。
私より1個上だから、高校生ぐらいのはずだが、やたら貫禄がある。
金髪青目のコーカソイドで、スラブ系だからキリスト教徒なのだが、小学校時代から暴力関係で目を付けられ、相手が大きな男の子でも無敵無敗。
上級生でも「一度ぶっ飛ばされてから一目惚れよ」みたいな感じで、下僕同然にした卒業生のマフィアに雇われて、用心棒みたいな事までやっていた。
テロリスト兄妹に聞いたが、コイツには拳銃も何も効かないらしい。吸血鬼なのかストーンゴーレムで、子豚共の上位機種の呪いの人形かも知れない。
「コダー」
「うるさい」
ライカを見ると、新入りの運び屋とか来客の子豚は、必ず上の方を指差してコダーと呼ぶ。
人間にはこいつの正体は見えないが、子豚共には異世界とか4次元の化物が憑いているのが見えるそうだ。
こんな悪魔で化物は、教会のシスターに採用されるはずがないのだが、地域住民に教会が襲撃された時の最終防衛線として、カラシニコフの銃身全部ひん曲げてでも守りきったので許された。
「コーラ頂戴、この子はりんごジュース」
「ゴッチャンDEATH」
他にも、眉唾物の噂では、修道女長とかには天使が降臨する所を見せてやったそうで、二人っきりの時は「天使ライカ」と呼ばれているらしい。
「子豚、高く売れた?」
「人聞きの悪い事言わないで、教会かイスラム寺院に寄進をして頂いて、この孤児院にも多額の寄付をして頂いたのよ、神に感謝しましょう」
最近の悪魔とかヴァンパイアは、デイウォーカーで十字架も白木の杭も銀の弾丸も効かないし、シスターの格好して教会の宿房に住んでる。
首から十字架下げて、指で十字切っても苦しまないし、ニンニク料理でも平気だ。
「船長、貴方の国では金が安いそうねえ? 寄付して頂ける?」
「はい… 分かりました」
お布施用の袋を出して、船長をゆする化物、子豚の中では最強に近い船長も、ライカには勝てないし、逆らうと破壊される。
何人かに集られて、金貨も銀貨も取られた後なのに「ちょっとジャンプしてみろや?」みたいな目で見られると、財布やポケットの中身を全額カツアゲされた。
「姐さんは凄えなあ、腕も立つし度胸もある」
「あはっ、それじゃあ私が海賊みたいじゃないの」
片足の船長と腕相撲しても、多分こいつが勝つ。
海賊行為もしているし、暴力で密貿易のみかじめ料まで取っている。孤児院がおこぼれを貰って建物を新築できたのはこいつのお陰だ。
ちなみに孤児院の経営をパパがやると、財布の底もポケットの底も抜けている人なので、孤児を集めすぎて一瞬で経営が立ち行かなくなるので、卒業した姉妹と教会でやっている。
「「俺達に出来ないことを平然とやってのける、そこにシビれる憧れる~」」
「それじゃあ私が人間を辞めたみたいじゃない」
とっくに辞めてるし、こいつが「バッカルコーン」とか言うと、超必殺技で血を吸われたり、命を吸われたりするそうだ。なぜ日中でも出歩けるんだろうか?
幼少時代を子豚と過ごしていないので、ごさい語ネイティブじゃないはずだが、何故か会話もできる。ライカだけは言語として子豚語を覚えた。
そうこうしている間に、さっきの姉子豚が着替えて、案内したメス子豚たちと出てきた。
上着は農村で目立たない茶色にして、野良仕事に向いた頑丈な作業ズボンと靴。
この近くでも、女が髪出して歩いて、足が出るような服装で一人で歩いて、車運転したりアルコールまで飲んでいると、イージライダーみたいに射殺されるか、顔に硫酸ぶっかけられる。
素人参加の歌番組も始まって、女が歌うのも許されたが、もし拍子にあわせて踊ったりすると、イスラム寺院から処刑宣告が出されたり、その前に親族によって名誉殺人で殺される。
白人の異教徒が多いので、もしロシア人とかアメリカ人射殺すると、ロシア軍が来て一族郎党男全員殺されるか、女全員レイプされて、国外にでも出ないと名誉殺人で死ぬので、白人と黒人は殺されない。
ユー・ガッタ・チャンスにはならないし、スラムドッグがミリオネアになろうとしたら当然のように事故にあって死ぬ。
「船長、なんてお礼をいったらいいか」
「いいってことよ姉さん、それともカーチャンかな?」
「ええ、弟が60歳だから、私は5つ上で…」
バーチャンだった。
その上医療技術もない世界の60歳って言ったら、老衰じゃないのか?
「やっぱり姉さんだ。俺も50過ぎだから、そろそろ船降りて、地上勤務するよう言われて困ってるんだ」
わざわざ服とか薬とか、金に関わる話題から外れようとしているので、やっぱり「ヒューー」と口笛を吹かないといけない。でも50過ぎのジジイだ。
「船長、女の子の服を見たら褒めてあげるものよ」
「「ヒュ~~」」
他の子豚が、舐め上げるように見て口笛吹いたので、メス子豚にぶん殴られた。
「そうだった、地味な服選ぶから気が付かなかったよ、もっとピンクとか赤の、派手派手のにしたらいいのに」
平屋のゴサーイズに、なぜ子豚用全サイズ全色の服と靴、私にも合う服があるか不思議だが、サイズや色を選ぶと何でも出てきて、覗き込むと壁のはずのさらに奥、遥か彼方まで服が掛かっていて、それ以降怖くなって見ないようにしている。
「村ではそんな派手な格好してる人いないのよ」
姉子豚の表情が、恋する女の子の目なのが怖い。65歳のババアと50杉のジジイの恋愛とか見たくない。
まあ子豚同志は結婚しないし子供も出来ない、ビスクドールの方も、ごさい樹の木から生えてくる柔らかい方も、子供はできないようだ。
異世界でも、子豚と結婚してるロリコンとかショタコンが居るともっと怖い。
「あんた達、付き合っちゃいなよ、これからここに出稼ぎに来るんだし」
「いえ、私には去年亡くなった夫が」
やっぱり結婚してたんかいっ! 5才児程度の子と結婚とかどんな強者だよ? まあ農村なら家族が決めて、無理矢理結婚とかも有るかもしれない。
「さっきの舞台みたいに、子供の頃から一緒に育って、好きあって一緒になった人だから」
恋愛結婚だった……
でもこれからはオトートとかイモート、さらにその子供や孫を育てて「この子は私が育てた!」状態なので、孫?のために出稼ぎに来て稼ぐそうなので、ババアとジジイの恋の花が咲いたり、男が船長の男っぷりに惚れて、色々とハッテンするかもしれない。
「今日借りた分は、働いて返すわ」
「いいってことよ、俺のところはゴールドが安いんだ」
「「「ヒュ~~~」」」
今度の口笛は正しい意味だったので、一同ぶん殴られなかった。